2019年11月19日火曜日

【紅蓮の灯、隻腕の盾使い】003.盾と斬〈3〉【モンハン二次小説】

■あらすじ
隻腕の盾使いリスタは、狩人都市アルテミスにて、或る情報を求めにやってきた。週刊少年誌テイストのモンハン二次小説です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【Pixiv】で多重投稿されております。

Twitter■https://twitter.com/hisakakousuke
003.盾と斬〈3〉


 リスタが単独で斬竜を相手にしているのを見かねた様子で、シアが駆け込んで来る姿が視野の端に映り込んだ。
 リスタ自身、シアの使用する武器が太刀である事以上の情報を持ち得ていなかったため、狩猟自体は行えるのだろう、程度の認識しか懐いていなかった。
 驕りは有さない。そして、相手に対して蔑みも持たない。
 シアがどれほどの腕前を有するハンターであろうと、己がやる事に狂いは生じない。ディノバルドと手前の存命を賭けた殺し合いを制する、それだけだ。
 故に、期待をしていた訳でも、眼下に見ていた訳でもなかったのだが――
 シアは抜刀もせずに、太刀を鞘に納めたままリスタに、そしてディノバルドに肉薄すると、前屈みの姿勢のまま、前方に向かって大きく跳躍――斬竜がそんな隙だらけの挙動を見逃す筈も無く、まずこの煩い小虫を叩き潰そうと素早く反転――筋肉の塊且つ鉄骨染みた鋼の尻尾を彼女の総身に叩き込み――――
 リスタの想像した世界では、良くて全身複雑骨折。悪くて、全身打撲による即死だと踏んで、咄嗟に大木染みた尻尾の軌道を逸らそうと駆け込み――その直前、流れるような所作で抜き放たれたシアの太刀は、白刃を大気に晒した瞬間、ディノバルドの筋線維の幹をあっさり斬裂した――ように見えた。
 現に鋼の巨木が彼女を打ち据える事無く擦過している事からも、尻尾は紛れも無く“両断された”筈――否、されていなければ、そもそもシアが無事で済む筈が無いのだ。
 けれど刀身染みた斬尾は彼女を通過し、彼女は無事の態で白刃を鞘に納めて鍔を鳴らしている。
 何が起こったのか数瞬理解に苦しんだリスタだったが、視界に納めていた現実が少しずつ脳髄に理解を及ぼしてくる。
「……アレを回避するかね普通……!」
 ――太刀と言う武器を扱う者は、須らく素早い身のこなしを要求される。
 大剣であれば、その幅広な剣の腹で攻撃を受け止められるし、片手剣であれば、付随する小盾で攻撃を受け流す事が可能だ。
 けれど太刀の場合は、モンスターの攻撃をマトモに受ければ刀身は衝撃に耐えられずに自壊し、小盾を装備する余裕も無い。
 つまり、戦闘に於いて太刀は、モンスターのあらゆる攻撃を躱さなくてはならない。この立ち回りが出来なければ、単純に死期が早まるだけの事である。
 リスタの洞察眼に狂いが無ければ、シアはディノバルドの尻尾が直撃する直前の直前に、咄嗟に回避していた。そう、表現するしかない。何せ、リスタの類い稀なる動体視力を以てしても追い切れる速度ではなかったのだ。
 故に――“シアは尻尾を直前で回避した”……それ以上の説明が不可能だった。
 斬竜は斬竜で己の渾身の一撃が空振りに終わった事が理解できていない様子だったし、剰えその尻尾が縦に霜の降りた亀裂が走っている事に、遅れて気づく始末だった。
 たった一撃。それだけで、シアの実力の底知れなさが、リスタの総身に叩きつけられる。
 驚き、動きを止めて見惚れていたリスタに、まるで「思い知ったか?」と言わんばかりに、無表情ながらも偉そうに胸を張るシア。
 そしてそんな自慢げに表現するシアに、「してやられた」と言わんばかりに顔を顰めるリスタ。
 互いの手の内を一つずつ晒したが、これはそもそも互いの力量を探り合うための狩猟ではない。技術点の奪い合いでもない。厳然たる命の奪い合いの最中で見せつけ合っただけの、この場にいる己自身の存在証明、その主張でしかない。
「背中を預けるにゃァ早いかもだが、まァいい」半身を下げて、小盾を正中線に合わせて構えるリスタ。「勝手に死なれねェなら、それだけで充分だ」
「本来の任務、無視して戦ってる事、忘れないで」太刀を鞘に納めたまま、淀み無い足取りでリスタの隣に並び立つシア。「本当は、マスターが相手する奴。ボク達の相手じゃない」
「だったら呼びに行けよ、その間に仕留めておいてやるからよ」「やだ。ボクだって戦いたい」「戦闘狂」「それはキミ」
 会話はそこまでで、斬竜が挙動を変えたのを見て取る二人。
 尻尾を口に銜え込み、ギャリギャリギャリギャリと凄まじい鋼を擦るような音を迸らせ、体内に在る灼熱機関を使って、灰青色だった尻尾を熱で真っ赤に燃え上がらせていく。
 怒り状態にシフトしたのか、ただでさえ凶暴性が満ちている瞳に殺意の煌めきが踊っている。
 やがて巨大な刀身染みた尻尾に満遍無く高温が行き渡ったのを確認したのか、ディノバルドの口から滑り出た尻尾は、目にも止まらぬ速度で周囲のあらゆる樹木を撫で切りながら振るわれた。
