2018年4月25日水曜日

【神否荘の困った悪党たち】第7話 神否荘のお昼ご飯【オリジナル小説】

■あらすじ
非現実系ほのぼのニートフルコメディ物語。宇宙人、悪魔、殺し屋、マッドサイエンティスト、異能力者、式神、オートマタと暮らす、ニートの日常。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【Fantia】で多重投稿されております。



【第7話 神否荘のお昼ご飯】は追記からどうぞ。
第7話 神否荘のお昼ご飯


控えめに言ってもそうめんは美味しかった。

「私からも質問、良いかしら~?」はーい、と間延びした声で手を挙げるマナさん。
「あっ、どうぞ」スッと手でマナさんを示す。
「亞贄君は、今お仕事は何をされてるのかしら?」
「仕事してませんよ、ニートなんです」
「まぁ、ヒーローがお仕事なの? 凄いわねぇ」驚いた顔で口に手を添えるマナさん。
「ニートでーす、ニート、無職です、働いてませーん」
「お祖母ちゃんの跡を継ぐなんて、しっかりしたお孫さんねぇ。私、感心しちゃった」うふふ、と楽しげに微笑むマナさん。
「あの、誰かマナさんに俺が働いてない事を伝えて貰えませんか?」俺の力ではもう無理だと悟ったよ。
「師匠はプロゲーマーだからニートじゃニャいニャ! もっと腕を誇って良いニャ!」タシーンッ、と俺の素足を肉球で叩くニャッツさん。
「プロゲーマーでもないんですけど」
「あの腕前でプロゲーマーじゃニャい……!?」ニャッツさんの顔が驚愕に染まった。「師匠はニャんて謙虚ニャお方ニャ……ニャるほど、ヒイロの素質をしっかり受け継いでいるニャ!」
「やべぇ、どこかで選択ミスしたかな」昨日、ニャッツさんをからかうべきじゃなかったとちょっと後悔した。
「それに先輩はもうニートじゃないと思いますよ!」はい! と再び元気よく挙手する砂月ちゃん。
「えっ、そうなの?」
「愛火さんを主夫にして働き始めるんですよね!?」
「妄想を現実に持ち出すのはやめようか?」
「あっ、済みません! 先輩が主夫になるんでしたね!」
「誰か俺の話を聞いて?」
「てか実際、にー君はニートじゃないんじゃないか」煙草を吸いながらポツリと呟くシンさん。「神否荘の管理人になった訳だから、ここにいるだけで仕事してる扱いになるんじゃないの?」
「なるほど、そう言われたら確かにそうかも知れませんね」
神否荘の管理人と言うのが果たして何の仕事になるのか分からないし、現在進行形で働いてる感覚が全く湧かないけれど。
「そうですよ! 亞贄さんは神否荘を管理すると言う大事な職務に就いているのですから、ニートだなんて謙遜はしなくていいんです!」式子さんに、鼻の頭にピッと紙の手を突きつけられた。
「えーと、何だっけ。住人の話を聞けば良いんだっけ?」昨日の話を思い出しながら呟く。「確かに話を聞いてるだけで体力使ってる気はするけど」
「そうです! 話を聞くだけとは言いますが、話を聞くって、実は大変な職務なんですよ!」ふふり、と紙の胸を張る式子さん。「亡き日色さんも苦労されていましたから」
「あっ、それで思い出した」ポン、と手を打つ。「祖母ちゃんの遺体ってどこに在るの?」
「日色さんの御遺体なら、神否荘の地下に冷凍保存されていますよ」ふわふわと俺の周りを舞う式子さん。
「冷凍保存」
「日色さんの遺体は人類の叡智の結晶だからな」ふはぁ、と紫煙を吐き出すシンさん。「人類進化の鍵やら、宇宙誕生の鍵やら、神の証明の鍵やら、あらゆる存在が欲しがる宝物なんだよ」
「ヤヴァい事だけは伝わりました」
「日色さん自身が最後に私達に託されたんです。自分の遺体はきっと良からぬ人に渡ると大変な事になると。だから一番安全とされるここ、神否荘の地下で冷凍保存されています」
「火葬とかにはしないの?」
「燃やしても火傷一つ負いませんからね」コックリ頷く式子さん。
「祖母ちゃんは本当に人間だったの?」
「それすら私達には分かりません」フルフルと紙の頭を振る式子さん。「私達は日色さんの意志を尊重すべく、彼女の死を隠匿し、生涯に亘って遺体を守り、楽しく暮らしていこうと考えたのです」
祖母ちゃんは、死ぬまで戦い続けた挙句、死んでからも戦っている、と言う事なんだろうか。
何て言うか、本当にヒーローだったんだなぁ、と改めて実感が湧いた。
「日色ちゃんがいきなり“あと十分したら死ぬから、冷凍保存してくれない?”って言った時は流石にビックリしたわねぇ」うふふ、と口元を隠して微笑むマナさん。
「十分で冷凍保存装置を作ったマナちゃんにも驚いたけどね」煙草を咥えたまま苦笑を浮かべるシンさん。「で、本当にいきなり死ぬんだもんなぁ、日色さん」
「ビックリしましたよねぇ、“じゃあ死ぬから”って言っていきなり倒れた時は意味分からな過ぎて思考止まりましたもん」ケラケラ笑う砂月ちゃん。「“孫のアニエを宜しくね”って言われたんで、てっきり女の子だと思ってたんですけどねー」
「やる事ニャす事デタラメだからニャー」やっと顔を上げて、ぴょんっとテーブルの上に飛び乗るニャッツさん。「だからこそ我輩達は約束を守る事にしたんだけどニャ!」
「……そうでしたか」
俺の知らない祖母ちゃんを知る人達の話を聞くのは、何だか胸がときめいた。
そしてそんな夢のような話を物語として聞かされてきた俺は、今更のように思い知らされる。英雄の冒険譚を、まさか英雄本人から聞かされていたなんて、夢にも思わなかった。
祖母ちゃんの遺体を守る、と言う約束は確かに大事だけど、そのガーディアンであり、良き友でも有り、素敵な家族でも有っただろう彼らと、一緒に楽しく暮らしていけるだけで、俺は充分な幸せなんじゃないかなって思った。

