2020年9月5日土曜日

【ポケットモンスター東雲/浅葱】第6話 スイーツなティータイム【ポケモン二次小説】

 ■タイトル
ポケットモンスター東雲/浅葱(シノノメ/アサギ)

■あらすじ
ポケットモンスター(ポケモン)のオリジナル地方であるホクロク地方を舞台に、少年少女がポケモンチャンピオンを目指す、壮大な冒険譚です。

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【第6話 スイーツなティータイム】は追記からどうぞ。
第6話 スイーツなティータイム


 ――アイテツシティ、埋没林博物館。
 アイテツシティの北端に位置する、海岸沿いに建造されたその博物館は、ホクロク地方では唯一である、埋没林を展示する博物館である。
 埋没林とは、文字通り“埋もれた林”の事で、ホクロク地方以外でも発見されているもので、アイテツシティ以外でもその光景を望む事が出来る。
 林が埋もれる……埋没してしまう原因は様々で、火山の噴火に伴う火山灰や火砕流、河川の氾濫に因る土砂の堆積、地滑りや海面上昇などなど……当然それらを巻き起こすポケモンが遠因している場合も有れば、直接ポケモンが一帯を埋没した……などと言う伝説が残っている地方も散見されている。
 アイテツシティの埋没林は、約二千年前にアイテツリバーの氾濫(ポケモンが原因ともされているが、古い文献にも残っておらず、実際のところは不明)に因って流れ出た土砂が杉の原生林を埋め、その後何らかの理由(こちらもポケモンが関与したのかも知れないが、詳細は不明)で海面が上昇し、現在の海面より下になった事で現出した、と考えられている。
 ……そんな話がBGMとしてカフェに流れていた。合成音声であろうのんびりとした女声がカフェ一帯を包み、その語り方がまるで子守唄のようで、シノノメはうっかり船を漕ぎだしそうになっていた。
「……こんなところにカフェが在るとは」
 不意に漏れたアサギの感想で目を覚ましたシノノメは、「そうそう! ビックリ! 博物館の中にカフェが在るなんて!」と眠気覚ましも兼ねて少し声を張り上げて上体を起こした。
 シノノメとアサギがいる場所は、埋没林博物館の一角である、カフェ【エニナル】。博物館に併設されたそのカフェは、うら若い男女で一杯で、どこのテーブルを見ても果物の形をしたパフェで埋め尽くされている。
「HAHAHA! アイテツシティは、埋没林の街としても有名でね! 遠い地方から足を運ばれるジェントルマンやマダム、バックパッカーも多いのサ!」
 鼻高々に自慢する筋肉お兄さんことダイヤは、運ばれてきたパフェ――見た目は丸ごとのキウイのそれを見て、「これがこのカフェオリジナルのメニュー、“キウイ”サ!」と自慢げにアピールし始めた。
「これが……! って、どう見てもただのキウイだよこれ、筋肉お兄さん!」透明な覆いの中に鎮座する、丸ごとのキウイを指差して抗議を始めるシノノメ。「キウイは好きだけど、カフェなのに丸ごとのキウイって、何か違わない?」
「HAHAHA! ここを訪れたお客さんは、まずはその反応になりマース! でも……ここからが本番ネー!」
 ダイヤがスッとナイフを持ち、透明な覆いを外した後、キウイに入刀すると――中には果実がみっちり――ではなく、クリームがたっぷり溢れ出てきた!
 とろとろのクリームを見ながら、ダイヤは痛快丸かじりして、頬にたっぷりクリームを付けながら、「う~ん、デリシャス!」とサムズアップを見せつけた。
「キウイの中が……!」「……ケーキになってるのか……!」
 シノノメは無論の事、アサギも感動に瞳を輝かせて、己の前に鎮座する丸ごとキウイ――ならぬ、キウイの姿をしたケーキを、ゆっくりと両断する。
 溢れ出るクリームが零れないように二人は慌てて口元に宛がい、――かぷり。
「ん~~~! 美味しい~! キウイの味も確りしてるけど、ケーキみたいに甘いんだ~!」パタパタと両足をばたつかせながら喜ぶシノノメ。「あっ、ディ子にもあげて大丈夫かな?」とダイヤに上目遣いで尋ねる。
「ポケモンにはポケモン用のスイーツが有るからネ、こちらをどうぞデース!」
 ダイヤが指をパチィンッ、と鳴らすと、ウェイターがディ子の前にポケモンフードの形をしたケーキを置き、「どうぞ、召し上がれ」と朗らかに微笑んで立ち去って行った。
 ディ子は“待て”の状態で我慢したままシノノメを見つめていたが、シノノメが「一緒に食べよっ、ディ子!」とはにかみ笑いを見せた瞬間、「ワオンッ!」と嬉しそうに一鳴きして、ガツガツとポケモンフードケーキを食べ始めた。
「ポケモンにも美味しいと思って貰えるスイーツでありながら、ちゃんと栄養やカロリー、勿論安全性も考えてあるから、安心して堪能してくれると嬉しいです」
 ニコッと柔らかく微笑むウェイター――と思いきや、よく見たら筋肉お兄さんこと、ダイヤの弟のモンドであると、二人は目を丸くして気づいた。
「あれ? ジムリーダーなのに、ウェイターのバイトしてるの?」コトリと小首を傾げるシノノメ。「もしかして、ポケモンジムって、運営大変なの……?」
「あぁいや、僕はこの埋没林博物館の館長でね」照れ臭そうに頭を掻くモンド。「ジムリーダーは兼任でやってるんです。寧ろこっちが本職でして」
「ほぇ~……館長さんなのに、ポケモンジムまで……」
 感心し過ぎて言葉を失ってしまうシノノメに、アサギは呆れた様子で肩を竦めると、ナックラーをポケモンボールから出し、ディ子のようにスイーツ型のポケモンフードを与える。
