2022年2月24日木曜日

【ネトゲ百合】第20話 ほろあまの日〈2〉【オリジナル小説】

■あらすじ
ネトゲで好きになってしまった相手は、きっと異性だと思っていた。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【Pixiv】で多重投稿されております。

Twitter■https://twitter.com/hisakakousuke
カクヨム■https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054891786316
Pixiv■https://www.pixiv.net/novel/series/7776571




【第20話 ほろあまの日〈2〉】は追記からどうぞ。

ほろあまの日〈2〉


◇◆◇◆◇>>座長<<◇◆◇◆◇

もぺ子「ジンちゃんって子、あんた好きなんでしょ?」

 今日も上司に捕まってサビ残を死んだ目で熟していたら、ラインにとんでもない単語が飛び込んできて職場で悲鳴を上げそうになった。
 相手は喫茶店の店長で、ライン上では「もぺ子」って奴だ。
 この間遊びに行っただけで何でそこまで分かるんだこいつ……エスパーかよ……同僚の視線から逃げるようにそそくさと喫煙室まで駆け足すると、慌ててスマフォーンをタップする。

自分「いきなるなんだ?? あたし仕事中なんですこど??」
もぺ子「いや、応援してえなぁって思ってさ。強火の推し活おばさんだからわし」
自分「何行ってんの??」
もぺ子「早くいちゃらぶして欲しいんじゃぁ~そういう事だから」
自分「なんもわからん」

 突然何だこいつ……と心の中で八億回は呟いたぞ。
 てか何勝手に見抜いてんだよこいつは……応援したいって……余計なお世話だよ余計なお世話!
 もうあの喫茶店使えないじゃん……と思って暗澹たる溜め息を漏らすと、気づいたら煙草に手が伸びていた。
 降って湧いたストレスを解消しようと煙を楽しむ。こんなんだから禁煙なんて出来ないんだよねぇ。分かってるけど辞められないのは仕方ない事だと思う、生理現象みたいなもんだし。
 まだスマフォーンがグングン鳴動して着信を知らせてくれた。今度は何だ……?

もぺ子「ジンちゃん、店に来てるから送ってあげてくれない? わしが送っても良いけど、あんたが送った方が良いでしょ」

「は?」思わず声が出ていた。「……は?」
 文面を何度読み返しても理解が追い着いてこない。なにて? こいつの妄想か?

