2020年9月29日火曜日

【ポケットモンスター東雲/浅葱】第8話 マスクドバード【ポケモン二次小説】

 ■タイトル
ポケットモンスター東雲/浅葱(シノノメ/アサギ)

■あらすじ
ポケットモンスター(ポケモン)のオリジナル地方であるホクロク地方を舞台に、少年少女がポケモンチャンピオンを目指す、壮大な冒険譚です。

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■第9話→まだ


【第8話 マスクドバード】は追記からどうぞ。
第8話 マスクドバード


「――――おい、そこの筋肉ダルマ。お前、ジムリーダーなんだろ? ワシと戦え、今すぐに」

 シノノメとアサギを広場の芝生に寝かせたダイヤとモンドの前に、一人の少女が烈々たる感情を覗かせて立ちはだかった。
 ポケモンボールを腰に携えている、野球帽を目深に被った少女は、暗がりから覗く鬼火染みた双眸をジムリーダーの兄弟に突き刺すと、マスクで隠れた口元から憎悪の塊のような声が這い出る。
「ママゴトみてェな生温ィ奴じゃなくて、兵器と兵器を潰し合わせる殺し合いを所望だ。分かるか? こんな詰まらねェお遊戯会じゃなくて、殺意と殺意がぶつかる奴って事だ」
「……オー、血気盛んなのは良い事デース。けれど、ポケモンは兵器じゃないヨ? 大事なパートナー、私達と共に生きる愛すべき隣人デース!」
 ダイヤが腕を広げて筋肉を惜しみなく晒すと、少女は瞳に更なる剣呑さを上乗せして、「――吐き気がするッ」と汚物でも見たかのような反応を示した。
「お前らが……ッ、お前らが言う台詞かそれが……ッ? 強いポケモンこそが正義と示してきた、手前らがそんな戯言を吐かすのか……ッ?」息苦しそうに胸元を掻き毟る少女。「酷ェ悪夢だ……ッ。――アアそうだ、こんなのは悪夢だ……ぶち壊してやる……全てだ、何もかも……ッ!」
 腰のポケモンボールに触れ、少女はダイヤを睨み据えた。烈々たる感情が、度の過ぎた凍える意志を伴って、少女はマスク越しに声を落とす。
「言えよ、ジムリーダーのルールこそが、ジムバトルの全てだ。それに則って――テメエを完膚なきまでに、屠り尽くしてやる」
「……兄さん、もしかして彼女――」「オウイエス、流石の私も気づいてマース。彼女こそが、巷を騒がせている、“ポケモンマーダー”デショー。――モンド、ポケモン警察に通報頼みマース」「……分かりました、どうか無理はしないように」
 モンドとダイヤがひそひそと会話している間も、少女に動きは無かった。
 モンドが小さくお辞儀をしてから立ち去ったのを見計らい、ダイヤが「さて、と」と少女を牽制するようにポケモンボールを構える。
「アイテツシティのジムバトルは、タッグ・アイス・スモウ! ……って、さっきまで見てたヨネ、キミ?」パルシェンを再びポケモンボールから出し、指示を出すダイヤ。「氷の土俵の上でツー・オン・ツーのスモウバトル! 土俵から押し出されるか、戦闘不能になるか、勝敗を決するのはそれだけ! アーユーレディ?」
「……御託はそれだけか?」少女は興味無さそうに吐き落とし、ポケモンボールからポケモン……“かえんポケモン”と呼ばれる火竜のようなポケモン――リザードンと、“カカシぐさポケモン”と呼ばれる全身に棘が生えた人型のポケモン――ノクタスを登場させる。「さっさと始めようぜ、くッだらねェ」
「ム~、あんまりそうつんけんされると困っちゃいマース。もっと楽しくやりませんカー?」
 氷の土俵が生成され、パルシェンと共に降り立つダイヤに、少女は鬱陶しそうに睨み据えるだけで、反応は無かった。
「もうちょっと愛想良く応対して貰いたいものデース……」ガッカリと肩を落としたダイヤは、新たなポケモンボールを構え、中からそっと“とうけつポケモン”と呼ばれる白熊のようなポケモン――ツンベアーを出した。「頼むヨ~、ツンベアー!」
「ゴアァ」ツンベアーはゆっくりした所作で頷き、相手――少女とリザードン、そしてノクタスに視線を投じる。
「勝負を諦める覚悟は出来たか?」少女が野球帽の奥から鋭い眼光を覗かせる。「こっちはいつでもテメエを狩る準備は出来てるぜ」
「……」
 不遜な態度を改めようともしない少女に、ダイヤは不穏な気配を感じずにいられなかった。
 リザードンは、ほのお・ひこうタイプ。ツンベアーがこおりタイプゆえに、タイプの相性が悪い。
 そしてノクタスは、くさ・あくタイプ。パルシェンがこおり・みずタイプゆえに、こちらもタイプの相性が悪い。
 ただ、組み合わせが逆なら――リザードンはパルシェンに対してタイプ相性が悪く、ノクタスはツンベアーに対してタイプ相性が悪い。
 相克するようなタイプで固めてきた少女に、ダイヤは言い知れぬ悪寒を感じていた。
 併し――練度はどうか。先刻のジムバトルとは違い、ダイヤは手加減も手心も加えるつもりは微塵も無かった。
 相手は犯罪者である可能性が濃厚。更に言えば、危険な行動を行う可能性すら有る。本気で叩きのめしてやるのが、ジムリーダーとしての責務だろう。
 パルシェンは先刻のバトルの疲れが若干見え隠れしていたが、まだまだ元気溌剌。更にとっておきのツンベアーも一緒に立ち向かってくれるのならば、百人力だ。
 一方的な戦いになるとは思えないが、ホームでのバトルだ、負ける事はあるまい。
 ポケモン警察が来るまで時間を稼げば良い。後は彼女をポケモン警察に引き渡して、この件は片が付く。
 そう、ダイヤは勝算も程々に、――――最悪のジムバトルを、始めてしまった。

