2018年4月23日月曜日

【神否荘の困った悪党たち】第5話 神否荘の昼【オリジナル小説】

■あらすじ
非現実系ほのぼのニートフルコメディ物語。宇宙人、悪魔、殺し屋、マッドサイエンティスト、異能力者、式神、オートマタと暮らす、ニートの日常。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【Fantia】で多重投稿されております。



【第5話 神否荘の昼】は追記からどうぞ。
第5話 神否荘の昼


「あっ、おはよう御座います!」

ぼんやりと洗濯機が動いてるのを眺めてたら、不意に砂月ちゃんの声が聞こえた。
振り返ると、青色の野球帽を被り、英語のロゴが入った水色のシャツに青のジーパン姿の砂月ちゃんが小さく手を挙げてる姿が見えた。
「おはよう」俺も倣うように手を挙げる。
「何してるんですか?」
「洗濯機が回ってるの見てた」
「洗濯機無いですけど」
改めて見ると、洗濯機はもう中庭から無くなってた。
「見てる内にうたた寝してたみたいだ」涙で滲んだ目を擦る。
「暇なんですか?」
「ニートだからね」
「亞贄さん、ニートなんですか!」驚いた表情を浮かべる砂月ちゃん。「てっきり大学生かと思ってました」
「俺、中卒だよ」
「えっ、どこ中ですか?」
「病二中」
「自分の先輩だったんですか!」
「えっ、砂月ちゃんも病二中出身なの?」思わず二度見する。
「はい! 今は病二高に通ってます! 高二です!」ヴイサインを見せる砂月ちゃん。
「俺の後輩だったか」
「じゃあ亞贄さんの事、先輩って呼ばせてください!」
「えっ、いいけど」
「先輩! 愛火さんの事、どう思ってますか!?」
「えっ、しっかりした人だなーって思ってるけど」
「なるほど、先輩はしっかりした人が好き、と」スマフォを取り出して画面をタプタプし始める砂月ちゃん。
「おっ、さっそく俺の情報が捏造されてるな?」
「あっ、済みません! 先輩はBLのネタにされるの嫌ですか!?」
「たぶん嫌じゃない人ってそうそういないと思うけど」
「じゃあ先輩は良いんですね!?」キラキラ瞳を輝かせる砂月ちゃん。
「おっ、常識が通じてないのかな?」
「先輩って攻撃するのと防御するの、どっちが好きですか?」
「もう明らかに誘導尋問だよね」困った風に顎を掻き掻き。「攻撃かなぁ」
「でも先輩なら防御も得意そうですよね!」またスマフォをタプタプし始める砂月ちゃん。
「俺に質問する必要有るのそれ?」
「先輩の意志を尊重したいんですから当然必要ですよ!」
「俺の意志はどこにも無い気がするんだけど」
「流されてる事に困惑する先輩も可愛い、と」スマフォをタプタプする砂月ちゃん。
「おっ、こいつもう俺の全てをネタにするつもりだな?」
「先輩は今から何かするんですか?」やっと俺の隣に腰を下ろす砂月ちゃん。「もう十一時回ってますけど」
「えっ、そんなに寝てたのか」確かに中庭から覗く陽光が厳しい。「ニャッツさんが荷物運んできてくれたみたいだから、その整理しなくちゃいけないな」
「良ければ自分、手伝いましょうか?」俺の顔を覗き込んで来る砂月ちゃん。「自分、力は無いですけど、異能を使えば荷物の整理なんてサクサクっと終わりますよ!」
「おっ、それは有り難いな。じゃあ早速始めようかな」よっこいしょ、と立ち上がって部屋に向かって行く。
扉を開けて部屋に戻ると、段ボール箱が三個置いてあるだけで、後はベッドと机、空のタンスと空の本棚ぐらいしか家具の無い寂しい部屋だ。
「先輩、どこに何を置きたいのか指示してください!」砂月ちゃんが段ボールを見た瞬間、ガムテープが消失し、勝手に開いた。「自分がそこに転移させますから!」
「しゅごい便利だねその力」感嘆しながら部屋を歩く。「えーと、机にパソコン置いて貰っていい?」
「はい置きました!」砂月ちゃんが宣言した瞬間、机の上にパソコンが突然出現した。「LANケーブルとコンセントは既に装着済みですから、いつでもインターネット使えますよ!」
「しゅごい」再び感嘆する。「えーと、じゃあ……」
指示を出した次の瞬間には指示通りの状態になる、と言う事態が続き、物の十分と経たずに段ボール箱は空になり、寂しかった部屋は綺麗に整頓された俺の部屋になった。
机の上にはモニターとデスクトップパソコン、それと小さな置時計。本棚には漫画と小説と攻略本が綺麗に並んでる。ベッドは昨日メイちゃんが綺麗にメイキングしてくれてる。部屋の中央にはローテーブルと屑籠、そして座布団が三枚。ローテーブルの上にはティッシュ箱と俺のスマフォが置かれている。タンスの中には俺の数少ない服が納められ、ようやく人心地と言う奴だ。
「助かったよ、有り難う」小さく手を挙げて砂月ちゃんを労う。
「このくらい余裕ですよ!」誇らしげに胸を張る砂月ちゃん。「それに先輩が荷物の整理で腰を痛めたりなんてしたら、愛火さんとイチャイチャできませんしね!」
「あっ、砂月ちゃんの頭の中では俺とラヴファイヤー君がもうそんな関係に」
