2022年5月12日木曜日

【ネトゲ百合】第23話 ほろあまの日〈5〉【オリジナル小説】

■あらすじ
ネトゲで好きになってしまった相手は、きっと異性だと思っていた。

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【第23話 ほろあまの日〈5〉】は追記からどうぞ。

ほろあまの日〈5〉


◇◆◇◆◇>>ジン<<◇◆◇◆◇

 学校帰り。昨日の失態を謝ろうと、もぺ子さんのいる喫茶店を訪ねると、店内には何故か座長さんも一緒にいて、私を観た瞬間、とても気まずそうに顔を曇らせたのが分かった。
 やっぱり、昨日やらかしたんだな私……! と思って顔が真っ赤になるのを抑えられず、このまま踵を返して帰りそうになったけれど、踏み止まって店内に足を踏み入れる。
「あ、あの!」「あ、あの、」「おう、あのね、」
 私、座長さん、もぺ子さんの声が丁度重なって、互いに顔を見合わせて、――噴き出した。
「ごめんなさい、えと、そうじゃなくて……!」「あああ違うの笑うつもりは無くて……!」「何だ何だ落ち着けお前らハウリングして誰が何言ってるか分からん」
 私、座長さん、もぺ子さんが一斉に喋るから訳の分からない状態に陥りかけていた。それがまた面白くて、三人して笑い合ってしまう。
「ごほんっ! あたしから良いかな!?」 大きな空咳と一緒に大声を張り上げる座長さん。「ジンちゃん! 昨日はほんっっとごめん」腰を九十度に曲げ、深々と頭を下げる座長さん。「これ以上ジンちゃんと一緒にいたらいけないと思ったから、それで――――」
「まっ、えっ!? ちょっ、待ってください待ってください! 座長さん待って!」慌てて座長さんの肩を揺さ振る。「一方的過ぎるよ! そんな、だって、わたし……!」
 突然の出来事過ぎて、訳も分からず涙が溢れてくる。どうしてこんな事になってしまったんだ。私が悪かったんだろうか。私が、座長さんの話を聞きに行かなければ……
 泣き崩れそうになったのを見咎めた座長さんが、「あああ待って違うの! あああ泣かないで違うんだって寧ろ泣きたいのはあたしの方で……っ」と私の腕を掴んで必死に顔を横に振るも、その瞳には徐々に涙が浮かび上がってきていた。
「座長さん……っ」
「はいはーい、勝手にエキサイティングするなー。取り敢えず話を聞け聞けーい。会話をしろ会話を」
 パンパン、と手を叩いて意識を向けさせるもぺ子さん。
 その時になって初めて私は座長さんと抱き合っている事に気づいて、頭が爆発するような恥ずかしさに満たされた。
 座長さんもその事実に気づいたのか、慌てて取り繕うようにワタワタと両手が宙をさ迷った後、「ごほんっ!」と大きく咳払いをした。
「……えっとね、やっぱりこう、ね。まだ知り合って間もないよく分からないおばさんと、こう……頻繁に会うのって、良くない……うん、良くないと思うのよ。だからその……リアルじゃなくて、ゲームの方での交流をね、たくさんした方が良いんじゃないかって……思って……」
 座長さん、言いながら段々と落ち込んでいく様子が見て取れてこっちが焦り始めてしまう奴だった。
「そ、そんな事……!」
「はい、じゃあ本心は?」私の返答を待たずに、もぺ子さんが間髪入れずに告げた。
「ジンちゃんともっと一緒にいたいぃぃぃ~~~~~!」ひざまずいて駄々をこねるように床を殴り始める座長さんがそこにいた。「でもダメなんだってぇぇぇ~~~~~! こんな不審者おばさんと一緒にいたらジンちゃんが不幸だよぉぉぉ~~~~~!」
 わんわんと泣いている座長さんを見下ろしていると、一気に冷静さが戻ってきて、同時に座長さんへの愛しさが限界突破した。
「もぺ子さん! この座長さん、お持ち帰りしても!?」「ジンちゃんも落ち着いてくれ。ダメだぞマトモ枠がわしだけになったら地獄の始まりだから」どうどう、と宥めるように手を上下させるもぺ子さん。
 もぺ子さんが頭が痛そうに溜め息を吐いている。
「えぇーっと、元はと言えばわしが悪いんだけど、二人ともぱっぱらぱー過ぎて展開がおかしくなったね。うん。何か済まんな」
 もぺ子さんがどうにでもなーれって感じて笑っている。ザ・他人事って感じで、思わず噴き出しかけてしまった。
「わぁーっ! ごめんよーっ! ごめんよーっ!」
 座長さんは床を殴りながらひたすら泣き喚いていて。
「こんな座長さんが見られるなんて……はぁ……はぁ……」
 私は興奮のあまりスマフォーンで撮影しようとしたらもぺ子さんに止められていた。
 訳の分からない状況過ぎて、お客さんが誰もいなくてほんと良かったなって、後からめちゃくちゃ思う事になるのだった。


