2020年9月12日土曜日

【ポケットモンスター東雲/浅葱】第7話 リヴェンジ・ティス・マッチ!【ポケモン二次小説】

 ■タイトル
ポケットモンスター東雲/浅葱(シノノメ/アサギ)

■あらすじ
ポケットモンスター(ポケモン)のオリジナル地方であるホクロク地方を舞台に、少年少女がポケモンチャンピオンを目指す、壮大な冒険譚です。

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【第7話 リヴェンジ・ティス・マッチ!】は追記からどうぞ。
第7話 リヴェンジ・ティス・マッチ!


「さーて、今度はどんな作戦で来るのカナー?」

 アイテツジムの代わりである、“相撲場”と呼ばれる公園の中央――淡水と海水が入り混じる噴水を凍らせて作成した氷の土俵――その上にマリルの力を借りて登ったシノノメとアサギを見やり、満悦の笑みを浮かべるダイヤ。
 モンドもその隣でマリルを撫でながら、興味深そうに二人のチャレンジャーに視線を投じる。
 シノノメはアサギとひそひそ話を終えてから、ディ子をポンポンと撫でて、改めてジムリーダーの兄弟に向き直った。
 その表情は、自信に満ちている。明確な解答を得たと言わんばかりの晴れやかな笑顔に、コンゴウ兄弟は互いに視線を配る。
「……どうやら、必勝法をゲッツしたみたいデース。モンド、これは手加減の余地は無いネー!」
「ええ、ちゃんとジムリーダーの責務を果たしましょう、兄さん」
 コンゴウ兄弟が頷き合うのを見て、ナックラーの頭をポンポンと撫でたアサギは、チラリとシノノメを一瞥した。
「……抜かるなよ?」
「任せてよ! この大一番、必ず勝つよ! アサギ!」
「二度の敗北は有り得ない。やるぞ、シノノメ!」
 互いにコツンと拳を合わせて、意気は充分。
 四人は互いに頷き合うと、ダイヤが大きく手を振り上げて、――振り下ろした。
「さぁハッケヨイ! ノコッタノコッタ!!」
 氷の土俵の上で繰り広げられるポケモンとトレーナーの相撲が、幕を開ける。
 ダイヤは前回同様、パルシェンを殻にこもらせて完全守備の態勢。モンドのマリルは今回も遊撃の役割を果たしながら、ディ子とナックラーを攪乱・撃墜を狙う意図が見え隠れしている。
 シノノメとアサギは互いに頷き合うと、まずはシノノメが動いた。
「ディ子! ひのこ!」「ワウ!」
 ディ子の口から吐き出される火の粉が、氷の土俵に舞い散る。狙いは動きの無いパルシェン――ではなく、マリルに向かっている。
「――む。マリル、躱しながら、みずでっぽう!」「ピュゥ!」
 身軽に立ち回るマリルが、降り注ぐ火の粉を躱しながら水鉄砲を撃ち放つ。
 その瞬間を見極めるように、アサギが差し込むように声を上げる。
「ナックラー! どろかけ!」「グワワァ!」
 ディ子に向かっていた放水を、泥で相殺――は出来ないまでも、威力を軽減・軌道を逸らす事に成功するナックラー。
 ディ子は水鉄砲に被弾する事無く、シノノメと一緒に氷の土俵を走り回る。
「ディ子! ひのこ!」「ワウワウ!」
 マリルからの攻撃を受けずに、ディ子は惜しみなく火の粉を散らしていく。
 ナックラーからの妨害行為により、マリルの水鉄砲、並び泡にしてもそうだ。泥や砂によって無理矢理軌道を変えさせられたり、威力の減衰によって届かなかったりと、ディ子の攻撃を止める事が出来ない。
 けれど――
「ムゥ~? パルシェンを無視して大立ち回りしてマース。ちょっとそれは――油断し過ぎじゃないデースカー?」
 ひたすら殻にこもっていたパルシェンが、チラリと二枚貝の隙間から顔を覗かせた。
 それに呼応するようにダイヤが微笑み、指を鳴らしながらナックラーを指差した。
「パルシェン! れいとうビーム!」「コォォ!」
「ヤバッ! ディ子! ひのこ!!」「ワウー!」
 放たれた冷気の放射攻撃に、ナックラーが狙い撃ちに――される前に、ディ子の火の粉が冷気を軽減――ナックラーの全身に霜が降りるも、まだ体力には余裕が有る様子だった。
「助かった!」シノノメの対応に短く感謝を投げると、アサギはパルシェンを指差した。「ナックラー! どろかけ!」「グワァーッ!」
「させませんよ、マリル、みずでっぽう!」「ピュワァーッ!」
 ナックラーの泥をあっさりと緩和されてしまい、パルシェンには傷一つ付かずに、辺りに泥が散らばるだけだった。
「ディ子! ひのこ!!」「ワウ!」
「ナックラー! すなかけ!」「グワワ!」
 挑戦者二人の攻撃は、ほぼ……いや、全く届いていないのは、明白だった。
