2022年5月12日木曜日

【レジスタンス軍が本気を出してしまった】第1話「皆殺しだ」【ソニックフォース二次小説】

■あらすじ
ソニックフォースの二次小説。約5年前に綴ったボツ案を供養する奴。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【Pixiv】で多重投稿されております。

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【第1話「皆殺しだ」】は追記からどうぞ。

第1話「皆殺しだ」

「おう、手前が今日配属された新入りか! 気張れよ!」

 ドンッと背中を思いっきり叩かれ、新入り――アバターは思わず噎せ返りながらたたらを踏む。
 先輩に当たるベクターを見上げながら、アバターはしっかり床を踏み締め、作戦会議が行われている会議室に足を踏み入れる。
 ――ソニックを倒したDr.エッグマンの軍団に世界の九十九パーセントを制圧された現在、住民の唯一の拠り所は、ナックルズが大隊長を務めるレジスタンス軍だ。
 新入り――アバターと言う名の、元市街地の住民だった少年は、インフィニットと呼ばれる仮面の男の襲撃を受けたにも拘らず生還を果たした勇士として、本日を以てレジスタンス軍に正式に迎え入れられた。
「で、ナックルズ。状況はどうだ?」ベクターが手のひらを天井に向けて小首を傾げる。「最高か?」
「これが最高なら、明日にでも地上は楽園になっちまうだろうな」肩を竦めて応じるナックルズ。「もうソニックが倒されてから半年が経っちまった。状況は好転しないまま、地上の九割九分九厘がエッグマン軍の占領地だ。敗走に敗走を重ね、いよいよ俺達も決断を迫られる段階に来た」
 アバターは思わず生唾を呑み込んだ。状況が切迫している事は察しているつもりだったが、既にレジスタンス軍ですら虫の息だと言う事実が、すぐには心に浸透していかない。
 最早エッグマン帝国の建国は時間の問題……やはりソニックがいなければ、この世界は滅ぶしかないのか……とアバターが沈鬱な溜め息を漏らそうとしたその時、ナックルズが「地上をエッグマン軍に奪われるぐらいなら……」と震えた声を落とした。
 レジスタンス軍の幹部が雁首揃えて見守る中、ナックルズがネジの外れた笑みを浮かべて、両手を組み合わせて告げた。
「地上をエッグマン軍に奪われるぐらいなら……奴らごと破壊してやる……」カタカタと震える指で、ナックルズが笑っている。「地上にウィスプを流し込め。――皆殺しだ」
 幹部全員が慄然とした表情を浮かべて固まっている。
 遂に頭がおかしくなったのか――そう、顔に書いてある。
 アバターも言葉を失って見守っていたが、ややあってシルバーが「……ナックルズ、気持ちは分かるが、それは愚策中の愚策。オレ達も無事じゃ済まない」と、宥めるように彼の肩を叩いた。
「聞こえなかったか?」シルバーを瞳だけで追うナックルズ。「俺達には奪われたら死しかないんだ。だったら、エッグマンのロボット共も道連れだ。エッグマンも、あの仮面の野郎も、皆殺しだ。ソニックを倒した野郎共を生かしちゃおけねえ」
 ――やべーぞこのレジスタンス軍。
 正気を失っている大隊長を見つめて、アバターは早速入隊した事を後悔した。あまりに惨たらしい現実を受け止め切れていない大隊長の無慈悲な作戦に、幹部ですら閉口している。
 これが現実か……と、アバターは沈鬱な表情で俯く。
 戦争はあらゆる存在を殺していく。人命や物資だけではない、価値観や感性、認識や死生観すら、狂わせ、殺していくのだ。
「……自分も、このまま黙って奴らに領地を明け渡すのは、反対だ」エスピオが腕を組んだまま、眼光鋭くシルバーを睨み据えた。「奇蹟を待ち望んでいたが、訪れなかった。ならば我らがその奇蹟を起こさねばなるまい。一寸の虫にも五分の魂……我らがエッグマン軍を相手取ってどれほど力不足であろうとも、意地も根性も有る。底力を見せねば、死んでも死に切れまい」
「――策は有んのか?」ベクターがエスピオとナックルズに交互に視線を飛ばす。「たとえ成功率が一パーセントだろうと、有るなら乗るぜ俺様は。エッグマンに良いようにされるのは我慢ならねえし、出来る事を全てやってから諦めるもんだろ」
「エッグマンの懐刀の仮面の男が難敵だけど、」エミーが端末を操作してモニターに地上の戦力図を表示させた。「エッグマン軍があまりにも多過ぎるのが当面の問題よ。一体一体の火力も侮れないけど、何よりもその膨大な物量で押されているからね。これをどうにかしない限り、アタシ達に打つ手は無いわ」
 幹部達が黙り込む。
 戦争は最早終わりが近い段階まで進行しているのだ、打開策など早々出てくる訳が――「みんな、聞いてくれ」ダンッ、とテーブルを叩いて、ナックルズが注目を集めた。
「これを見てくれ」と言って、ナックルズはテーブルの下から取り出した、人間の頭ぐらいの大きさの兵器を見せた。「ウィスポン、と言うウィスプの力を借りた兵器なんだが、これをテイルスに大量発注を掛けた」
「それが、戦争を引っ繰り返す鍵って事か?」シルバーが片眉を持ち上げる。「誰が扱う?」
「新入り、お前が実験台だ」ポン、と突然肩を叩かれて驚くアバター。「兵器を扱う事に先入観が無いお前にしか頼めない事だ。これを使って、グリーンヒルに存在が確認された兵器工場を襲撃してくれ。同伴にシルバーを付ける。行けるな?」
 えっ、嘘でしょ? とアバターの顔には書いてあったが、ナックルズは二度肩を叩いて、「シルバーは頼りになる、しっかり勉強してこいよ」とサムズアップされては、もう何も言えなかった。
 シルバーも「あぁ、オレも極力サポートするから、お前は自由に暴れてくれ。それでそのウィスポンとやらの性能が測れたら、レジスタンス軍にとっても大きな収穫だ。頼むぜ」と肩を叩いて、そのまま会議室を出て行ってしまう。
 アバターは手に装着したその兵器――赤いウィスポンを見下ろして、それから天井を仰いだ。
 こんな確定している負け戦に、オレは馳せ参じなければならないのか……
 そう、思わず嘆いてしまいそうになるも、その感想が覆る未来が訪れる事を、彼はこの時、知る由も無かった。

 ――そうして、ソニックが倒された世界の、地上を取り戻す戦争は、ひっそりと幕を開けたのだった。

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