2022年10月11日火曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第36話【FF14二次小説】

■あらすじ
目指していた世界は、ここに在った。

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第37話→まだ


【第36話】は追記からどうぞ。

第36話


「守り手不足か……」

 グリダニアの冒険者居住区であるラベンダーベッドに在るフリーカンパニーオールドフロンティアのカンパニーハウス、通称寄合所。今や喫茶店のような装いになっている外観に加え、メンバーであるツトミちゃんやエレット殿が給仕のように茶を出してくれる事から、名称通りの憩いの場として活用されている。
 フリーカンパニーのマスター、つまり主であるワシは、寄合所の庭に当たる場所に設けられたカフェテラスで、ドマ茶を啜りながら唸り声を漏らす。
 そんなワシの苦悶の声に気づいたツトミちゃんが、美味しそうに飲んでいたフローズンカクテルをテーブルに戻すと、「守り手?」と不思議そうに小首を傾げる。
「うむ。ワシらのフリーカンパニー、以前までであれば、クロス殿とマコ殿がその役割を担っておったのだがの、現状、誰も守り手で活動しておる冒険者がおらんのだ」エレット殿が作成してくれた書類をテーブルの上に広げる。「ワシは格闘士、サクノ殿は侍、キノ殿は幻術士、ホロウ殿は槍術士、ギル殿は召喚士と。攻め手が豊富で、癒し手はキノ殿、或いはワシが学者として馳せ参じても良いのだが、守り手……剣術士や斧術士に当たる者が一人も在籍していないのは、人員編成の観点から鑑みるに、ちと不味くてのぅ……」
「わたしとエレちゃんが入ってないぞぅ」即座に指摘するツトミちゃん。
「ツトミちゃんとエレット殿は今や冒険者業が主戦場ではないからのぅ。いざって時は出張って貰う事になろうが、今は裏方の仕事をお願いしておるし。無理は言えんよ」
「むぅ~」
 エレット殿は元々冒険者としての活動は中々時間が取れないからと裏方の仕事を任せてきたが、やがて一年と半年が経つ頃になり、ツトミちゃんも冒険者業は暫くのお休みに入り、こうして寄合所での給仕や、内職としてのクラフターのリーヴなどを熟して貰っているのが日常になりつつある。
 二人とも戦力として数えられていない訳ではないものの、普段冒険者として活動する分の時間が捻出できない、或いは他の業務の方が性に合っているなどと言った理由から、冒険者の一線から退いているだけで、武器を構えれば相応の戦果を上げてくれる事に関しては疑念の余地は無い。
「ツトミちゃんにはまた別に輝ける場所が有ると言う事。無理に戦場の華にならなくても良いと言う事じゃ」
「そうだね~。寄合所の看板娘として踊りとか料理の腕前でも上げようかな~」
「うむうむ。って、踊り? 踊りはいるかのぅ……」一瞬如何わしい店が思い浮かんでしまった自分を脳内で叱りつけておく。
「あ、爺ちゃん今破廉恥な事考えたでしょ? 真昼間からダメだよ~、すぐ破廉恥になるんだから~」
 めっ、と人差し指を突きつけるツトミちゃんに、ワシは困った顔をして肩を竦め返した。
「話を戻してだな。守り手が不足しておるから、冒険者の基本的な編成例である四人編成で問題解決に当たらせようにも、外部から守り手を借りてこねば成り立たんのじゃ。都度借りれば問題は無いのだがの、その度に冒険者を募るのも手間じゃなぁ、と思ってのぅ」
 グリダニアに拠点を置くワシらであれば、冒険者ギルドを兼任しているカーラインカフェに出向けば冒険者としての仕事にありつけるだけでなく、足りない人員をその場で募る事も可能ではある。
 外部の人間を組み込む事で新鮮な戦術や情報に触れられると言う点では良い事も有れば悪い事も有ろう。その点、フリーカンパニーの人員だけで編成が可能であるなら、身内同士、気心が知れている分、気楽に臨めるのと、問題が生じても修復が利き易いと言う利点も有る。
 無論、一長一短は有ろうが、現状オールドフロンティアの総員の約半数が若葉の冒険者であると言う事も有って、出来れば落ち着いた環境下で、冒険者としての立ち回りなどをゆっくり教えながら冒険に繰り出したい、と言う想いが蟠る。
 であれば守り手が一人でもいてくれると助かるのだが……頼りにしていたクロス殿もマコ殿も脱退された今、新規で加入した冒険者にもいないともなれば、何かしら対策を考えねばならない、と言う帰路に立たされていた。
