2018年4月22日日曜日

【神否荘の困った悪党たち】第4話 神否荘の朝【オリジナル小説】

■あらすじ
非現実系ほのぼのニートフルコメディ物語。宇宙人、悪魔、殺し屋、マッドサイエンティスト、異能力者、式神、オートマタと暮らす、ニートの日常。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【Fantia】で多重投稿されております。



【第4話 神否荘の朝】は追記からどうぞ。
第4話 神否荘の朝


「マルゴーマルマル、二糸亞贄様、おはよう御座います」

パパーンッ、とカーテンが開け放たれ、陽光が俺の頭に降り注いだ。
ベッドの上で訳も分からず起き上がると、メイド服の女の子が俺を見つめていた。
「……おはよう」
「おはよう御座います。朝餉は何に為さいますか?」
「……まだ五時だよね?」
「ポジティヴ。現時刻はマルゴーマルフタです」
「……もう少し寝ても良い?」
「承服致しました。次回の起床時刻を設定してください」
「えー……と、じゃあ八時で」
「起床時刻を設定。マルハチマルマルに二糸亞贄様は起床予定。失礼致しました」
パシーンッ、とカーテンを閉め切ると、部屋の外に出て「おやすみなさいませ」と深々とお辞儀し、パタム、と音を立てないように扉が閉められた。
「……」
まさかメイちゃんが起こしに来るとは思わず目が冴えてしまった。寝直そうとも思ったけど、折角起こして貰ったんだからワガママ言わずに起きれば良かった。
そんな事を思いながらベッドを這い出ると、トイレに行こうと部屋を出る。
すると向かいの部屋からラヴファイヤーさんが出てくる所に出くわした。
星柄のピンク色のパジャマで、サイズが全然合ってないから、たぶん女の子用だと思う。裾も袖もぱつんぱつんで、見てて視線を逸らしたくなった。
「おっ、孫君おはようっす!」大きく手を挙げるラヴファイヤーさん。「孫君、朝早いっすね! 孫君も仕事っすか!?」
「おはよう、ラヴファイヤーさん」矢継ぎ早に言われては挨拶を返すので精一杯だ。「俺、仕事してないんです、ニートなんです」
「そうなんすか? 同じニートのニャーさんとかシンさんとか朝遅いっすよ? 僕が仕事行くまでに起きてきた事無いっすよ!」
「仕事って、朝から契約しに行くの?」悪魔が朝から仕事ってしゅごい違和感が。
「勿論っすよ! 昨日はうっかりサボっちゃったっすからね! 今日はその分取り返さなくちゃっす!」グッと拳を固めるラヴファイヤーさん。「てか、ラヴファイヤーさんって、そんな、恥ずかしいっすよ!」
「あっ、ごめん、何て呼べば良いかな?」
「ラヴファイヤー君で良いっすよ!」
「あっ、恥ずかしいってそっちなんだ」
ラヴファイヤー君はペタペタとクマの顔が描かれたスリッパを履いて、ラヴファイヤー君の部屋の隣、つまり東側の真ん中の部屋であるキッチンに入って行った。
俺は漏れそうだったので自室の隣室、つまりトイレに入って用を足すと、脇の洗面台に並んでいる歯ブラシを見て、自分の分が有る事を指差し確認。そのまま自室に帰ろうと思ったけど、何と無く気になったのでキッチンまでペタペタ向かってみる事に。
暖簾をくぐって入ると、小さな厨房みたいな造りになってるキッチンで、ラヴファイヤー君が料理をしているのが見えた。冷蔵庫から卵を取り出して、油の敷かれているフライパンの上に、片手で卵を割って投下。慣れた手つきで焼いている。
「目玉焼き作ってるの?」
「そうっすよ~、朝ご飯は目玉焼きだけって決めてるんす!」
「しゅごい質素だね」
「代わりに五枚食うっすけどね!」