 ポケモンの練度が違い過ぎるために、火の粉が当たっても、砂や泥を掛けられても、マリルは微細なダメージを受ける程度で、立ち回りに変化は無いし、或る程度は動いている間に回復してしまう。
 パルシェンに至っては、ダメージを与えようにもマリルに一切を妨害されてしまい、傷一つは疎か、攻撃がそもそも届かない。
 ジリ貧――ジムリーダーバトルを観戦している観客は皆、チャレンジャーの圧倒的不利に目を覆いそうになっていた。
 相性が悪い。練度が足りない。ポケモンバトルに於いて何より優先されるその二つの要素を満たしていないのだ。勝てる訳が無い――勝てる道筋など、有り得ない。
 二人の挑戦者は被弾しないように、土俵から落とされないように、氷の土俵の上をひたすら走り回っている。
 マリルの泡や水鉄砲、そしてパルシェンの冷凍ビームを警戒しての立ち回りだが、それではそもそもこのバトルには勝てないのだ。
 相手を落とすか、戦闘不能に陥らせるか。その何れかが叶わない限り、完全にジリ貧である。
 どれだけ逃げ回っても、どれだけ小さなダメージを蓄積しても、勝つ経路は用意されていない。
 挑戦者が負けるのは、確定された未来だ。
 そんな所感を懐いた観客がゆっくりと踵を返そうとしていた、その最中。
 公園中に、破砕音が響き渡った。
 観客はその謎の音声がどこから聞こえてくるのか音源を辿ると――氷の土俵から、発せられていると気づく。
 何が起こっているのか気づいたのは、コンゴウ兄弟も同じタイミングだった。
「――――ナルホド! 狙いはこれデスカー!?」ダイヤの瞳が爛々と輝く。「併し遅いデース! パルシェン! れいとうビーム!」
 氷の土俵が真ん中から割れ始めているのを見て取ったダイヤが咄嗟に指示を飛ばすも、シノノメとアサギはそれを見切った動きで、互いに息切れしながら声を張り上げる。
「ディ子ーっ! ひのこーっ!!」「ワオーンッ!」
「ナックラーッ! どろかけーっ!!」「グワワーッ!」
 冷凍ビームの強さは、パルシェンの練度からして、防げるものではない。
 けれど、ディ子の放った火の粉が、ナックラーの泥と混ざり合い、熱を持った泥が冷凍ビームを著しく温度を上昇させ――――蒸気を齎しながら防ぎきり、氷の土俵は真ん中からぱっくりと砕き割れ、土俵の端にいたパルシェンの重さ――130キロ近い体重により氷の大地が大きく傾き、為す術も無く、コンゴウ兄弟とパルシェン、そしてマリルが湖に滑り落ちた。
 その反対側にいたシノノメとアサギ、ディ子とナックラーはふらつきながらもその場に留まり、――疲れ果てた様子でへたり込んだ。
「勝った……んだよね……?」重そうな瞼を開けて、アサギを見やるシノノメ。「あたし達、ジムリーダーに……」
「あぁ、ちゃんとルールに則って、――勝ったんだ、おれ達は」こっくり頷くアサギ。「おれ達の勝利だ」
 アサギの澄んだ笑顔を見て、感極まったシノノメはぷるぷると体を震わせて、――思いっきり腕を振り上げた。
「ヤッター! アイテツジムに、勝ったーっ!!」
 思いっきり叫ぶと、そのまま倒れ込んで、動かなくなってしまうシノノメ。
「……走り過ぎて、体力が無くなったな?」
 同じ状態のアサギがゆっくりと氷の土俵に倒れ込みながら、ゆっくりと瞼を下ろす。
 勝てた。本当に、勝ててしまった。
 シノノメの作戦も確かに勝利の一因だが、互いに信頼していたからこその戦術であり、二人にしか出来ない策でもあった。
 それがアサギには心地良く、そのまま眠りに落ちそうになり――氷の土俵を滑っている自覚をした。
 煎餅のようにぱっくりと割れてしまった氷の土俵である。反対側が割れた時点で、残り半分もやがて自重で傾いでいく。
「ワウワウ!」「グワワァ!」
 動けないシノノメとアサギを、ディ子とナックラーが口で引っ張るも、間に合わない――
 氷の土俵ごと、湖に落下する――直前、筋肉お兄さんが二人と二匹を抱えて湖の外周まで滑空して、下ろした。
 びしょ濡れのダイヤを見上げながら、シノノメは霞む視界のまま、掠れた笑声を零した。
「筋肉お兄さん、本気を出してたら、敵わなかったなぁ……」
 そのまま意識を失ってしまうシノノメとアサギに、ダイヤは力こぶを作りながら八重歯をキラリと輝かせた。
「フフフ……それでも戦略勝ちした事には変わりないデース! チャレンジャーシノノメ、チャレンジャーアサギ! 二人にはこのジムバッジ、スモウバッジをプレゼントネー!」
 キラリと輝くバッジを掲げるも、モンドが「二人とも寝てるから、それはまた後でね?」と、呆れた表情でダイヤの肩を叩くのだった。

