2020年9月17日木曜日

【ネトゲ百合】第4話 消せない台詞、言えない想い【オリジナル小説】

■あらすじ
ネトゲで好きになってしまった相手は、きっと異性だと思っていた。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【Pixiv】で多重投稿されております。

Twitter■https://twitter.com/hisakakousuke
カクヨム■https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054891786316




【第4話 消せない台詞、言えない想い】は追記からどうぞ。

第4話 消せない台詞、言えない想い


◇◆◇◆◇>>ジン<<◇◆◇◆◇

【好きです】

 チャット欄に記されたテキストを眺めながら、私はセンチメンタルに溜め息を零した。
 今、座長はこの場にいない。ログインもしていないのだけれど、このテキストの送り先は座長になっている。ウィスパーチャットと言って、送信された個人だけが閲覧可能なチャットである。
 普段はギルドチャットと言って、ギルドの中にいるメンバーが全員閲覧可能なチャットを行っているので、こういう座長と一対一でチャットを行う、と言う機会は無かった。
 チャット欄に表示されるたった四文字の劇物。これを送信すれば、私は後には引けなくなるし、今までの綿菓子のような関係は終わりを告げるだろう。
 いつか言いたい。想いを伝えたい。そう思いながらも後回しに、先延ばしにし続けてきたけれど……
 いざ文面を打ち込むとなると、動悸と眩暈でどうにかなってしまいそうだった。何より座長との関係がこれで終わってしまったらと考えるだけで、海溝より深い絶望を覚えずにいられなかった。
 言えば終わる。言えば変わるかも知れない。言えば、今まで通りにはならない。
 もし……もし、この一言を受け入れて貰えたら。その時私は、どうなってしまうのだろう。
 大きく酸素を取り込んで、――二度目の嘆息。
 未来の私に託そう。そう思ってチャットを消そうとした瞬間だった。

>>座長がログインしました<<

 恋焦がれた彼がログインしたと気づいた瞬間、急いで挨拶しようとして、まだチャットの入力画面にとんでもない四文字が入っている事を思い出して、焦りで操作がもたついた。
 早く消して――ウィスパーチャットじゃなくてギルドチャットに変えて――挨拶して――
 色んな思考が一気に押し寄せたせいで、訳も分からず操作した結果、とんでもない事になった。

全体「好きです」

「あああーっ!」
 思わず悲鳴が弾ける。誤操作で、危険物の四文字をまさかの全体チャットに流してしまうなんて!!
 全体チャット、即ち今ログインしている全ユーザーに対して発言してしまったのだ、「好きです」と。
 羞恥で顔が燃えるように熱かった。熱帯夜でもないのに全身が火照って頭が煮え滾る。
 どうしようと慌てふためいていると、全体チャットが湯水のように流れ始めた。

全体「おっ、公開処刑か?」
全体「俺も好きやで」
全体「いやん(〃▽〃)ポッ」
全体「好きだああああ!!」
全体「は? 俺も好きだが?」

「ああああ……」
 羞恥心で全身に熱がこもっていく。
 もうどうしたら良いのか分からなくなって、ログアウトしようとしたけれど、今このタイミングでログインした座長に何て説明したら良いのか……
 挨拶するべきなのか、黙ってログアウトするべきなのか、頭の中がぐちゃぐちゃになってしまい、涙が込み上げてきた。
 何でこんな事に……そう思って涙を拭うと、ギルドチャットが流れた。

座長「おーっす」

 普段通りの座長が、普段通りの挨拶をしてきた。
 私は数瞬理解が遅れたけれど、もしかしてログインしたタイミングの関係で、ギリギリ座長のチャットログに流れなかったのだろうか。
 全体チャットは荒れ果てていたけれど、座長は気にした風も無く、ギルドハウスでまったり寛いでいるように見えた。
 ……彼にだけは見て欲しかったと言う想いと、彼にだけは観られなくて良かったと安堵する想いで、私の心の中はシーソーゲームのように揺らいでいた。
 ともあれ……劇的な変化をもたらす事は無かったと、心を落ち着かせて、改めて彼といつも通りのチャットを楽しむ事にした。
 この環境を壊したくない。その想いが今は一番、強かったんだ。