◇◆◇◆◇>>座長<<◇◆◇◆◇

「えぇー……っと。大変お見苦しい痴態を見せました……」
 もぺ子の喫茶店で土下座をするあたしである。
「座長さん、頭を上げてください! わたし、全然気にしてませんから!」と懸命に宥めてくれるジンちゃんの顔が若干笑みの形になっている気がするけど気にしない事にした。
「おう、もうアルコールキメてるならそう言えよ?」このもぺ子は後で七十発は殴らずにいられない感じだ。
 頭を上げて、改めてジンちゃんと見つめ合う。
 ジンちゃんはどこか気恥ずかしそうにしていたものの、何かしらの覚悟が決まったのか、「……こほん、」と小さく咳払いして、改めてあたしと視線を合わせた。
「今回はその……わたしも、勝手に座長さんの話を聞きに来るって言う、ズルい事をしたので、それでお相子ってなりませんか……?」
「へぁ? あたしの話を……?」何で? と言う顔で小首を傾げてしまう。
「えッ。それは……その……」ジンちゃんが言い難そうに視線を逸らしている。「やっぱりこう、座長さんの事が……知りたい……から……?」
「そうそう。やべー奴じゃないか探りを入れたかったんだって」鼻をほじりながら、もぺ子が逆鱗をごしごし擦ってくる。
「そッ、……そういう……訳じゃないんですけれど……えぇと、まぁそれは良いんですよ!」それはおいといて、のジェスチャーをするジンちゃん。「昨日はあの後、お母さんにめっちゃくちゃ怒られて、でも――わたし、まだまだ座長さんと一緒にいたいって言ったら、許してくれましたから!」
 待ってくれ――――あたしの涙腺が今またしても決壊した――――
「ごめんねぇ……あたしみたいなおばさんに絡まれちゃってまぁ~……」顔が上げられないぐらい顔がもうベシャベシャだった。「ありがとうねぇ……」
「あ……あの……! 突然こんなキュンキュンする事になると思ってなくて、あの……! 撮影……!」「それはやめて差し上げて」ジンちゃんがスマフォーンでもたもたしてるところをもぺ子に止められてる気がする。
 ……そうして、情緒と感情が行方不明になったトンチキ騒ぎはこれにて一旦落ち着くのだった。
 落ち着いた……? いいや、落ち着いて欲しい、と言うあたしの切なる願望だったのかも知れない。
 ほろ苦くも甘ったるいその日は、間近に迫っていた。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    なんかこう、とっても素敵なトンチキ騒ぎw
    ほんといっつもモダモダしてた二人がこんなに感情を爆発(いやむしろ暴発か?)させるとは…嬉しいやら恥ずかしいやらでございます!

    みんな気をつけろ!第二波、第三波……まだまだたたみかけてくるはずだっっっ!!!

    ところで、通販開始された【ネトゲ百合①】ですがまだ届きません。一説によると悪質な転売ヤーが不当な利益を得るために買い占めていて、善良な善良な読者の手元になかなか届かないというもぺ子さんもびっくりな事態がおこっているとかいないとか…先生、裏山の油田少し分けてあげるので融通きかせてちょうだいな(´∀`*)ウフフ

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想コメント有り難う御座いまする~!(´▽`*)

      素敵なトンチキ騒ぎ…!ww まさにそんな感じに仕上がりました…!ww
      それwwww爆発と言うより寧ろ暴発感がしゅごい感じにwwww観てる方が嬉しくなったり恥ずかしくなったりしちゃう奴…!www

      ま、まだまだ波が来る…!?!?! 大変な事になってしまう…!wwwww(笑)

      にゃんだってー!?!?! 印刷所さんがんばれ超がんばれ!!って転売ヤーの仕業だと許さん!!!!!! 奴らは根絶やしにせねば…!!!! 裏山の油田で何とかなるの笑うwwwwwwwwww(笑)

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいでする~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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