2021年8月22日日曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第21話【FF14二次小説】

■あらすじ
一仕事を終えた帰り道、落ちてきたもの。


【第21話】は追記からどうぞ。

第21話


 ――――ねぇ、私を観て

 ナッツブレーカーを粗方討伐し、再生の根株付近に蔓延っていた危険性の有る魔物が見当たらなくなったのを確認して、ワシとツトミちゃん、そしてサクノ殿の三人は、任務達成の報告をしにバノック練兵所に向かおうと踵を返した折、ワシは聞き慣れない声を耳にした。
 滝の裏手から出て行こうとする二人から一歩遅れ、周囲一帯に視線を配るも……違和感は無し。人影が無ければ、襲い掛かって来る魔物の姿も無く。
 人ならざるモノ。妖異悪鬼の類いかと目を凝らしていると、ワシの不審な行動に気づいた二人が、「あれ? 爺ちゃーん、どうしたの? お腹空いたの?」「もしかして歩きながら寝ちゃいました……?」と、大変失礼な物言いをしながら踵を返す様子が見て取れた。
「……いや、ワシの勘違いだったようじゃ」と、違和感から意識を逸らすように一歩踏み出した――その時。頭上の枝葉がガサガサと音を立て、ワシの眼前に何かが落ちてきた。
「――――っ!」迂闊ッ、頭上にまで気を回していなかったワシは、眼前に落下してきた何かに対し咄嗟に拳を叩きつけようとし――――咄嗟に指を開いてそれを掴み取った。
 ワシの不審な行動を見て取った二人がどうしたのかと駆け寄って来るのを横目に、ワシは頭上から落ちてきたそれ――見知らぬ書物を矯めつ眇めつ確認する。
「……本?」「何だか古めかしい御本ですねぇ」ツトミちゃんが小首を傾げ、サクノ殿が興味深そうに覗き込んでくる。
 ワシも何が何だか分からないまま、「書物が樹上から落ちてくる事なんて有るのかのぅ……」と眉根を顰めてしまう。
「風の澱みがどこかの本棚から運んできちゃったんでしょうか……」サクノ殿が難しそうな表情で考え込んでいる。「見たところ、とても古めかしい代物ですし、打ち捨てられてしまったもの……とか」
「古物なら高く売れないかなぁ」「売らん売らん」ツトミちゃんが突然瞳をギルの形に変えたのを見て取って、思わず否定の言を上げる。
 ざらついた表紙には見た事の無い紋様が刻まれ、ページを捲ろうとすると書物全体が軋む音を立てて、破れそうになる。
 中に記されているのも見た事が無い紋様の数々で、ワシには何を意味する書物なのか皆目見当がつかなかった。
「こういう遺失物はどこに届ければ良いんじゃ?」謎の書物を捏ね繰り回すのを諦め、二人の顔を見やる。「グリダニアの領地内であろうから、双蛇党にでも引き渡せば良いのかのぅ」
「えー、こういう落とし物は拾った者勝ちだよ爺ちゃん! これ、エオルゼアでのルールね!」ツトミちゃんにビシッ! と人差し指を突きつけられてしまう。「だからそれは爺ちゃんのモノ! 運命だねぇ」
「……そういうものなのか?」半眼でサクノ殿を見やる。
「えぇと……そういうもの……と言う事にしておきましょう! うんうん! えへへ」
 サクノ殿がツトミちゃんと目配せしながら頷いているのを見て、一つ嘆息。
「であれば、持ち主が現れるまではワシが預かる。これで良いかの?」
「うんうん、それで良いんじゃないかなぁ」「ヤヅルさんに預けておけば安心安心です!」
 ツトミちゃんとサクノ殿が同時に肯定の意を示すのを見て、やれやれと肩を竦めてしまう。
 併し、あの呼び声は何だったのだろうか。もしやこの黒衣森に住まうとされる精霊……その導きだったのだろうか。
 ともあれ、ここで井戸端会議をしている訳にもいかなかったため、ワシらは早々にバノック練兵所を訪れて依頼の達成を報告に向かうのだった。
 傾きつつある陽光が差し込むバノック練兵所では、今日も双蛇党の新兵達が鬼哭隊や神勇隊の上官から指導を受けて訓練に明け暮れている姿が見受けられた。