◇◆◇◆◇>>座長<<◇◆◇◆◇

「……これ、聞いたら不味いよねぇ……」
 チャットを始めたらいつも通りのジン君だったけれど、あたしは先刻の全体チャット事案に就いて問い質したくて仕方なかった。
【好きです】と、たった一言をチャットに流した彼の、その想い人とは誰なのか。
 あたしではない……と思う。何事も無かったかのようにあたしとチャットしているのは、まるであたしに知られるのを嫌がっているようにも見えて、胸がチクチクと痛んだ。
 ゲーム内のチャットで宣言したからには、ゲーム内のユーザーの誰かなのだろうが、……いつの間にそんな仲良くなった子が出来たんだと、黒い感情が渦巻いてしまう。
 醜い嫉妬心だ。ジン君が誰と仲良くしてたってあたしにつべこべ言う権利は無いのに。無いのに……どうしても、気になってしまう。
 もし告白が成功したのなら、祝福すべきなのだろう。おめでとうと、幸せになってねと、祝ってあげるべきなのだろう。
 分かっている。分かっているけど……涙が込み上げてくる。情緒不安定になってしまう。
 ジン君を取られたくない想いが、胸を内側からじりじりと焦がしていく。
 もうこういう風にチャットする時間が減ってしまうかも知れないとか、彼と遊ぶ時間が無くなってしまうとか、そんなネガティヴな感情ばかりが先立ち、折角の楽しいチャットの時間が全然頭に入ってこなかった。
 たった一言、「さっきの告白、誰に向けた奴なの?」と尋ねれば良いだけなのに。その一言が、あまりに遠く、あまりに重かった。
 知らないキャラクターの名前が出たり、空気が変わってしまったり、黙ってしまったりしてしまう未来を想像するだけで、チャットの指が止まってしまう。
 その一言で何かが劇的に変わる予感がする。この居心地の良い環境が、関係が、砂上の楼閣のようにガラガラと崩れ去る、そんな恐怖が見えてしまう。
「……あーぁ、羨ましいな」
 言葉に出して、無理矢理納得させようとする。
 ジン君の好意を受けるその恋敵が、あまりにも眩しかった。
 楽しくチャットしている今この瞬間だって、もしかしたら並列でウィスパーチャットを使って、その恋敵と乳繰り合っているのかも知れないのだ。
 ……身を引くべき、なんだろうか。
「……まだそうと決まった訳でもないのに、はーやだやだ。情緒不安定なおばさんなんて、ジン君じゃなくてもドン引きするわな」
 夜気に晒されたせいだ。仕事がちょっと上手くいかなかったからだ。ご褒美が足りなかったからだ。
 別の要因が原因で、あたしは今、ちょっと神経がささくれ立っているだけなのだと、無理矢理腑に落として、あたしはログアウトする事にした。
 分からない事を考えるのはやめだ。あたしはあたしで、彼と一緒にいる時間を大切にしよう。
 いついなくなっても、諦められるように。
 ……願わくは、ずっと一緒にいられるように祈りながら。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    お待ちしておりましたぞ!ありがとうございます!!

    毎回毎回身悶えるほどの切なさを味あわせてくれる二人が帰ってきたっ!
    でもでもうれしい反面「これからどうなるんだろう?」と思うと手放しで喜べない自分もいたりするのです。
    ジンくんと座長…この字面がすでに切ない…これからどんな展開が待っているのか楽しみなようなそうでもないような……
    なんかこう身につまされるようなところもあって、入れ込み過ぎてしまうのです…彼女たちに。

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

    返信削除
    返信
    1. 感想コメント有り難う御座います~!

      大変お待たせ致しました~! お待ち頂いてもこの歓迎…! 本当に有り難う御座いまする!!

      身悶えするほどの切なさ!ww 帰ってきましたとも10ヶ月振りに!!ww
      綴りながら、未だにラストがどうなるか見えてなかったりしまする。
      最早字面で既に切なさを…!w 今後もこう、そういう事…有るよね…! みたいな話をちょこちょこ投稿していけたらなぁと…!
      或る種のネトゲあるあるを入れてみているつもりですゆえ、どうしてもその、感情移入する面が出てくるんじゃないかなぁと予想しておりまする…!

      今回も楽しんで頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

      削除

好意的なコメント以外は返信しない事が有ります、悪しからずご了承くださいませ~!