キッチンの別の台には確かに目玉焼きの姿が確認できた。皿の上に重ねられた目玉焼きの数、四枚。
「で~きたっす!」フライパンからするっと目玉焼きを皿に落とすと、五枚の目玉焼きが重なった皿を片手で持って廊下に向かうラヴファイヤー君。
「そう言えばどこで食べるのそれ?」考えてみたら食堂みたいな部屋が無い。
「中庭っすよ! そこで空を見ながら食べるんす! 美味いっすよ!」と言ってクマのスリッパを脱ぎ、廊下に腰掛けるラヴファイヤー君。足を中庭に向けてプラプラ揺らしながら、手で摘まみあげた目玉焼きを食べ始める。
「うまぁーっす! 流石僕っす! 料理の天才っす! うまぁーっす!」と言ってとても楽しそうに目玉焼きを食べまくっている。
「いつもこの時間に起きてるの?」隣に腰掛け、一緒に朝五時の青空を見上げる。今日も暑くなりそうだなーと思いながら。
「そうっすよ~、悪魔の朝は早いんす! 六時には出掛けるっすからね!」目玉焼きをモリモリ食べながら応じるラヴファイヤー君。「終わるのは七時くらいっすかね~」
「十三時間も外に出てるってしゅごいね」感嘆しちゃう。
「え? 朝の七時っすけど」
「一時間しか働いてなかった」
「一時間も働いてるって言って欲しいっすね! その後喫茶店でお茶するっすよ! で、それからまた一時間働いて、十時にブランチ食べるっすよ! で、それから一時間働いて、十二時にお昼ご飯食べるんす! でお昼休憩挟んで、一時間働いて、三時のおやつ! で、帰るっすよ!」
「食べるのが仕事みたいだね」
「お腹空くっすからね~、たくさん食べないと動けないんす!」
楽しそうに喋りながら、あっと言う間に目玉焼きを平らげたラヴファイヤー君は、「ご馳走様っす! お粗末様っす!」と言って皿を持って立ち上がり、キッチンの方に向かって行く。
立ち上がって後を追い駆けると、皿をサッと洗って食器乾燥機に入れてる所を目撃した。
「何でも自分でやらなくちゃいけないんだ」感心しながら眺める。
「僕、今まで何もさせて貰えなかったっすから、今は何でも自分でやりたいんす!」
「貴族とかだったの?」
「王様っす! 魔界の王様だったんすよ僕!」
「えっ、それってもしかして」
「そう! 社長っす!」ピシッと俺を指差すラヴファイヤー君。
「あっ、イメージしてたのと違ってた」
「俗に言えば魔王って言うんす!」
「全然そう見えない」今も信じられない。
「そうっすか? 何か王様オーラ出てないっすか?」
「微塵も感じられないかな」
「それは嬉しいっす! 僕、王様オーラ嫌いなんすよ! 皆何かよそよそしくなるっすからねぇ、アレは嫌っす!」ぶるぶると体を震わせて応じると、高級そうな腕時計に視線を落とすラヴファイヤー君。「いけないっす! 孫君との話に夢中になってたら遅刻しそうっす! また今度のんびり話そうっす!」
「あっ、時間取らせちゃってごめんね」
「構わないっすよ! 孫君と話が出来て楽しかったっす! じゃあまたっす!」ビシッと敬礼すると暖簾をくぐり、ラヴファイヤー君は自室に戻って行った。
「何か思ってた以上にしっかりしてるなぁ、ラヴファイヤー君」シミジミと呟く。「てか社長なのに働いてるんだ、しゅごいなぁ……」
特にやる事も無いので部屋に戻ろうかなーと中庭を眺めながら廊下を自室に向かって歩いていると、俺の部屋の隣の隣の部屋から砂月ちゃんが出て来た。眠そうに目を擦りながら欠伸をして、ペタペタと素足でトイレに向かって行く。
「あっ、おはよう」声を掛けたが、砂月ちゃんは反応せずトイレに入って行ってしまった。「声小さかったかな」
トイレの前で待つ訳にも行かなかったから自室に戻って、改めて寝直す事にした。