◇◆◇◆◇

「――まるでママゴトじゃねェか。何がジムバトルだ、こんな……こんな甘ったるい屠り合いが有るかよ……クソが……ッ」
 ジムバトルが終わり、観客が徐々に引いていく相撲場に、一人の少女の感想が混ざり込む。
 シノノメより年上と思しき、ハイスクールに通っていそうな上背の少女は、憎悪に満ち充ちた表情で崩れ落ちた氷の土俵を見やり、血が滲む程に拳を握り締めている。
 野球帽を目深に被り、鍔で陰になった瞳には殺意の奔流で煮え滾っている。まるで彼女だけ見えている世界が違うのではと錯覚させる程に、彼女の周囲だけが慄然とする程の死臭で満たされていた。
「力だ……ポケモンは兵器だぞ……? それが……何だクソッ、こんなママゴトに浪費されるとかふざけんじゃァねェよ……ぶち壊してやる……何もかも……ッ!」
 ギリ、と噛み締めた奥歯が砕けそうになる程に力強く、少女はジムリーダーである兄弟を睨み据える。まるで――
 まるでこれから、殺害でもしようと言うような、眼差しで。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    ヾ(*ΦωΦ)ノ ヒャッホゥ
    やったぜシノアサ!!ちょーうれしい!!
    二人で勝ち取った価値ある勝利、これからにつながるといいね!

    そして最後に登場する不穏なおねいさん…奥歯砕けろ。

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想コメント有り難う御座います~!

      ヤッター!┗(^ω^)┛
      喜んで頂けている事が嬉し過ぎる…! 有り難う…!
      ですです! 初めてのジムバトルを越えられた彼ら、きっととても成長した筈…!

      奥歯砕けろwww不穏味たっぷりですが、果たして…!

      今回も楽しんで頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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