◇◆◇◆◇

「……んぅ?」
 自分が意識を失っていた事に気づいたシノノメは、周囲の喧騒で目を覚ました。
 どよめき、不穏、心配……伝播してくる気持ちをざわつかせる類いの騒音に、「ど、どうしたの……?」と不安になって辺りを見回すと、あの氷の土俵が再び生成されている事に気づいた。
 誰かがポケモンバトルをしている。そんな騒音だ。そしてあの氷の土俵は、アイテツシティのジムバトルの時に生成されると聞いたばかりだ。
 つまり、シノノメが眠っている間に、新たなジムバトルが始まったと言う事なのだろう。
 けれど、どうした事か、シノノメ・アサギペアのジムバトルの時は声援や興奮の声が大きかったにも拘らず、今回は何故か――恐怖や困惑の色が濃い悲鳴や呻き声が大半だ。
「――起きたか、シノノメ」「アサギ……?」
 隣で立ち尽くしているアサギに気づいて、シノノメはゆっくりと立ち上がり、――彼の顔色が真っ青になっている事に気づいた。
「な、何が遭ったの……?」
 シノノメが不安そうに問いかけると、アサギは震えながら顎で氷の土俵の上を示した。
 シノノメは生唾を呑み込んで、氷の土俵の上を見やる。
 そこには、
「…………え?」
 見た事も無いポケモンが、ポケモン――“ではなく”、ダイヤに、攻撃を加えていた。
 土俵の上には、パルシェンと、もう一匹、大きなクマのようなポケモンの姿が有ったが、どちらも戦闘不能一歩手前の態で、全身をツタで覆われて動けなくなっていた。
 その中でダイヤは同じようにツタで動けなくされ、大きな火竜のようなポケモンの拳を、マトモに受けて血塗れになっていた。
「な、何してるの!?」シノノメの悲鳴が弾けた。「何でっ、何でこんな酷い事……っ!」
「……っ」アサギが突然大きく震えて、意識を取り戻したかのように、咄嗟に傍に控えていたナックラーを見やった。「そ、そうだ、助けないと……」
「ディ子!! 行くよっ!!」「ワウ!」「――――待てっ、シノノメ!!」
 シノノメの号令を待っていたと言わんばかりに走り出そうとしたディ子だったが、アサギが咄嗟にその腕を掴んで引き留めた。
 シノノメは困惑した様子でアサギを振り返ったが、彼は自分が何をしているのかすぐには分からなかったようで、一瞬歪んだ表情を見せた後、「――――ッ、おれも行く!」と奥歯を噛み締め拳を握り締め、ナックラーを見据えた。「ナックラー、頼む!」
「クワワァッ!」調子を取り戻した相棒に安堵した様子のナックラーが、自信を覗かせてノシノシとアサギに追従した。
「ディ子! ひのこ!!」「ナックラー! どろかけ!!」
「ワオーン!」「クワワーッ!」
 皆、言わなくてもやろうとしている事が伝わったのだろう。ディ子の火の粉、そしてナックラーの泥は氷の土俵の土台――噴水の根元に向かって次々と降りかかる。
 氷の土俵の上には、ディ子とナックラーの攻撃は届かない。けれど、土俵を断割する程の威力を見せた二匹である、土俵の上からではなく、その根元に直接浴びせれば、もっと早く氷の土俵を溶解できる筈――
 併し、――ひたすら走り回った上で破壊できた氷の土俵である。つい先刻ジムバトルと言う大戦を終えたばかりのディ子とナックラーには、荷が重過ぎた。
「ディ子、頑張って!」「ナックラー、頼む……ッ!」
 その間にも、ダイヤは火竜のようなポケモン――リザードンの拳を受け続けている。既に意識が無いのか、血飛沫が舞うだけで、彼から反応らしい反応は得られなかった。
 このままでは、本当に――――死んでしまうのでは。
「い、嫌だ……っ、そんなの……いや……ッ!」
 あまりの事態に発狂寸前にまで追いやられたシノノメに、アサギも言葉を失っていた。
 ポケモンバトルの域を遥かに超越した、血みどろの殺戮劇場に、観客も悲鳴を上げる事しか出来ない。
 皆、誰も手が出せない領域で行われる一方的な虐殺、蹂躙に、臓腑を締め上げられながら見守る事しか出来ない。
 やがて、シノノメも、アサギも、観客も皆、絶望の眼差しで今から君臨するであろう地獄絵図を想像して阿鼻叫喚を上げる――――その、間際。
「――そこまでですよ、お嬢さん」
 不意に、鳥の羽ばたきが辺り一帯に響き渡ると、視界一杯に黒い羽が舞い散り――――謎の青年が、氷の土俵に降臨した。
「……何だァ、てめェ……?」
 野球帽を目深に被った、殺意に冒された少女の前に立ちはだかったのは、鳥の顔を模した仮面を付けた、黒いツナギ姿の青年。
「僕は……僕は、そう、“マスクドバード”。そう呼んでください、お嬢さん」
