2018年4月21日土曜日

【神否荘の困った悪党たち】第3話 おかしな生活が始まる【オリジナル小説】

■あらすじ
非現実系ほのぼのニートフルコメディ物語。宇宙人、悪魔、殺し屋、マッドサイエンティスト、異能力者、式神、オートマタと暮らす、ニートの日常。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【Fantia】で多重投稿されております。



【第3話 おかしな生活が始まる】は追記からどうぞ。
第3話 おかしな生活が始まる


「あらぁ~、やってるわねぇ~」

 シンさんが眠い目を擦りながら焼いてる串を摘まみ、若干焦げた肉を齧っていると、腰の曲がったお婆さんが部屋から出てきた。
 白髪が凄い薄くなっている、八十代くらいかと思える、皺くちゃのお婆さん。腰が曲がっているのと、元から小柄なのが相俟って、身長は百四十センチも無いように見える。皺だらけの白衣姿で、上品そうな杖を突いて歩いて来ると、「よっこいしょ」と廊下に腰掛けた。
 その隣には、十歳にも満たないような、メイド服の少女が立っていた。頭にカチューシャを載せ、紺色の髪を短く纏めている。お婆さんよりも小柄で、百三十センチ有るかどうかの身長。お婆さんの隣で静かに佇む姿は、見た目の年齢とだいぶ異なるイメージだった。
「マナちゃん! こいつアレっすよ! ヒーさんの孫君!」ラヴファイヤーさんが俺を指差して喚き始めた。
「あらぁ~、そうなの~」微笑を浮かべて口元をもごもごさせるお婆さん。
「あっ、二糸亞贄って言います」ぺこりと頭を下げる。
「あらあら、これはこれはご丁寧に」お婆さんもぺこりと頭を下げた。「私は泥科(デイカ)マナって言うの、宜しくね~」頭を上げると、隣のメイド少女を手で示した。「この子はオートマタのメイちゃんって言うの。メイちゃん、ご挨拶は?」
「初めまして、二糸亞贄様。泥科マナ様に作成された自律型汎用人形のメイです。以後お見知り置きを」メイド服の裾を指で摘まんで優雅に一礼するメイドロボのメイちゃん。
「しゅごい高性能なロボットですね」見た感じ人間と全然変わらない。
「うふふ、目からビームも出せるのよ?」嬉しげに頬に手を当てるマナさん。
「目からビーム」
「じゃあメイちゃん、やってみて?」
「イエスマスター」と言った瞬間、メイちゃんがマナさんの頭を撫でると、マナさんの瞳からビームが飛び出して、ニャッツさんが食べてた肉が真っ黒になった。
「あっ、そっちから出るんだ」
「ニャんて事するニャ!」カンカンのニャッツさん。「おい殺し屋! 我輩の食べる肉が次々と黒焦げにニャって行くぞ!」
「あたしに文句言うなよ、肉に文句言えよ」面倒臭そうに焼けたピーマンを齧っているシンさん。
「責任転嫁の矛先が肉」
「おい肉! 貴様いい加減にしろニャ!」
「あっ、肉を怒る方向でいいんですね」
「どう? カッコいいでしょ?」にんまりと笑うマナさん。
「カッコいいですね」コックリ頷く。「マナさんはもしかして……」
「そうなの、私お婆さんなの」優しげに微笑むマナさん。
「あっ、そこから理解してないと思われてました?」
「えっ、私お婆さんに見えない?」頬を赤らめるマナさん。「あらやだ、亞贄君、お口が上手ね」
「喜んでくれたのならいいかぁ」棚から牡丹餅感しゅごいけど。「マナさんってもしかして、科学者だったりしますか?」
「あらやだ、亞贄君、お口が上手ね」うふふ、と微笑むマナさん。
「おっ、話が通じてない気がしてきたぞ?」