◇◆◇◆◇

「じゃあ最後に自分から質問です!」はい! と三度元気よく挙手する砂月ちゃん。
「その質問却下して良いかな?」
「先輩の性癖を教えてください!」
「性癖まで聞く面接は初めてだよ」
「なるほど、背の高い人が好き、と」スマフォを取り出してタプタプし始める砂月ちゃん。
「おっ、どうしてもラヴファイヤー君と絡ませたいんだな?」
「ん? にー君、背が高い方が好きなの?」ニヤ、と笑むシンさん。「あたしも守備範囲か、ふーん」
「えっ、思わぬ所に脈有り」
「あたしネトラレ好きだから、にー君に彼女が出来たら付き合ってやっても良いぞ」朗らかな笑みを浮かべるシンさん。
「未来の俺の彼女が不憫過ぎる件に就いて」
「おいおい、にー君の未来の彼女とは付き合ったままに決まってるだろ。あたしはそんなにー君を惑わしたり襲わせたりするのが楽しみなんだから」
「とんでもねークズだよこの人」
「未来の彼女にバレて喧嘩になってにー君が憔悴する所までが楽しめるポイントだからな?」
「俺の人生を台無しにしたいのかな?」
「あらぁ、亞贄君、お仕事されてないのかしら」頬に手を当てて困った表情を浮かべるマナさん。
「えっ、時間差で話が通じた」
「じゃあお勤めは今どうしてるの?」
「今お勤めしてないんです、ニートなんです」
「そうなの~、今はトラックの運転手さんなのね~」嬉しげに微笑むマナさん。
「あっ、一瞬だけの奇跡だったみたいですね」
「だから亞贄さんはニートじゃないですよ! 管理人です管理人!」憤慨したようにパタパタと俺の頭を紙の手で叩く式子さん。
何か困った人ばかりだけど、退屈はしなさそうだなーって、改めて思いました。

【後書】
困った人と言うか話聞かない人ばかりですが(笑顔)。
昼下がりの午後、こんな風にのんびりまったり時間を潰して夜を迎えたいですにゃー。
次回、黄昏。夕方になるのであの人が帰ってきます。お楽しみに!

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