 その斬撃を受けるなど、人間には不可能であろう――そう思わせる速度と威力。人間がマトモに受ければ、その熱量と速度、そして尻尾の密度によって、瞬間的に摩滅――蒸発と言っても過言ではない死に方を晒すに違いなかった。
 それを知識として知っているリスタは咄嗟に尻尾の軌道上から逸れるように伏せ、シアも先刻同様、リスタでは目に追えない速度で回避を敢行する。
 辺り一帯、静かな森林地帯だったのが突然円形状に樹木が伐採され、陽光が燦々と行き渡る、切り株だらけの野原へと姿を変えてしまった。
 当然ディノバルドは獲物を仕留められなかった事を認識しているため、その憎悪を零す事無く鋭い視線で周囲一帯に害意を配り、見つけた瞬間その口腔から唾を吐くように火炎液を吹き出した。
「っとぉ!」
 当たれば全身炎上待ったなしの火炎液を躱しながら、それでも着弾しそうな箇所に小盾を宛がって防御――炎上するも構わずそのまま疾走、ディノバルドの刃圏へと駆け込む。
 小盾の一撃は然して重くは無い。打撃武器の粋であるハンマーに比べれば、昏倒するまでの時間も余計に掛かるし、小盾を本来補助武器として使う片手剣の連撃が出来ない今、素早く属性及び状態異常を伴うダメージを蓄積する事も出来ない。
 ハンターとして仮にこの武器を正規として扱う者がいるのであれば、どう頑張っても二流が限度であり、そもそも狩猟に向かないと愚者の烙印を捺されるのが関の山だろう。
 剰え、片腕を封印されたハンターが狩猟に馳せ参じるなど、自殺行為も甚だしい。万全の状態がそもそも大前提であるにも拘らず、強大なモンスターを相手に隻腕で戦うなど無謀に尽きる。
 けれど――もし片腕を強要され、尚且つ狩猟に挑まなければならないと言うのであれば――リスタの小盾と言う武器のチョイスは、強ち間違いでもなかろう。
 肉薄する小虫に再び火炎液を吐きつける。今度は回避が出来ないと悟るや否や、小さな盾を振り抜いて火炎液を散らし、更に猛然と突進――眼前で跳び上がると、火炎液を吐いた仕草のままの顔を小盾で殴りつける。
 鋼を打つような硬質且つ重低音に、遂にディノバルドはグラリとよろめき、辛うじて踏鞴を踏んで態勢を立て直す。
 傍目に見ていたシアでも分かる。リスタのあの小盾による殴撃は、凄まじい威力でディノバルドの体力を削っていると。それこそ、脳震盪の本職であるハンマーに引けを取らない程の速さで、ディノバルドの意識を奪っているのだと、否応にも知れる。
 地に足を着けての殴打ではない。踏ん張る余地が無い、空中での打撃。それだけで、モンスターがよろめく程のダメージを蓄積させるなど、未だかつて聞いた事が無かった。
 戦闘が始まって以降、決してリスタを侮ってはいなかった。けれど――まさかここまでの実力が有るとは、思ってもみなかったのだ。
 足元がぐらついた斬竜を見逃す程、リスタは甘くも無いし悠長でもない。この時を切望していたと言わんばかりに更に肉薄――ディノバルドが持ち直す猶予も与えずに追撃――過つ事無くその頭角を抉るように殴りつける。
 短期間に幾度も重量級の殴打を喰らったためだろう、遂にディノバルドの意識は巨躯を離れ、もんどりを打ち、樹木をへし折りながら倒れ込んだ。眩暈を起こしたのだろう、その凶悪な面構えからは想像できない、間の抜けた表情で焦点を飛ばしている。
「――チャンスタイムだ、暴れるぜ!」
 それはハンターにとって最大の好機。今こそ与えられるだけのダメージを与えて、モンスターの生命力を奪えるだけ奪う。命の奪い合いをしているのだ、弱ったところを狙わないハンターなど有り得ない。
 倒れ込んだディノバルドの頭角に瞬時に辿り着いたリスタは、真剣な表情で一歩踏み出すと――「オオオオアアアアッッ!!」全力で小盾を振り薙ぎ、右に左にと、斬竜の頭角を連打し始めた。
 盾が頭角に衝突する度に重々しい打撃音が轟き、硬質な甲殻や鱗が弾け飛ぶ。見る間にその形相が砕け崩れていく。
 高々数十秒の殴打だ。されど、その数十秒の殴打で、ディノバルドの凶相は死相に代わり、シアが追撃を与える前に、その瞳から生命活動の灯が消え失せた事を視認できた。
 あまりに――あまりにも、ハンターとして何かがズレているリスタに、シアはどう声を掛けるべきか迷い、その姿を黙視する事しか出来なかった。
「いっちょあがりだな」全身をディノバルドの血液で汚しながら、リスタが呼気を整えるように肩をぐるぐる回す。「有言実行だ。さっ、凱旋と洒落込もうぜ」
「……」
 何故だろう――この少年の狩猟には、一切危険な場面など存在しなかった。寧ろ悠然たる態度で挑んでいたし、ほぼ一方的に斬竜を仕留めるに至った。けれど、何故か……危うさを、禁じ得なかった。
 死に急いでいるとも、死に場所を求めているとも違う、言い知れぬ悪寒が、シアの足下から這い上がってくる……そんな幻覚に囚われるのだった。