 鳥の仮面をした青年――マスクドバードは優雅に一礼すると、背後で毛繕いしている大きなカラスのようなポケモン――“おおボスポケモン”こと、ドンガラスに向かって指をパチンッと鳴らすと、パルシェン、ツンベアー、そしてダイヤを覆っていたツタが弾け飛んだ。
 一瞬の事で理解が及ばないが、どうやらドンカラスが翼から羽を撃ち放ち、それがツタを切り裂いた、ようだった。
「……おい、ジムバトルの邪魔はご法度だろがよ、どう落とし前付けるつもりだテメエ……?」奥歯が砕けんばかりに歯軋りを始める少女。「代わりに死ぬかお前がよォ!!」
 リザードンとノクタスが同時に動き出そうとした瞬間、ドンガラスが大きな黒い翼で牽制するようにマスクドバードを庇った。
「勝敗は決しているでしょう。これ以上の戦闘行為は必要ありません。貴女の勝利、おめでとうございます、アイテツジムは貴女に下りました。……これで宜しいですか?」
 マスクドバードの淡々とした言動に、少女は段々と憎悪を募らせていく。
「勝負が付いただァ……ッ? そいつはまだ生きてるだろ……? ポケモンと同じだろ、戦闘不能になるまで――“死ぬまで戦わせろ”。それとも何か……? 代わりにテメエがここでそのドンガラスと一緒に死ぬか……? エェオイ!?」
「……」
 マスクドバードは沈黙。
 鳥の仮面の奥で視線をさ迷わせ、どうすべきか悩んでいるようだったが、溜め息を吐き散らすと、「――失礼」と言いながらダイヤのズボンを漁り、――スモウバッジを取り出した。
 ジムバッジ――スモウバッジを指で撃ち放つと、少女の手元に収まった。
「ジムバッジを獲得したのです、これ以上ここに用は無いと推察致しますが?」
「……ッ! て、ん、め、ぇ……ッ!!」
 激昂寸前の少女だったが、その直後に無数の足音が響いてきて、「大人しくしなさーい!」「動くなー! 手を挙げて跪けーっ!!」と、喚き声がワンワンと木霊し始めた。
 見ると、広場に続々と警官――ポケモン警察の巡査が駆け込んで来る様子が見て取れた。
 少女は盛大に舌打ちをかますと、「次に見掛けたら殺してやるからな、クソ鳥野郎」と指差し、ノクタスをポケモンボールに納めると、リザードンの背に乗って飛び去って行った。
「待ちなさーい!!」「ひこうタイプのポケモンで追え追え!」「皆さん落ち着いてくださーい! ポケモン警察がこの場を仕切りまーす!」
 巡査が続々と現れては被害を確認したり、ダイヤの姿を見て応急処置を施したりと、あっと言う間に相撲場は騒然としていく。
 シノノメとアサギはその中で茫然としたまま、凄まじい勢いで切り替わっていく光景を追う事しか出来なかった。
「あ、あれ? さっきの変な人は……?」「……いないな」
 シノノメの呟きに、アサギは確認して首を振った。
 謎の青年、マスクドバードの姿は無く、現場にはただ凄惨な姿を晒すダイヤと、その相棒達しか残されていなかった。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    前回までとは打って変わって不穏オブ不穏な現場です。
    ホームのバトルということで甘く見ていたのか、こんgコホンダイヤさんありえないやられ方を…
    黙ってみてられない、思考より先に体がうごいちゃうシノノメちゃんかっこいい!
    そしてここでも鳥さんですか…w
    今後につながっていくであろう要素がいくつも出てきた感じ。
    次回以降に期待大です。がんばれ!シノアサvv

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想コメント有り難う御座います~!

      一気に不穏な気配が漂って参りました…!
      こんg…ダイヤさんが最早瀕死の態になる事態…!
      シノノメちゃんカッコイイヤッター!┗(^ω^)┛ やっぱりここは主人公なのでビシッとね!w
      何だか最近鳥さんとご縁が有りますね…!w やはり合成…(!?)
      ですです! あちこち繋がってきそうな要素を今回はドバっと出してみました!
      次回以降もぜひぜひお見逃しなく!! 応援も宜しくお願い申し上げまする~!!

      今回も楽しんで頂けたようで嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!

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