◇◆◇◆◇

「マルハチマルマル。二糸亞贄様、おはよう御座います」
パパーンッ、とカーテンが開け放たれ、再び陽光が俺の頭に降り注いだ。
今度はさっきよりぱっちり目が覚めた。欠伸をしながら起き上がり、メイちゃんを見据える。
「おはよう」
「おはよう御座います。朝餉は何に為さいますか?」
「何が有るの?」
「お勧めはコーヒーですが」
「じゃあそれで」
「承服致しました」ぺこりと頭を下げると、突然メイド服の胸を開き、中からマグカップを取り出した。
「えっ、その胸マグカップなの?」
と言ってる間にマグカップを口元に運ぶと、「だぁだぁ」と口から黒い液体を吐き出した。
「お待たせ致しました、コーヒーで御座います」と言って湯気の立つマグカップを手渡してくるメイちゃん。
「飲むのにこんな勇気のいるコーヒー初めて」受け取ると、人肌くらいの熱を放っていた。「これ飲んだ方が良い?」
「飲まれないのですか?」不思議そうに小首を傾げるメイちゃん。「もしや、ブラック派では有りませんでしたか」
「いやそう言う問題じゃないんだけど」
「ミルクを足しますか?」
「あっ、じゃあお願いします」
ミルクはどこから出すんだろうと思って手渡すと、メイちゃんはマグカップを鼻に宛がい、「ブッ」と鼻穴から白い液体を噴き出し、指で掻き混ぜると、「これでカフェオレになりました」と表情筋が一切動かないまま再びマグカップを手渡してきた。
「流石にこの期待は裏切られたかったなぁ……」茶色になった液体を見下ろして、苦笑い。
「コーヒーがお口に合いませんでしたか?」不思議そうに小首を傾げるメイちゃん。「レモンジュースとかりんとうならご用意できますが」
「あっ、それはもう絵面が大変な事になる気がするから遠慮しとくよ」流石にそれは止めざるを得ない。「じゃあ有り難く頂くよ」正直このまま返したい所だけど、飲む事にした。
ずびび、と口に含むと、確かにコーヒーだった。ミルクは控えめで、目が冴えるキレだ。
「美味しい」と思わず感想が漏れた。
「お褒め頂き、有り難う御座います」ぺこりと頭を下げるメイちゃん。「お着替えはいつ為さいますか?」
「あっ、もしかして洗濯してくれるの?」マグカップを携えたまま立ち上がる。
「神否荘の家事は全てわたくしメイに一任されております」胸に手を当てて応じるメイちゃん。
「えっ、でもラヴファイヤー君は自分でご飯作ってたみたいだけど」
「九窓愛火様はわたくしの申し出を拒否されました」心なしか寂しそうな雰囲気を醸し出してるメイちゃん。「二糸亞贄様も拒否為さいますか?」
「あっ、俺はメイちゃんにお願いするよ」
「承服致しました」心なしか嬉しそうな雰囲気を醸し出してるメイちゃん。「わたくしが夜着を洗濯致しますので、回収時刻を設定してください」
「あっ、今着替えるから、外で待ってて貰って良い?」
「承服致しました。合図を受信するまで廊下で省電力待機モードに移行致します」部屋を出て、ぺこりと頭を下げる。「どうぞごゆっくり」パタム、と小さく音を立てて扉が閉まる。
「しゅごい所に来てしまった感」感想を呟くとマグカップを机に置き、まだ纏めてない荷物の中から着替えを取り出し、パパッと着替える。洗濯物を持って部屋を出ると、扉の隣で瞑目しているメイちゃんを見つけた。「着替え終わったよ」
「有り難う御座います、確かに洗濯物をお受け取り致しました。洗濯が終わり次第、お部屋のタンスに収納させて頂きます」ぺこりと頭を下げると、俺の洗濯物を抱えて中庭の方に向かって歩いて行く。
どうするのかなー、と思いながらのんびり眺めてると、メイちゃんは中庭に降り立ち、昨日バーベキューの器具が有った辺りで立ち止まると、突然地面が割れて大きな洗濯機がせり上がって来た。
そこに俺の洗濯物を入れ、スイッチを押すと、ゴウンゴウンと音を立てて洗濯機が動き始めた。
「あら、亞贄君、おはよう御座います」
振り返ると、廊下をのんびりした動きで歩いて来るマナさんの姿が見えた。
「おはよう御座います」ぺこりと頭を下げる。「中庭に洗濯機が埋まってるんですね」
「そうなの~」うふふ、と微笑むマナさん。「私が改装したのよ?」
「そんな気はしてました」コックリ頷く。
「亞贄君は今からお勤め?」
「俺ニートなんでお勤めは無いです」
「あらあら、そうなの~」頬に手を当てて微笑むマナさん。「じゃあこれからお勤めかしら?」
「お勤めしてないんです」
「あらあら、今日はお休みなのね~」
「そんな感じです」
「朝ご飯は食べたかしら?」
「メイちゃんのコーヒーを頂きました」
「あらぁ~、美味しかったでしょう?」
「出来れば人の穴から出てこないコーヒーが飲みたかったです」
「それは良かったわ~、メイちゃんもきっと喜んでるわ~」
「くそう、話が噛み合うタイミングが少な過ぎる」
「じゃあお勤め頑張ってね~」
手を振って部屋に戻って行くマナさんを、手を振って見送る。
「何とかマナさんと意思疎通図れないかな……」
と、ぼんやり呟きながら、ゴウンゴウンと回る洗濯機をメイちゃんと一緒に眺める。

【後書】
メイちゃんの体の中にはコーヒー豆が常備されているので、いつでも挽き立てのコーヒーがうんたらかんたら。
と言う訳で「神否荘の一日」編スタートです。のんびり寛いでいってくださいましー。

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