【後書】
 週刊少年誌っぽさと言えば! 主人公が明らかにヤバいってところだとわたくしは思う訳です!(挨拶)
 と言う訳で第3話をお送りしました。【ベルの狩猟日記】で活躍が有りました、あの超人アフロ青年を彷彿とさせますが、果たしてリスタ君はマトモなハンターなのでしょうか?? 否、マトモなハンターである筈が無いッ!(反語)
 そんなこったで、まさかの討伐に至ってしまったディノバルドです。次回、何やら暗雲立ち込め…? …お楽しみに!w

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    明らかにアフロの動きっ!wまともなはずはありません。
    そしてシアちゃんまでその実力を少しだけ見せてくれてます。
    彼らがこれからどうなるのか楽しみですが、ちょっと心配です。
    後書にも暗雲立ち込めとか書いてあるしw

    フロンティア終了まで一月きってますね。ちょっと覗いてみようかな。

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv



    返信削除
    返信
    1. 感想有り難う御座います~!

      明らかにアフロの動きっ!ww これアフロ直伝ならマトモである訳が無いですよねww(笑)
      シアちゃんもね、やはり只者ではないのです…!
      そうなのです、のっけからいきなり不穏が漂っております…!w 

      おお、もうそんな時期になりましたか…無料期間に入りましたし、ちょっと覗いてみるのも良さそうですね!( ´∀`)bグッ!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

      削除

好意的なコメント以外は返信しない事が有ります、悪しからずご了承くださいませ~!