2020年11月23日月曜日

【ネトゲ百合】第6話 詐病の白昼に、陽炎を観る<前編>【オリジナル小説】

 ■あらすじ

ネトゲで好きになってしまった相手は、きっと異性だと思っていた。

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【第6話 詐病の白昼に、陽炎を観る<前編>】は追記からどうぞ。

第6話 詐病の白昼に、陽炎を観る<前編>


◇◆◇◆◇>>ジン<<◇◆◇◆◇

ジン「明日学校行きたくないな~」

 夜も更け、もうそろそろログアウトすると言う頃になって、私はつい夜気に当てられて弱音を漏らしてしまった。
 憂鬱な行事が待っていると考えただけで、寝つきが悪くなりそうだったし、何より折角の座長との楽しいチャットの時間が色褪せそうで、座長にも悪い気がして、溜め息交じりにログアウトの挨拶をしようと思って。
 思っていたら、チャット欄に座長の発言が差し込まれた。

座長「じゃあ安んじやおっか」

 また解読が難しい発言を……と思いながらも、何とか読み解く。
“じゃあ休んじゃおっか”と言っているのか……な……?
 普段はあれこれ細かい事を注意してくる割に、珍しく今回は私のネガティヴな発言に肯定的で、ちょっと面食らってしまった。
 そう思いながら何と返信しようか悩んでいる間に、座長は更に言葉を重ねてきた。

座長「ジン君が休むなら、おじさんも安んじおっかな」
ジン「おっさんでもサボるんだな」
座長「悪い大人だからねえ。ジン君は真似しちゃダメよ~」

 その後も一言二言チャットを交わして、時間も時間なのでログアウトしたけれど、明日の憂鬱な行事が吹っ飛ぶぐらいに、座長の温かな言葉で満たされていた。
 座長はああ言っていたけれど、明日は普通に仕事に行くだろう。けれど、その心遣いがとても好きだった。
 何が嫌で学校に行きたくないかも聞かずに、ただ一緒に休もうかと提案してくれる、その温もりに、私は言葉に出来ない想いを懐きながら枕を抱き締めた。
 座長は、自分が悪い大人だと明言しているけれど、私はそう思わない。
 仮に悪い大人だと世間が認定しているのであれば、私はまさにそんな悪い大人にこそ憧れるし、自らそうなりたいとさえ思う。
 明日は……やっぱり学校に行きたくない。行きたくないけれど、それを理由に寝付けない、なんて事は無さそうだった。
 きっと、明日になれば学校には行くと思う。けれど今この寝るまでの短い時間だけは、平日の昼間から座長と一緒にのんびりと過ごす、甘い甘い綿菓子のような夢を楽しませて貰おう。


◇◆◇◆◇>>座長<<◇◆◇◆◇

「明日は……特に急ぎの用は無し、か」

 スマフォーンでスケジュールを確認しつつ、本日三本目の発泡酒のプルを抉じ開ける。
 ジン君が何か思い悩んでいるように見えるのは明らかだったけれど、あたしは相変わらず踏み込めもせず、かと言って突き放す事も出来ず、自分がこういう時どういう事をされたら嬉しいだろう、と妄想した末に選んだ言葉を提供する、ズルい大人ムーヴでやり過ごしてしまった。
 本人はもしかしたらもっと踏み込んで欲しかったのかも知れないし、踏み込まれなかった事を不貞腐れるかも知れないとも思いはすれど、あたしみたいな悪い大人が土足で踏み込むべき問題ではないとも思うのだ。
 ……勿論、自分の色に彼を染めたい、と言う意志が無い訳ではない。だけれど、好きだからこそ、想っているからこそ、不用意に干渉すべきではないとも感じる訳だ。
 これはそもそもが保身のためでしかない。嫌われたくないからこそ、ウザがられたくないからこそ、近づき過ぎないように、触り過ぎないようにしている、と言う想いも見え隠れしている。
 ジン君がそもそもあたしの事なんてどうとも思ってないとは思えど、自身の軽率な発言で傷つけたくないし、可能であれば末永くこの生温い関係を続けていきたいのだ。

「……ま、あたし一人いなくてもどうとでもなるでしょ」

 明日予定していた仕事に関するスケジュールを漁っても、納期や約束も急いでないし、欠勤しても問題無いと判断したあたしは、明朝に仮病の予定を立てながら缶を空けた。
 ジン君が本当に明日休むかどうか、それは定かじゃない。けれどもし本当に休むのなら、もしかしたら昼間は手持ち無沙汰になっているかも知れない。
 あたし自身、発言した手前、休んだ方が良いとも思うし。
 あたしだって仕事に行きたくない日はズル休みだってする。日々募っていくストレスは、こういう形でガス抜きするのも大事なのだ。
 ジン君が休まずに学校に行けたのなら明晩にでも褒め称えるし、休んでしまったのなら一緒に暇潰しに付き合うぐらいは許されるだろう。
 ……あぁ、やっぱりあたしは悪い大人だ。少しずつジン君を悪い大人に向かわせるように手を拱いているのだから。
 そんな悪い大人でも、彼は愛してくれるのだろうか。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    平日の昼間、ズル休みして予定合わせてとかもぅうれしいやらはずかしいやら画面越しなのにドキドキしたの思い出しちゃうわw
    そしてモダモダする二人の耳元に「お前らもう付き合っちゃえよ!」って大声で囁いてあげたいぐらいズルい大人ですw

    「可能であれば末永くこの生温い関係を続けていきたい…」
    座長のこの一言、深いなぁ…本心?

    妄想渦巻く現場からは以上です∠(`・ω・´)

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想コメント有り難う御座います~!

      このどきどきシチュエーションにどきどきして頂けて嬉しいです…!w
      ズルい大人ですからね!ww仕方ないですね!ww(でもそっと見守りたさもある…!w)

      本心がポロッと出てしまった感は否めませんね…!
      こういうのがチャットで出ないように、気を付けてたりするのかも知れませぬ…!w

      妄想渦巻く現場wwwちょっと行ってみたさあるww

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!

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