2022年4月22日金曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第34話【FF14二次小説】

■あらすじ
二つ風、舞い込む。


【第34話】は追記からどうぞ。

第34話


「――――つまり、貴殿も弊フリーカンパニーに加入申請をした冒険者の一人、と言う事……なのか?」

 寄合所の庭。外観を改装して以降、カフェテラスの装いになった庭に在るテーブルを囲んで、座談会……もとい、フリーカンパニー【オールドフロンティア】の新規加入希望者の面談が執り行われていた。
 一人は元々の予定だったサクノ殿の妹君、キノ殿。サクノ殿と瓜二つ面立ちに、佩いている武器を観るに白魔道士――その先駆けであろう幻術士である事が見て分かる。一目でサクノ殿の縁者である事が分かるも、そのあどけなさや初々しさは冒険者を始めて間もない事が窺えた。
 もう一人は突然現れた謎のヴィエラ族の青年。背に持つ獲物が長物――両手槍である事から槍術士である事は分かるが、他に一切の情報が無い謎の冒険者である。武器の練度を観るに、キノ殿と同等、或いはそれ以下の冒険者の雛のように見えるが……
「然り。汝の言の葉に虚言挟みし余地非ず」
 ヴィエラ族の青年は満足そうに頷いている。何を言っているのか理解するのに時間は掛かるが、恐らく肯定しているのだと判じ、ワシも頷き返す。
「……まずは自己紹介からかの。改めて、ワシはフリーカンパニー【オールドフロンティア】の長……マスターと言うんじゃったかの。を務めておるヤヅルと申す」緩やかな所作で目礼を見せる。「キノ殿は……事前に話を聞いておったから分かるのじゃが、お主は……?」
「む? 我が忌み名を問うておるのか?」ヴィエラ族の青年が仰々しく席を立ち、優雅に辞儀を見せた。「我が忌み名はホロウ。ホロウ・ナイトヴォイス。“虚ろなりし夜声”を意味せし忌み名よ。気安くホロウと呼び捨てて構わぬ」
「ホロウ殿、と言うのか」
 エレット殿に目配せすると、彼女はワシの意図を察してくれたのか、小さく首肯を返して、「少し席を外しますね」と言ってテレポを唱え始めた。
「このまま名乗らずでは礼に失すると思いますので、私も改めて名乗らせて頂きますね」スッと席を立ち、恭しくお辞儀を見せるキノ殿。「姉のサクノがいつもお世話になっております。冒険者サクノの妹の、キノと申します。以後、お見知り置きを」
「サクちゃんにそっくりな礼儀の正しさだね」ひそひそとワシとサクノ殿に耳打ちするツトミちゃん。「やっぱり抜くの? えぇと、あの杖を……?」失礼過ぎんか……?
「冒険者になってからは文通でやり取りしてましたけれど、分かりません……」ひそひそとワシとツトミちゃんに耳打ちするサクノ殿。「抜くかも知れない……ユキガクレ家の血が騒いでしまって……」なにそれこわい。
「……こほん」小さく咳払いして一旦二人に内緒話を中断させる。「まずはキノ殿からお話しを伺おうかの。数あるフリーカンパニーの中からウチを選んだ理由が有れば聞かせて欲しい」
「――お姉様がいらっしゃるからですわ」凛とした声で一言。キノ殿はワシの目を見据えてニコリと微笑んだ。「サクノお姉様がいるところに、私あり。つまりそういう事です」
 二の句が継げずに返答を淀ませていると、サクノ殿が嬉しそうに微笑みながら、「ね? 可愛いでしょウチの妹! ね?」とワシの肩をパシパシ叩き始めた。
「キノちゃんはサクちゃんが大好きなんだねぇ」腕を組んで、うんうんと頷き返すツトミちゃん。「サクちゃんとキノちゃんの姉妹愛……良いねぇ……」
「ツトミ様、と仰られましたか?」キノ殿がツトミちゃんに視線を向けた。「サクノお姉様を、今何と……?」
「え? サクちゃん?」
「ぐッ……有り難う御座います、サクノお姉様の新たな側面が見れて、私、感激です……ッ」突然胸を押さえて呼気が乱れたかと思いきや、肯定の意を示して晴れやかな笑みを覗かせるキノ殿。
「サクちゃんに重た~い感情を懐いてるんだねぇ……」しみじみとした声で頷いているツトミちゃん。「そういうの、良いと思うよ! わたし、応援しちゃう!」グッと肯定の意を返した。
「「有り難う御座います……!」」サクノ殿とキノ殿が同時に笑顔を華やがせた。
「……まぁ、二人が良いなら、良いか」どこから突っ込めば良いのか分からず、ワシはお手上げの態で話を進める事にした。「では、加入申請書に署名を。ワシの捺印は済んでおるゆえ、署名が済めば形式上、お主はフリーカンパニー【オールドフロンティア】の一員じゃ」
「分かりました! ……えへへ、これでお姉様と一緒に冒険できる……! えへへ……!」
 キノ殿の嬉しそうな独り言まで聞こえてしまい、こちらまで頬が綻んでしまう。
 さておき、もう一人の方に視線を向ける。
 上半身裸のヴィエラ族の青年は、まさに不動の態で瞑目したまま踏ん反り返っている。
「……こほん、ホロウ殿?」「ぬ? キノ嬢との盟約は済んだのか? 為れば我とも契りを交わそうぞ。我、眷属として迎え入れる事を希う者也」「おおう」
