2020年11月25日水曜日

【ネトゲ百合】第7話 詐病の白昼に、陽炎を観る<後編>【オリジナル小説】

 ■あらすじ

ネトゲで好きになってしまった相手は、きっと異性だと思っていた。

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【第7話 詐病の白昼に、陽炎を観る<後編>】は追記からどうぞ。

第7話 詐病の白昼に、陽炎を観る<後編>


◇◆◇◆◇>>ジン<<◇◆◇◆◇

「――ごめんなさい、体調が悪いのでお休みします。……はい、はい。ごめんなさい、はい。……はい、失礼します」

 通話を切り、改めてベッドに全身を預けると、私はカーテン越しに明るく照らされている天井を見上げて、薄く溜め息を撒いた。
 結局サボってしまった。今日は球技大会が有ると言うだけで、何と無く行きたくないな、と担当教師に体調不良の嘘を吐いて、通学路を歩いている時間に今もこうしてベッドの上で天井の染みを数えている。
 悪い子だ。その実感がじわじわと、私に罪悪感と一緒に、ちょっとした歓喜を混ぜ込んで、総身に染み入っていく。
 座長が悪い大人なら、私は悪い子でいいや。……なんて。
 親は既に出勤済みだし、今この家屋にいる動体は私だけ。勝手気ままな一国の城主だ。
 お母さんが作り置きしてくれているであろう朝ご飯を取りに居間に向かおうとベッドから足を出した時に、ふとスマフォーンに視線が向く。
 ……本当に、座長はサボったんだろうか。
 いいや、まさか。大の大人が、ネトゲ仲間がサボると明言したぐらいでサボる訳が無いだろう。悪い大人だからどうこうじゃなくて、常識的にそんな事は有り得まい。
 そう思っても。意識が電子の世界から帰ってくる事は無かった。
 意識の外で体が動き、手慣れた動きでアプリを起動する。ログイン画面が表示され、長いようで短いローディングが挟まり、パッと液晶画面にいつものフィールドと、私のアバター、ジンが映し出される。
 ギルドメンバーのログイン履歴を確認しても、座長がログインした形跡は無かった。

「……だよね」

 期待していた訳でもないのに、残念と言うか、落胆のような苦笑が勝手に出てしまった。
 ……いいや、期待していたんだ、私は。座長は軽口でああいう事を言わない、素敵な“悪い大人”だって、思考停止で信じたかっただけに過ぎないんだ。
 ぼんやりと画面を見ていた私は、そこで現実に戻ろうと意識を剥がし、朝食にありつこうと改めて部屋を出ようとして、

座長「おーっす」

 ギルドチャットが動いて、彼のログインを示すチャットログが流れた。
 私は驚きに目を瞠ったまま数瞬体が固まってしまったけれど、すぐ我に返って画面をタップし始める。

ジン「おっさんほんとにサボったのか!?」
座長「サボっちゃったーてぺへろ星」
ジン「てぺへろになってるぞ!ww」
座長「うるへー」

 全身から力が抜けるような虚脱感に襲われ、何を思ったのか、涙が込み上げてきた。
 どんな奴かも分からない、電子の世界にいるたった一人のプレイヤーのために、本当に仕事を休む奴がいるかよ……
 この座長って奴は馬鹿だ。大馬鹿だ。
 こんな大馬鹿野郎に、私はどんな感情をぶつけたら良いのか、もう分からなくなっていた。