「グワァ♪」嬉しそうにスイーツ型のポケモンフードを頬張って、口元をクリームだらけにするナックラー。
「ナックラーにも気に入って貰えたようで良かったです♪」ニコリと人当たりの良さそうな微笑を覗かせるモンド。「あっ、全然話は変わるのですが、お二人はポケモンで悪さする人達と遭遇した事は有りませんか?」
「ポケモンで悪さ……?」「いえ、有りませんが」
 シノノメは眉根を顰めて怪訝な表情を作り、アサギはスイーツを頬張りながら素っ気無く応じた。
「最近、ホクロク地方で噂になってるの知らないデスカー?」ダイヤが困った様子で腕を組み、盛り上がった大胸筋をビクンビクンと震わせた。「ポケモン勝負を一方的に仕掛けてきて、ポケモンだけじゃなくトレーナーにまで大怪我させたり……最悪の事態が起きる事も確認されてるから、二人とも気を付けるんダヨー?」
「最悪の事態……?」スイーツを頬張ったまま、考え込むシノノメだったが、アサギが胸糞悪そうに舌打ちし、「ポケモンが……死ぬまで痛めつけられてるって事ですか……ッ?」と、ダイヤを睨み据えているのを見て、思わず口元を押さえて表情が嫌悪に染まった。
「ポケモンが……死ぬまで……??」
「……ごめん、気分が悪くなる話でしたね。折角のスイーツが台無しになってしまいます、今の話は忘れて――」「そんな酷い事をする人がいるなら、あたしが叩きのめしてやる!!」「――んん?」
 椅子を蹴倒して立ち上がり、拳を固めて、怒りに震わせるシノノメが、そこにいた。
 アサギ、ダイヤ、モンドだけでなく、周りにいた客も言葉を失って彼女に視線を注いでいたが、シノノメは構わず拳を震わせながら吼えた。
「ポケモンを苛める奴は!! あたしがっ、ぶっ飛ばしてやるから!!」
 ガァーッと、火でも噴き出しかねない怒号を張り上げるシノノメに、周囲の人間が全員揃って呆気に取られていたが、ダイヤが拍手を始めたのをきっかけに、周りから喝采が巻き起こった。
「え? え? 何? どうしたの皆……?」
「ブラボー! 素晴らしいブレイヴハートデース! それでこそ、私達のジムに挑むチャレンジャーネー!」頭上で拍手を繰り返すダイヤだったが、サムズアップしてキラリと真っ白な八重歯を見せつけた。「安心しました……次世代のトレーナーも、しっかりしてマース!」
「えへ、えへへ……」照れ臭そうに頬を掻きながら、椅子を戻して着席し直すシノノメ。
「恥ずかしい奴め」やれやれと溜め息を吐き出すアサギ。「だが、おれも同じ気持ちだ。ポケモンを死なせる奴に掛ける容赦は無い」
「うんうん、それはそれとして!」パチンッ、と指を鳴らすダイヤ。「ティータイムは大事にしないとネー! さっ、スイーツに戻りマショー♪」
 シノノメとアサギの表情から緊迫感や嫌悪感は消え失せ、再びスイーツを頬張って幸せな表情を見せ始めた事に、ダイヤとモンドは互いに目配せして胸を撫で下ろしていた。
「ワフワフ!」ディ子がスイーツ型のポケモンフードを先に食べ終え、シノノメのスイーツにまで前足を伸ばしかけたのを見て、「あっ、ディ子ダメだよ~!」と皿ごと離そうとして、皿が引っ繰り返り、シノノメが食べていたキウイがディ子に直撃してしまった。
「ワフゥ~!」ぷるぷると震えてキウイを振り払うディ子。
「も~! ディ子ってば欲張りなんだから~……?」
 ディ子の顔を拭いていた手が止まり、引っ繰り返った皿を見つめて、それからアサギに視線を向けるシノノメ。
 アサギはそんなシノノメを見返して、「何をやってるんだ……」と呆れた表情を見せて、その直後に、彼女が視線で訴えている事を理解し、瞠目して、小さく首肯を返した。
「ん? どうしたネー? 二人で秘密のシグナル送り合ってるのカナー?」不思議そうに瞬きを繰り返すダイヤ。
 シノノメはアサギと目配せした後、自信満々にダイヤを見返した。
「筋肉お兄さん! この後、またジムバトル、挑んでも良いですかっ?」
「ん? それは構わないデスケド……もしかして……?」
 熱っぽい期待を感じさせる眼差しを浴びせるダイヤに、シノノメは挑戦的な笑みを覗かせて、頷いた。
「今度こそ、筋肉お兄さんをぎゃふんと言わせちゃうよ!」
 シノノメはアサギと頷き合い、ダイヤはモンドと目配せして頷き合う。
 甘い休憩時間は終わり、再び氷の土俵で相克する事になる。
 シノノメとアサギのリヴェンジマッチは、斯くして開幕に向かって走り出した――――

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    キウイパフェおいしそうですw

    東雲ちゃん何かを掴んだ様子、視線で訴えるだけでその何かを理解してしまう浅葱くん…良いコンビではないですかー(嫉妬メラメラ

    さぁさぁリヴェンジ!期待して次回をまちますぞ!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想コメント有り難う御座います~!

      このキウイパフェ、実は実在します…!w

      嫉妬メラメラwww良いコンビって言った傍から!www
      二人は何だかんだ長い付き合いですからね、もう視線だけで何かを理解してしまうのです…!w

      さぁさぁリヴェンジ!ぜひぜひ期待してお待ちくだされ~!!

      今回も楽しんで頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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