もぺ子「なる早でね。ジンちゃん、あんたが早く来ないかソワソワしてるから」

「待ッッッッてくれ! ちょ、はぁ!? まじ!? くっそ、ええー!? もう、なにぃ!?」
 心の声が喫煙室に駄々洩れになり、あたしは大慌てで上司に平謝りし、帰途に着く事になった。
 宵闇に白雪が舞う夜道を爆速で疾走し、喫茶店にアクセルとブレーキを間違えて突っ込みそうになりながらも辛うじて自制し、店の中に殴り込むと、――確かに、ジンちゃんがいた。
「あ~、座長さんだ~」
 学生服ではなく、普段着姿のジンちゃんが心なしか赤面した様子で、ポヤポヤとした声を掛けてきた。
 店の中にはジンちゃんと店長――もぺ子の二人しかいなかった。
 カウンター席でふにゃふにゃしたジンちゃんがあたしを見つめて幸せそうに顔を綻ばせている。あぁ~推しのこんな姿を見たらもうダメでしょ……理性が蒸発する……
「ああ、やっと来た。今日はもう来ないかと思ったけど」もぺ子がチョコを摘まみながら適当に呟いた。「じゃあ後は頼んだ。その子、歩いて帰れそうに無いから迎えが欲しかったんだ」
「……おい、何で歩いて帰れそうに無い状態なんだ?」もぺ子に詰め寄る。「まさかあんた、未成年にアルコール勧めたんじゃないでしょうね……!?」
「ん~、まぁ結果的にそうなるかも。てへぺろ」悪びれもしないなこいつ……「アルコールの入ってるお菓子食べる~? って聞いたら食べる~って言って食べたらああなった感じ。悪気は無かったよほんとほんと」
「どうだか……」はぁーっと怒りの混ざった溜め息を吐き散らす。「もうまじでここに連れてきたの失敗だよ……サイアク……」
「わしの事は幾らでも責めて良いけど、その子は勘弁してあげてね」もぺ子が優しい眼差しでジンちゃんを見つめている。「ここに来たらあんたに会えるんじゃないかって来たんだから」
「う……」言葉に詰まってしまう。「……今度何か奢りなさいよ、それでチャラにしたげるから……」
「惚れた弱みって奴?」「喧しいよ!」思わず声を荒げてしまう。
「座長さん、怒ってる……? ごめんなさい……」
 ジンちゃんが悲しげに眉根をハの字にするのを見て、あたしは頭が痛い想いで彼女に歩み寄った。
「さ、ジンちゃん帰ろっか。いつものコンビニまで送るから、そこから歩いて帰れる?」
「やだ、座長さんのお家行く」据わった目のジンちゃん。「座長さんのお家にお泊りする~」
「うおおッ」心臓が暴れる!「待って……これ酔いが醒めて記憶が無くなってるパターンであって欲しい……さもなければあたしが死ぬ……」
「わはは。頑張れ座長さん」もぺ子が他人事のように笑っている。いつか殺そう……「今ならお持ち帰りできるぞ。やったね」今殺してやろうか……
「お持ち帰りして~」ジンちゃんが悪い顔で笑っている。「お持ち帰り~」あああ何だこの思考が破砕される環境は~。
「……もぺ子、これから一ヶ月間ずっと奢りなさいよ?」怒りで狂いそうになりながらもぺ子を睨み据える。「あと、今度良い酒用意しといて。自棄酒するから」
「はいはい。取り敢えずさっさと持ち帰ってくれる? もう店閉めたいから」こいつほんま……いやもう良いか。
 ジンちゃんは全く動けそうに無かったから、おんぶしてクルマまで運ぶ。
 軽い。軽いし、背中にふにゃふにゃしたアレが当たってもうあたし今死んでも良いって思った。役得過ぎるでしょ……何だこれ……
「座長さーん」首を圧迫するように強く抱き締めてくるジンちゃん。「えへへー、おんぶされちゃったー」
「まさかこんなにアルコールに弱いなんて知らなかったよジンちゃん……」喫茶店を出て、真っ暗な世界に舞う粉雪を払うようにクルマへ急ぐ。「悪い大人に騙されないようにね……」
「座長さんに貰って貰うからいいの~。へへへ」あああもう可愛いけどそれは今あたしが聞いて良い台詞ではないと思う……
 ……これ、酔いが醒めて記憶が残ってたら大変だぞ……あたしが忘れた事にしておいた方が良いんだろうか……
 分かったのは、絶対にジンちゃんにアルコールを勧めてはならないと言う事。こんな隙だらけの姿を誰かに知られてはいけない。あたしともぺ子だけの秘密にしておこう……
 クルマの助手席に座らせると、ぐてぇ~っと座席にもたれ掛かる彼女が動かないようにシートベルトを締めてあげる。
 運転席に戻り、素早くクルマを走らせる。
「すぅ…………すぅ…………」
 規則正しい寝息が聞こえてきて、あたしは凄まじい疲労感に満たされて小さく吐息を零してしまった。
 ってか、これ歩いて帰れる感じじゃないけど……コンビニに着いたらどうしたら良いんだこれ……
 不意に脳裏を過ぎる、お持ち帰り、と言う単語。
 ……それは犯罪だよ。
 でもこのままクルマに寝かせておく訳にもいかないし……
「座長さん……」
 寝言なのか、あたしのハンドルネームをむにゃむにゃ呟く女子高生を横目に、あたしはひたすら悶々してしまうのだった。
 目的地が、近づいてきてしまう。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    戦闘準備バッチリで出掛けたはずなのにこんな事になってしまうなんて…
    もう、本当にご褒美です。ありがとうございました!  討死ッ!!

    ちょっとだけ酔ってしてしまったジンくん、そのふにゃふにゃしたジンくんを目の前にして理性の蒸発と格闘する座長さん、それを見てめっちゃ楽しんでるもぺ子さんという図式がとても美しいトライアングルを描きだしており今回もヤバいです(語彙力

    あまりの尊さにちょっと討死(という名の寝落ち)してしまっていたのでこんな時間に…やっぱおそろしいぜネトゲ百合……

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

    返信削除
    返信
    1. 感想コメント有り難う御座いまする~!

      討死したーっ!www いえいえ! まだまだこれからですぞ!┗(^ω^)┛

      語彙力寧ろバッチリまである!www 最高の図式を作り出してしまったようですね…!( ´∀`)bグッ!

      あまりの尊さに寝落ちwwww幸せな睡眠が取れていたのでしたら良かった…!┗(^ω^)┛

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいでする~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!

      削除

好意的なコメント以外は返信しない事が有ります、悪しからずご了承くださいませ~!