「別に守り手なんていなくても、みんな何とかしてくれるんじゃない?」
 フローズンカクテルに再び手を伸ばしながら、ツトミちゃんが微笑む。ワシは書類から顔を上げ、彼女の優しげな微笑に意識を傾ける。
「爺ちゃんは難しく考え過ぎだよ~、それにわたし達はふんわり過ごせればそれで良いだけの、ふんわり冒険者の集まりなんだよ? 頑張らない頑張らない」楽しそうに指を振りながら語り掛けるツトミちゃんだったが、そこで苦笑を浮かべた。「……って言っても、爺ちゃんは頑張っちゃうって知ってるけどね。今だってそうでしょ? わたし、爺ちゃんの考えてる事、当ててみよっか? ――ワシが守り手になれば良いな、……でしょ?」
「ぐ……」
 図星を言い当てられてしまい、ワシは二の句が継げられなかった。
 そう。守り手が誰もいないのであれば、ワシが代わりに守り手として活動すればそれで問題が解決するのではないかと思い、口に出して確認していたに過ぎない。
 何だかんだと長い付き合いになるツトミちゃんにはお見通しだったみたいで、彼女は「ふふん、凄いでしょ?」と自慢げに鼻を高くし、それから美味しそうにフローズンカクテルに口を付ける。
 頑張り過ぎている自覚は無かったが、いつの間にか背負っているものが多くなっていたのかも知れないと、そんな感想が脳裏を過ぎる。
 ツトミちゃんの言うように、フリーカンパニーを設立したのだって、元を辿れば、ただ茶飲み仲間として、時折会っては会談を開いて日々を楽しむ……そういう理念だった筈ではないか。
 気づけば人数も増え、若葉の冒険者に教えを授ける程に年月が経ち、初心を忘れていたように思える。
 誰かの役に立ちたい、己の過去を追い求めたい、後輩の冒険者を導きたい。
 色々な想いが積み重なり、気づけば複雑に絡み合って雁字搦めになっていたように思える。それらが全て悪い事と言う訳ではない。ただ、縛られ過ぎては前に進めなくなるのもそうだし、後ろを振り向くのだって力が必要になってしまうだろう。
「……そうじゃのぅ、少し張り切り過ぎておったかも知れんな」目元を解しながら、ワシは苦笑を浮かべた。「昔からの癖みたいなものなのかも知れん。少しでも良くしようと、気づけば何でもかんでも首を突っ込むのとかも、そのせいじゃろう」
「そんな肩肘張らなくても良いのに。あ、爺ちゃんに期待してないよって事じゃないからね? 頑張らなくても、爺ちゃんには助かってるよって言いたいだけだから」
 ツトミちゃんはフローズンカクテルの空をテーブルに置くと、「う~ん」と伸びをした。
「さぁさぁ、そんな仕事とばかり睨めっこしてないで、今日のお夕飯の事でも考えようよ! わたしは爺ちゃんの作るハンサカレーが食べたいなぁ~ちらっちらっ」
「……この間の半額の日にハンサの笹身を仕入れたのを憶えておったか」
「ふふふ……」
 クァールのように目敏いツトミちゃんに苦笑を返しつつも、ワシは書類を一旦纏めて脇にやると、ツトミちゃんを倣うように大きく伸びをした。
「そうじゃの、今からコトコト煮込めば夜半には丁度良い感じに仕上がっておるじゃろう。今夜の夕餉はハンサカレー、楽しみにしておると良い」
「わーい! へへへ、ありがとね、爺ちゃん」
 屈託無く笑うツトミちゃんに笑い返すと、ふと、ワシが探し求めていた未来とは、こういうものだったのではなかっただろうか、などと気づいてしまった。
 明日が必ず来ると疑わない安心感と希望に満ち溢れた、平穏な日常。それらを守るために冒険者として活動する、充足した日々。衣食住に困る事も無く、圧政を強いられる事も無い、安穏とした生活。
 目指していた世界は、ここに在った。そういう事なのだろうか。
 であれば。己を含む皆の信頼を裏切らないためにも、ツトミちゃんの言うように、頑張り過ぎないように努力を続けていかねばなるまい。
 エオルゼアは夏場が過ぎ、初秋へと季節は彩っていく。エオルゼアに罷り越して二度目の秋。そして冬となれば、もう二年の月日が経つ事になる。
 願わくは、この幸せがもっともっと長く続きますように。そう思わずにいられない。
 そんな事を考えながら、ワシは寄合所の台所へと向かう。皆の舌を満足させるハンサカレーを作るために、袖を捲りながら。

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