◇◆◇◆◇>>座長<<◇◆◇◆◇

「いやぁ、本当にサボってるとはねぇ」

 今朝は体調不良を理由に仕事を欠勤したあたしは、朝から缶チューハイを開けながら苦笑を刻んでいた。
 彼の事だ、何だかんだと言いながら学校に行って、渋々その嫌な出来事を熟して、夜にインした時にでもあたしに笑い話としてチャットしてくれるものだと思っていた。
 ……思っていただけで、そんな無理はしないで、休みたい時は休めばいいよ、と言いたかったけれどね。
 あたしはあたしで別に今日の仕事が嫌だったとか、嫌いな上司がいるとか、面倒な業務が有るとかではなく、本当にただ単純に、行きたくなかったから休むと言う、まるで駄々をこねる学生みたいな思考回路でサボタージュしてる訳だけれど。
 ただ……そう、ジン君がいるような気がして。
 サボりを勧めた手前、あたしがサボらないなんておかしいよねって話で。
 だったら彼がサボってなくても、あたし自身がサボってないと、って話だよね。
 そんなこんな思いながらログインしたら、それはもう嬉々として尻尾を振っている仔犬のような雰囲気で構ってくれるジン君がいたものだから。
 あたしは朝からアルコールをカッ喰らいながら満悦な平日の昼間を過ごせるようになった訳だ。

ジン「でも、おっさんほんとに休んで良かったのか? 仕事、大丈夫なのか?」

 心配そうな文面を見て、思わず胸が熱くなる。高校男児に仕事を心配されるとか、どんな幸福だこれは……おばさん泣きそうになるよ……
 缶チューハイをテーブルに戻して、もたもたとチャットを返す。

座長「へーきへーき。おじさんゆーのーだから1日休んでももーまんたいなの」
ジン「おっさんが有能とか正気か??」
座長「なにおー!」
ジン「まぁ、あんまり無理すんなよ、嬉しかったけどさ」

「そこでそれはズルいでしょ……」

 もうニヤニヤが限界突破するぐらいに、頬が大変な事になるでしょ……
 あたしの事を気遣いながらも、嬉しかったって……嬉しかったって……何だよもう、ずっとサボってたいでしょそんなん……
 何て返せばいいのか分からないまま缶チューハイが進む進む。この文面をオカズに炊き立てのご飯を食べたいぐらいだ。
 そう。こういう子だからこそ、あたしも何かこう、尽くしてあげたくなるって言うか、母性が擽られるって言うか……ズルいよね、世渡り上手なんだろうな、きっと。
 ……酔いが回ってきたのか、思考のろれつも回ってない気がしてきた。
 偶にはこういう日が有ってもいいよね。ズル休みで、推しの子と一緒にのんびり過ごすのも。
 ……欲を言えば、ずっとこんな事をしてたいし、ぶっちゃけ毎日こうしていたい。
 でもきっと、彼には彼の都合が有るだろうし、学校での付き合いだって有る筈だ。
 こんな枯れたおばさんの相手をするより、若くてピチピチの子達と華を咲かせ合っていた方が、きっと……

「……ふふ、でも今日だけは、おばさんが独り占めしちゃうね」

 あぁ、とんでもなく悪い大人だ、あたしは。
 うら若き男子高校生を独り占めして、第二の青春を謳歌しているのだから。
 いつか醒めると気づきながらも、この泥濘は、あまりにも心地良くて。
 あたしはついつい、魔が差したように彼と言葉を交わさずにいられないんだ。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    モニターに映りこむ限界突破した自分のニヤニヤ顔、見たことあるかい?
    わたしはある!(絶望

    毎回変わらずモダモダと心地よい二人のやり取り
    でも、多分本当のことを知っているから切なく聞こえちゃうのかな?
    彼女たちはいつ知ってしまうんだろう?あるいはこのままずっと…
    その時が来るまでは、モダモダ心地よいエピソードを!(ズルい大人

    これあれだ映画化だなw

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想コメント有り難う御座います~!

      めちゃんこニヤニヤしてる…!ww有り難う御座います~!!www

      このモダモダと心地良い二人のやり取りこそがメインのお話ですからね…! そこを楽しんで頂けているのであれば作者冥利に尽きます…!
      確かに、裏事情と言いますか、神視点で彼らを見ているからこその切なさは有ると思います…!
      いつまでも続いて欲しい気もしつつも、いつか二人には知ってほしいと言う気持ちもとても分かります…!
      私もズルい大人なので、その時が来るまでモダモダ心地良いエピソードを綴りまくります!ww

      映画化!?!?! なったらめちゃんこ嬉しいですね…!ww

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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