「マナさんはマッドサイエンティストだった過去が有る事、もう見破られたのですか?」式子さんが俺の周りをフヨフヨ飛び回ってる。
「そんな気がしたから確認したかったんだけど、やっぱりそうなんだ」
「目からビームも出るのよ」頬に手を当てて小首を傾げるマナさん。
「あっ、済みません、もしかして耳が遠かったりしますか?」ちょっと大声を出してみる。
「やだもう、耳からは出ないわよ~」上品に口元を隠して微笑むマナさん。
「さっきまで会話が出来てたのは奇跡かな?」
「あと一人で神否荘の住人が全員揃いますよ!」式子さんが俺の目の前に飛んできた。「六人揃います!」
「六人」
 俺、式子さん、ニャッツさん、ラヴファイヤーさん、シンさん、マナさん、メイちゃん。これで七人だ。
「六人超えてるけど」
「えっ? 亞贄さん、ニャッツさん、愛火さん、臣さん、マナさん、そして砂月(サツキ)さんを含めて、六人の筈ですが」不思議そうに紙を折る式子さん。
「式子さんとメイちゃんは含まれないんですか」
「私とメイさんは住人ではないですからね! 私は日色さんの遣いで、メイさんはマナさんが作った自律人形」そこまで言うと、式子さんは紙の手で照れ臭そうに頭を掻いた。「……そんな私達まで住人扱いしてくれるなんて、亞贄さんは優しいですね」
「そうかな?」
「そうです!」
「式子さんがそう言うなら、そうなんだろうね」
「そうです!」
 じゃあ改めて、神否荘の住人は俺を含めて八人いる事になるのか。最後の一人ってどんな人だろう。
 と思ってると、「ただいまー」と背後から女声が飛んできた。
 皆が一斉に振り返ると、そこにはセーラー服に身を包んだ女の子が靴を脱いで廊下に上がる姿が有った。
 黒髪を肩まで伸ばしている、左目に眼帯をした十代半ば……たぶん女子高生だと思われる少女。身長は百五十五センチ有るかどうかくらいで、青と白で統一されたセーラー服とプリーツスカートを纏っている。
「お帰りっすさっちゃん! そこにいるのアレっすよ! ヒーさんの孫君っす!」ラヴファイヤーさんが俺を指差してまた喚き出した。
「えっ、日色さんのお孫さんって、男の子だったの!?」俺を見て驚きに目を瞠る女子高生。「えっ、えっ、嘘っ、そんな……っ!」
「えっ、俺、男だと不味かった?」
「そそ、そんな事無いです! 寧ろ大歓迎です! だって、だって、――やっと愛火さんと絡ませられる男キャラが来たんだもん!」
「ん?」
「身長が百七十くらいで、肉付きは細め、黒髪黒目で、ちょっと線が細いかな? 優しそうだから受けでもイケるし、いや待てこの風貌で攻めとかヤヴァい滾る……あの、名前は何て言うんですか!?」興奮した様子で俺を見つめてる女子高生に戸惑いを隠せない。
「あっ、二糸亞贄って言います」
「亞贄さん……つまりアニアイ……いやアイアニも……妄想が捗ります! 有り難う御座います! 亞贄さん、最高です! ご馳走様です!!」
「絶対この子の頭の中で俺大変な目に遭ってるよね」
「おい覚者! 自己紹介を忘れてニャいか!?」ニャッツさんが前脚を振り上げて声を上げた。
「あっ、ごめんなさい! 自己紹介が遅れました! 自分、錐原砂月(キリハラ サツキ)って言います! 特技は妄想と執筆活動です! 宜しくお願いします!」ガバッと頭を下げる女子高生、もとい砂月ちゃん。
「あっ、うん、宜しく」気後れしながらも頭を下げる。「この子は一番マトモそうに感じたけど一番危険を感じる子ですね」
「さっちゃんは異能力者なんすよ!」串に刺さったニンジンを綺麗に歯で抜き取るラヴファイヤーさん。「この中で一番器用なんすよ!」