 当たり前の話だが、このグリダニアを守護するのは本来冒険者ではなく彼ら――双蛇党、鬼哭隊、神勇隊と言ったグリダニアが誇る衛士達だ。彼らの力無くしてグリダニアは今まで存続できなかっただろうし、これからも彼らの手によって守られていくのだろう。
 未来の担い手であろう新兵の訓練の邪魔にならないように迂回して入り、目当ての人物――ムリオル殿と言うルガディンの女性を探し当てると、挨拶をしながら依頼の達成を告げる。
「その面構えからすると、守備は上々のようだね。アンタも中々やるじゃないか」ムリオル殿は微笑みながら頷くと、報酬が入っているであろう小袋を差し出してきた。「ほら、報酬だよ、受け取りな!」
「あぁ、また次回も宜しく頼む」小袋を受け取りながら首肯を返すと、ツトミちゃんとサクノ殿が近くにいない事を確認して、少々声を潜めてムリオル殿に囁きかけた。「つかぬ事を伺うのだが、もし仮に黒衣森で遺失物を拾った場合、どこに引き渡せば良いとか決まりは有るのだろうか?」
「ん? あぁ、それは拾った者の持ち物になるから、引き渡すなんて勿体無い事はしなくて良いよ」けらけらと愉快そうに笑うムリオル殿。「確かにグリダニアの都内には遺失物管理人なんて者もいるけれど、冒険者がそこに届けるなんて稀も稀。よっぽど手に負えない代物ぐらいじゃないかな」
「なるほど……相分かった」首肯を返し、「ではまた、困った事が有ればいつでも声を掛けてくれい」別れの挨拶を交わすと、いそいそと二人の元へ急ぐ。
「爺ちゃん」ジト目のツトミちゃんが待ち構えていた。「わたし達の話、信用してなかったでしょ?」
「ぐ」聞かれていた事に罪悪感が込み上げてくる。「許せ……どうしてもネコババしているように思えてならなかったのじゃ……相済まぬ……」
「ヤヅルさんの気持ちも分かりますよ! 親切心で元の持ち主に返したくなる……ただ、その元の持ち主に戻る事ってまず無いんです、特にこういう場所で拾う物って……」サクノ殿が苦笑を浮かべて小さく頷いてみせた。「グリダニアの都市内ですら、元の持ち主に戻る事なんて早々無いんですけれど、それでも元の持ち主に返そうって想いは大事ですから……!」
「……ぬぅ、誠、相済まぬ。二人の話にケチを付けたかった訳ではない、それだけは確かなんじゃ」ばつが悪くなり、額をポリポリと掻いてしまう。「じゃが、言われてみれば確かに、魔物が蔓延る地域で拾う遺失物の持ち主が……健在である可能性とは……と考えれば考えるほど、なるほどのぅ、とな……」
 何も無いところに魔道書が生じる訳でもあるまい。所有者がそこで落命した事で、所有者の亡骸は朽ち、魔力を秘めた書物だけが取り残される……そういう想定が出来なかったワシの落ち度だ。
 二人がその事を伏して話を進めた事に感謝と陳謝の念を感じながら、改めて笑いかける。
「また一つ、勉強になったわい。さっ、寄合所へ帰ろうかの。ナッツブレーカーの肉も獲れた事じゃし、夕飯はこいつを茹でてエールを一杯引っ掛けてもいいのぅ」
「ナッツブレーカーの生肉を剥ぎ取ってたのってそういう……!」サクノ殿が驚きに目を瞠らせている。「てっきり依頼達成の証明として剥ぎ取っていたのだとばかり……!」
「どんな味なんだろ……ゲテモノじゃないよね爺ちゃん……?」ツトミちゃんの視線が心なしか冷たい。「わたし普通のご飯が良いなぁ……」
「見たところリスに近いようじゃしの、ちょっと脂肪分が少ない赤身肉みたいな代物じゃろう」カカッ、と笑い飛ばす。「安心せい、この後ちゃんとササメロの店に寄るゆえ、そこで好きな飯を選ぶと良い」
「やったー、またラビットパイにしよーっと」「祝祭用のパイがいつも売ってるの、よきよきですよね……!」
 ツトミちゃんが急に嬉しそうに頬を綻ばせると、釣られるようにサクノ殿も満悦の表情で追従していく。
 二人がグリダニアに向かう緩やかな坂を上り始めてのを見て、ワシも後を追うように歩き出す。
 夕飯の事を考えながら家路を急ぐ。この当たり前の幸せを噛み締めるように。二人の背を焼き付けるように、柔らかく笑むのだった。

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