 声を掛けた瞬間、両眼がカッと開き、ずずいと身を乗り出して応答するものだから、呼応するように思わず身を仰け反らせてしまう。
 ギラギラと飢えた獣のような眼差しをする青年に、併し悪い面影は見て取れなかった。
 言葉遣いが些か古めかしい……いや、何故かワシの言葉遣いもそう窘められた事は有ったが、それ以上に……変わっている点としてはそれぐらいで、悪意らしい悪意も感じられないし、そもそも装備を観るに冒険者としての地力はまだまだ伴っていないように見える。
「ただいま戻りました」
 ――そこに、テレポで帰って来たエレット殿が顔を出した。
 皆で出迎えると、彼女はワシの元に歩み寄り、ワシの意図した書類一式を手早く簡潔に見せてくれた。
「……なるほどのぅ」エレット殿に感謝の言葉を小さく述べた後、改めてホロウ殿に視線を転ずる。「相済まぬ。突然の出来事だったゆえ、失礼だとは思うたが、お主の素性を少し洗わせて貰った。それに関して先に謝らせて頂こう。申し訳無い」
 頭を下げたワシに、ホロウ殿は意に介した様子も無く、「謝罪する道理など無いと見受けるが? 胡乱な者にも拘らず疑心差し挟まず応対する方が不誠実と言うものであろう」と、段々と王でも相手にでもしているかのような気分にさせる返答をしてくれた。
 ワシは何とも言い難い想いを感じつつも再び空咳を挟み、ホロウ殿を見やる。
「では単刀直入に。お主が冒険者となって間もない若葉である事は分かるが、なにゆえ弊フリーカンパニーを選んだのか、それをお聞かせ願いたい」
 キノ殿の明々白々な理由とは裏腹に、ホロウ殿はそもそも事前の情報が皆無だっただけに、何を言い出すのか緊張が高まる一方だった。
 実際、エレット殿に調べて貰った分の情報を洗ってみても、本当につい先日冒険者になったばかりと言う事が分かるだけで、ほぼ実務経験無し、練度としても雛そのもの、犯歴及びその他経歴も一切出てこないとなれば……
 何を目的としてここに現れ、何を理由にここを求めたのか。全てが虚空に吸い込まれていく。
 ホロウ殿はワシの目を見据えたまま、瞬き一つせず視線を逸らさず――ニヤリと、口唇を歪めた。
「――標に導かれたまで。汝が為した善行により、生き繋いだ名も無き獣が恩を返しに参っただけの事よ」
「…………?」
「汝、我に見覚えが無いと言った顔をしておるな? それも仕方あるまい、我と汝らに面識は無く、今以て初顔合わせと相成ったのだ」
「うーんと?」見かねた様子のツトミちゃんが声を上げた。「つまり、爺ちゃんのファンって事?」
「ヤヅルさんが時折こっそりウルダハの貧民窟に商いしに行ってるの、私達以外にも見られてたんですかね……?」サクノ殿がとんでもない事を口走る。「ヤヅルさん隠すの下手だから気づいてましたからね私……?」
「うぐ、ぐ……」突然の暴露に再び言葉に詰まってしまう。
「然り! ツトミ嬢、サクノ嬢、お二方の言い分に是認の意を表そう」ツトミちゃんとサクノ殿に対して大仰に首肯を返すホロウ殿。「今更隠すまでも無いが、我はストーンズスロー貧民窟で野垂れ死ぬ運命を辿る筈だった貧民よ。学も無く、腕にも覚え無く、処世術の何たるを知らぬ浮浪の民だった我に標を見せてくれたのが――汝よ、我が主、ヤヅル・シラ」
 ワシを指差して八重歯をキラリと見せて挑発するように笑むホロウ殿に、ワシは面食らった状態のまま、数瞬思考が凍結した。
 ツトミちゃんとサクノ殿は「やっぱり」と言った納得顔でうんうん頷いているが、ワシ一人だけが事情を上手く呑み込めていなかった。
「……ま、待ってくれ。ワシはお主のようなヴィエラ族と会った事すら――」
「さもありなん。我が一方的に汝を意識していたに過ぎぬからな。そしていつの日か汝と共に戦場を駆け回る日を夢見て――つい先刻冒険者として名を挙げたのだ!」
「……つい先刻?」「うむ」「え、本当に今冒険者になったばかり?」「然り」
 ふふん、と満足気に腕を組んで踏ん反り返るホロウ殿に、今まで想像していた色々な妄想が全て吹っ飛んでいき、肩の荷が下りると共に笑いが込み上げてきた。
「それは……そうじゃな、ワシとて冒険者を生業として一年過ごした一日の長が有る。それをお主に教える事も出来よう」小さく首肯を返し、彼から預かった加入申請書に手早く捺印を済ませた。「ホロウ殿が心変わりしておらぬと言うのなら、快く迎え入れよう」
 捺印を済ませた書類を見て、ホロウ殿はすまし顔を少しだけ崩して、幼子のような無邪気な笑みを一瞬覗かせた後、すぐに涼しげな微笑を刷いて、「――是非も無し!」と書類に署名を済ませた。
 ――そうして、我がフリーカンパニー【オールドフロンティア】に新たな風が舞い込んできた。
 別れ有れば出会い有り。別れを惜しんでばかりはいられない。ひょんなところから縁が繋がる事も有るものだと痛感するばかりだ。
 その縁を大事にし続ける限り、きっともっと大きな繋がりが、更に不思議な縁に繋がっていくに違いない。
 そんな空想を夢見ながら、今夜は皆と祝杯を挙げねばなるまいと、思わず財布の紐が緩む気配を察してしまうのだった。

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