「器用だなんてそんな……」えへへ、と照れ笑いを浮かべる砂月ちゃん。「ただ自分は、無機物を支配できるだけですって」
「無機物を支配?」少し意味が分からない。
「生命の無い物を自由に出来るんです」後ろ頭を掻きながら微苦笑を浮かべる砂月ちゃん。「えーと、例えばコンクリートを豆腐のようにバラバラにしたり、信号の色を赤から青に変えたり、船を飛行機に変形させたり、そのぐらいですって~」
「器用ってレヴェル通り越してない?」
「これで神否荘の住人が全員揃いましたよ、亞贄さん!」式子さんが再び俺の前に舞い上がって来た。「これから彼らと密接に暮らしていく訳ですが、何か一言頂けますか!」と言って自分の頭をマイク代わりに俺の口元に近づけた。
 周りを見回すとその場に居合わせる全員が俺を注視してた。俺は緊張を覚えつつも、頭をポリポリ掻き、――空咳。
「えーと、お祖母ちゃん……日色さんが話してた、世界を征服しようとしてたりした人って、皆さんで合ってますか?」
 全員は顔を見合わせ、俺に向き直ると、コクコク頷いた。
「……えーと、じゃあ皆さん、俺に恨み辛みが有ると言う事は有りませんか?」
 再び顔を見合わせて、俺に向き直ると、フルフルと首を振った。
「えっ、無いんだ」驚き、改めて咳払いする。「えと、じゃあ皆さん、俺一人では管理人は務まらないと思うので、どうか力を貸してやってください。皆さんと仲良く過ごせたら、良いなーと思います。……これで良いかな?」
「良いと思います!」式子さんがふわりと舞い上がって紙の首をへしへしと折った。「それではこれより私は日色さんの遣いから、亞贄さんの遣いへと仕様を変更します。どうぞ扱き使ってくださいね!」
「あっ、はい」
「宜しく頼むニャ師匠!」たしたしと俺の素足を肉球で叩くニャッツさん。
「これから宜しくっす孫君!」グッとサムズアップするラヴファイヤーさん。
「まぁ、程々に頑張れよ」腕を組んで欠伸を浮かべるシンさん。
「宜しくねぇ、……えーと、どちら様でしたっけ?」怪訝な面持ちでメイちゃんを見上げるマナさん。
「二糸亞贄様です、マナ様。どうかマナ様共々宜しくお願い致します」メイド服の裾を摘まんで優雅に一礼するメイちゃん。
「どうぞ宜しくお願いします!」ぺこり、と頭を下げる砂月ちゃん。
「あっ、こちらこそ宜しくお願いします」七人の住人に向かって頭を下げる。

 これが俺の二十歳の誕生日の出来事。そして、これからずっと続く日常の始まりの日。
 俺は祖母ちゃんが語ってくれたようなヒーローじゃないけど、祖母ちゃんが俺に受け継がせてくれた人達と一緒に生きていく。
 神否荘の困った悪党達とのおかしな生活が始まる。

◇◆◇◆◇

「シンさん、もう殆ど焦げてるんすけど」
「ほんとだ」
「ほんとだ、じゃニャいニャ! 我輩の肉は!? 我輩の肉はどれニャ!?」
「はいはい、ニャーさんには私の肉をあげるからねぇ」
「マナ様、それはもやしです」
「あのあの、亞贄さんはBLって読みますか!? 読むとしたらどんなのが良いですか!?」
「もう既に管理が出来てないけど、良いの?」
「頑張ってください!」
「あっ、もう匙投げてるのかな?」

■プロローグ/了

【後書】
 これにてプロローグ編は終了です。こんなキャラクター達と一緒にほのぼの暮らしたら楽しそうだなーと思いながら続きを投稿して参ろうと思います。
 次話より不定期更新になると思いますが、何卒宜しくお願い致します。

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