「えっ、先輩もしかして愛火さんの事、嫌いなんですか!?」驚きに目を瞠る砂月ちゃん。
「いや嫌いではないけども」
「出会った時の印象は最悪だったけれど、徐々に心の氷が解けて最終的にイチャイチャする流れかぁ……良いですね! 自分、そういうのもイケる口ですよ! 王道ですもんね!」
「お願いだから俺の話を聞いてくれない?」
「そう言えば先輩はお昼ご飯どうするんですか? メイちゃんに作って貰うんですか?」座布団に腰を下ろす砂月ちゃん。「メイちゃんに頼めば何でも作って貰えますよ!」
「へぇー、流石家事を一任されるだけは有るね」
「前に愛火さん総受けの同人誌とか作って貰いましたよ!」
「家事の領域軽く超えてない?」
「今度アニアイ本とアイアニ本作って貰わないとですね!」
「そんな爽やかな笑顔で同意求められても」
「あっ、先輩はリバダメですか? 地雷でしたか?」
「何言ってるか分からないけど何もかもダメだよ」
「じゃあ今度作って見せますから、感想お願いしますね!」
「何だろう、マナさんより日本語通じてるか不安になる人だよこの人」
コンコン、と扉をノックする音に気付き、俺が「はーい」と立ち上がろうとした時には扉が開いていた。
「よー」ジャージ姿の金髪碧眼のナイスバディお姉さん、シンさんがのそのそと部屋に入ってきた。「今暇?」
「暇ですよ」座り直して、座布団を勧める。「どうかしたんですか?」
「あたしも暇でさ、暇潰しに来た」座布団に座り、砂月ちゃんを見やるシンさん。「さっちゃん、今日学校は?」
「夏休みですよ~!」
「昨日学校に行ってなかった?」
「BLのネタが無いか探しに行ってたんです!」
「そうか~」ふわわ、と欠伸をするシンさん。「にー君、君BL読むの?」
「読みませんよ」
「たぶん読まされるぞ」にやぁ、と笑うシンさん。
「そんな気はしてました」
「たぶんじゃないですよ! 先輩は絶対に読むって、さっき約束したじゃないですか!」ぷんすこと怒り始める砂月ちゃん。
「おっ、遂に約束まで捏造し始めたぞ」
「にー君、何か面白い事無い?」ジャージのポケットから煙草のケースを取り出すシンさん。「あ、吸ってもいい?」
「いいですけど、灰皿無いですよ」
「さっちゃん、ライターと灰皿出して」と言いながら煙草を咥えるシンさん。
「はいどうぞー!」と言った瞬間、その手からライターと灰皿が出現した。
「おっ、手品かな?」
「大気を支配して、ライターと灰皿に変換したんです!」シンさんにライターと灰皿を手渡す砂月ちゃん。「手品だなんて、そんな凄くないですよー!」とパタパタ手を振り始めた。
「手品と比較にならないしゅごさだと思うけどなぁ」
「はぁー……」紫煙を吐き出して気持ち良さそうなシンさん。「にー君って煙草吸うの?」
「吸いませんよ」
「アルコールは?」
「飲みませんよ」
「女は?」
「童貞ですよ。って何言わせるんですか」
「まじかよ、ふーん」適当な相槌のシンさん。「興味ないの?」
「無いですね」
「無いに決まってるじゃないですか! 先輩は愛火さんとイチャイチャするためにここに来たんですよ!」ダンッ、とローテーブルを叩く砂月ちゃん。
「落ち着いて? 取り敢えず砂月ちゃんは俺の情報の捏造をやめよ?」
「そっかぁ。まぁ健康的だからいいんじゃない?」ぷはぁ、と紫煙を吐き出すシンさん。
「シンさんの相槌がどこに繋がってるかでだいぶ返答に困るんですが」
「そろそろお昼ですけど、臣さんはお昼どうするんですか?」視線をシンさんに向ける砂月ちゃん。
「メイちゃんにそうめん頼んでおいた」煙草の吸殻を灰皿に落とすシンさん。「君らは?」
「自分、さっきまで先輩の設定練ってたから、朝ご飯もまだです!」
「もう既に捏造された後だったのか」肩を落とさざるを得ない。「俺は朝にコーヒーだけ」
「じゃああんたらもそうめんにしたら? あたしの分と一緒に作って貰えばいいじゃん」と言って吸殻を灰皿に押し付けると立ち上がるシンさん。「今メイちゃんに頼んでくるわ」
「じゃあ自分は先輩から聞き出した情報を纏めて物語練り直すかなー」うーん、と背を伸ばす砂月ちゃん。
「あっ、俺の活躍はもう確定なのか」
パタム、と部屋の扉が閉められ、客がいなくなった部屋でのんびりと寝転がる。
畳の匂いが心地良くて、また微睡みの世界に落ちそうになっていた。
そう言えば祖母ちゃんが亡くなったって言ってたのに、誰も気落ちしてないな。てか、遺体はどこにあるんだろう?
今度式子さんに聞かなきゃなー、と思っている内に、うつらうつらしてきてしまうのだった。

【後書】
話を聞かない人しか出てこない感じですが、何で最近話を聞かない人を綴る事が増えたんだろうと考えた結果、最近周りに話を聞かない人が多いからだと気づきました(私含む)。
話を聞いて欲しい、と言う根底の願いがこの物語には含まれているのかも知れません。知らんけど。

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