【神否荘の困った悪党たち】第８８話 ダメですね【オリジナル小説】

■あらすじ

犬野さん、俺の事をしゅごい目で見てるし。

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第１話→https://sakatatsunorou.blogspot.com/2018/04/blog-post_40.html

第８７話→https://sakatatsunorou.blogspot.com/2021/03/blog-post.html

第８９話→https://sakatatsunorou.blogspot.com/2021/05/blog-post_25.html

【第８８話　ダメですね】は追記からどうぞ。

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第８８話　ダメですね

「遂に防犯訓練も最後になった訳だが……帰って良いか？」

　イヌオ……じゃなかった、犬野さんが本音ぶちまけ過ぎ問題と化してる。

　誰が残ってるんだっけ……って考えたら、もうシンさんしか残ってないのかなこれ。

　いや待て！　式子さんがいる！

「ナモナモ、式子さんの電話番号って知ってるの？」

「ん？　式子さんがスマフォーン持ってる訳無いだろ常識的に考えて」

「そうだよな……」ナモに常識を問われて傷ついてる俺だよ。「じゃあ後はシンさんだけか……」

「おっ、そうだな」ナモだけウキウキだ。「ぽまえらじゃ電話を掛けるだけで生命を持っていかれそうだから、ここはこの全世界共通の主人公である俺が掛けてやろう。光栄に想えよグハハ」殴り倒したいレヴェルの自信だなこいつ。

「……なぁ、二糸君よ。このナモとか言う御仁は何者なんだ？　神否荘の住人じゃないの？　ほんとに？？」俺も疑いたいよ……

　と言う訳で何故か知らんけどナモがシンさんにオレオレ詐欺を掛ける事になった。

「そもそもがだよ、金髪美人の殺し屋に電話を掛けるのが主人公の務めって奴だからな。俺しか務まらない訳。分かる？　俺しか務まらない訳」分かった分かった。お前が主人公だよ。

「ぷるぷるぷる」メイちゃんがぷるぷる状態に！「……もしもし？」シンさんだ！

「おっ、オレオレ～」ナモが気軽さ満点でオレオレ言ってる！「金貸して～オレオレ～」オレオレ～はもしかして自分を差していない可能性が出てきたな。

「……この番号を非通知で、且つボイスチェンジャー込みで掛けてくるたァ見上げた奴だ。で？　誰を仕留めたいんだ？　あたしゃもう殺し屋は廃業したけど、思う存分惨たらしい目に遭わせてやれるぜ」とんでもない事になってきた。

「……」ナモが俺と犬野さんに目配せしてる。

「……」犬野さんが必死に人差し指でバッテン印作ってて可愛らしいったらもう。

「……」俺も犬野さんの真似をしてみる。

「……」ナモが大仰に頷いた！「えー、アレだよアレ。犬野って奴を頼む」何て事してくれてんだ。

「……！」犬野さんがナモの胸倉を掴み上げて顔を真っ赤にして殴りかかろうとしてる！

「……！」俺は必死に人差し指でバッテン印を作って主張するぜ！

「……！」ナモが確信顔で頷いた。「めんごめんご、間違えたわ。後藤って奴で頼む」後藤さーん！

「……後藤っつーと、あの世界の番人とまで言われてる、ぷぎゅるの事か？」初めて聞いたぞ。「中々……ふふっ、面白ェ依頼をしてくれんじゃーねぇの、えぇ？　世界の番人を相手に、残虐非道な惨たらしい目に遭わせるたァ……よほど恨まれてるのか？」あの人恨まれるって言うか素がもうアレだからな……

「えぇーっと、まぁ、アレだ、そういう奴じゃないかな、うんうん」ナモのテキトー加減がヤバい！「って訳で百万くらい貸して欲しいんだけど～」まだオレオレ詐欺続行するのか！

「……へぇ、報酬が百万たァ、安く見られたもんだ。それなら精々……後藤ぷぎゅるの股間を七十回金属バットで殴りつける程度になるが、良いか？」

　俺、ナモ、犬野さんが、同時にキュッと内股になったよね。

「じゃ、そういう事で」ナモががちゃりと通話を切りやがった。

　沈黙が落ちてきた。

「……オレオレ詐欺、失敗！」パツイーンッ、と下手くそな指鳴らしをしやがるナモである。「じゃあ俺そろそろ帰るわー。楽しかった～」

「……後藤って奴、どうなるんだ？」

　犬野さんが俺を見ている。

　俺は人差し指でバッテン印を作りながら、頷いた。

「ダメですね」

「「ダメかぁ……」」ナモと犬野さんが同時に呟いた。

　その後。後藤さんが内股になりながらベソベソ泣きついてきたのだけれど、俺達は全力全開で知らんぷりをして凌いだのだった。

　更にその後。ナモ宛にシンさんから請求書が届いたらしい。知らんけど。

　そんなこんなで抜き打ち防犯訓練はボロカスに終わり、犬野さんの帰る後ろ姿はもう途方に暮れてるってレヴェルじゃない悲しさが溢れてたのでした。