2022年2月21日月曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第33話【FF14二次小説】

■あらすじ
新たな春、来たる。


【第33話】は追記からどうぞ。

第33話


「爺ちゃん、元気無さそうだったね」

 寄合所の地下。ツトミとサクノ、そしてエレットの三人はレザーソファに向き合って腰掛けている。
 レザーソファの間に鎮座するオリエンタル・ラウンドテーブルの上には、オリエンタル・ランチセットのうどんがホカホカと湯気を出しながら、食べられるのを心待ちにしている様子で置かれている。
 ツトミが漏らした独語に、エレットはうどんを嚥下した後に、「……突然の話でしたからね。私もまだ驚きが抜けていません」と神妙な面持ちで頷く。
「それも一気に三人も重なれば……ヤヅルさんの心境は察するに余りあると言いますか……」サクノも難しい表情で頷き返す。「私達にもあんまり心情を漏らさない方ですし、何とかしてあげたくても中々……」
「そうなんだよねぇ」うーん、と唸り声を漏らすツトミ。「寂しい事ばかりじゃないし、嬉しい事、楽しかった事もたくさん有ったから、サクちゃんとエレちゃんに出会えた訳だし。今はお別れしちゃったけど、今生の別れって訳じゃないしね。またいつか会えると思うから」
 ツトミの感傷的な想いの吐露に、二人は肯定の意を覗かせる。
 分かっている。分かってはいるのだ。事実として、これでもう二度と彼らと会えなくなると言う訳ではないと言う事は。遥か遠い世界に旅立ったとしても、また戻って来るかも知れない、その一縷の望みを捨てない限り、いつか、きっと……
 それでも、今この場の感情を無視する事は難しかった。今まで肩を並べて歩いていた仲間が、突然いなくなったのだ。その寂寥感は、今すぐに払拭とはいかないだろう。
 ヤヅルだけではない。残された者もそうだし、残して行ってしまった者も、後ろ髪を引かれる想いで己の道を歩み始めたに違いなく。
 それでも歩を止めず、自分の道を歩み続ける事が、冒険者であると言う事も、理解しているが――
「済みません、リンクシェルに連絡が」エレットが落ち着いた様子で手を挙げて注意を引くと、そのまま耳に指を宛がって通信を始めた。「――はい、フリーカンパニー【オールドフロンティア】です。……はい、はい。了解しました、マスターにお伝えしておきます」
 エレットは通信を終えると、数瞬迷った素振りを見せてから、サクノに向き直る。
「? どうされましたか?」不思議そうに小首を傾げるサクノ。
「それが……」
 訥々と今し方の通信の内容を話し始めたエレットに、サクノとツトミは驚きの表情を覗かせるのだった。

◇◆◇◆◇

「――若葉の冒険者の指南?」
 木工師ギルドで一仕事を終えて寄合所に帰ると、エレット殿が「はい、我がフリーカンパニーの実績を認められたと言う事も有りますが、冒険者本人が私達のフリーカンパニーにトライアル雇用でも良いので加入したいと申し出たそうです」と、普段より若干喜色の浮かぶ声で応じた。
 トライアル雇用、と言う単語の意味が分からなかったが、どうやら我がフリーカンパニーに試用でも良いから雇用して欲しいと言う申し出が有ったと言う事のようだ。
 突然視界が開けたような錯覚に襲われるが、そもそもワシは近頃、前を向いているように見えて、前を向いていなかったのだと気づく。寂寥感に耐えるように、いつの間にか視線は下へ。人の顔を見ているようで、気づけばその足元をなぞっていたように思う。
 現金なもので、別れで悲しんでいた心も、新たな出会いが来ると知っただけで浮足立つように、目線は自然と前を向いていた。
 視線の先にはエレット殿だけではない、ツトミちゃんとサクノ殿もいる。その事実を思い出せなくなっていた今までが、あまりに勿体無かったと、今はその想いが痛切に胸を軋ませる。
 三人が柔らかく微笑んでいるのを見て、ワシは照れ臭くなりながらも確りと頷いた。
「であれば、まずは面談かのぅ? カーラインカフェではなく、寄合所に直接招いても良いぐらいじゃが」
「うんうん、良いんじゃないかぁ」コクコクと頷くツトミちゃん。「それでね、爺ちゃん。その新しくウチに来る子の名前、よく見てみて?」
「ん?」
 もしやワシの知っている冒険者か……? と勘繰るも、冒険者の、特に成り立ての雛チョコボのような冒険者に知己はいないとすぐに思い至る。
 であれば、元は別の仕事で生計を立てていた者が冒険者を新規で開拓した……と言う事だろうか? だとしたら想像もつかないが……
 悶々と想像を巡らせながら、エレット殿から拝借した申請書に目を通す。
 名前の欄には、エオルゼアで広く使われている文字で「Kino Yukigakure」と記されている。
 キノ・ユキガクレ。……ユキガクレ?
「もしや……サクノ殿の親族であろうか?」
 サクノ殿の姓名はサクノ・ユキガクレ。同じ姓を有している冒険者など、よほどの偶然でもない限り観る事は有るまい。そう思っての問いかけだった。
 サクノ殿はポリポリと頬を掻くと、「えぇ、その、お察しの通り、私の妹でして……」と照れ臭そうに応じた。
 顔写真の項目を観て、納得する。サクノ殿と見た目が瓜二つの相貌なのだ。これで全く関係ない人物だったら何事だと驚いていたところだろう。
「つい先日冒険者として冒険者ギルドに登録をしたそうでして、フリーカンパニーに入るなら私と一緒のところが良い! と……」
「お姉さん想いの妹さんなんですね」エレット殿が朗らかに声を掛ける。「素敵だと思います」
「姉離れが出来てないんだと思います……いやまぁそこがまた可愛いんですけどね……!」サクノ殿が拳を握り締めて感情を表現している。「里にいる時はずっと一緒でしたので、また一緒に活動できるって思うと、いても立ってもいられないですよね……!」素早く鯉口を何度も切り始めて、キンッ、キンッ、と涼やかな音が寄合所に響いている。
「サクちゃんは冷静さを失うとすぐ抜刀しそうになるよね」楽しそうに笑っているツトミちゃん。「どうしよ、キノちゃんもすぐ抜刀したら」戦が始まるのか……?
「なるほど、事情は把握した」こっくり頷き、申請書をエレット殿にお返しする。「であれば面談も簡単なもので良かろう。皆もそれで良いかな?」
「さんせー」「私も異存はありません」「皆さん有り難う御座います……!」ツトミちゃんがにこーっと手を挙げ、エレット殿が畏まった様子でお辞儀を返し、サクノ殿が感極まった様子でコクコク頷く。
 満場一致。であれば是非も無しであろう。
 その時だ。寄合所の扉をコンコンッ、と小さく叩扉する音が聞こえたのは。
 まさか話も纏まる前に訪れたのかと、驚きと嬉しさで思わず声を上げそうになるも、一度咳払いして――扉を見やる。
「どうぞ、鍵は掛かっておらぬぞ」
 一同が見守る中、扉がゆっくりと開き――――現れたのは、サクノ殿と瓜二つのアウラ族の少女――ではなく、見知らぬヴィエラ族の青年だった。
 上半身がほぼ裸の態で、パゴスガスキンと言う脚装備だけの、半裸の男。背に両手槍を背負っている事から、辛うじて冒険者……か? と言う認識は働くが、明らかに不審者のそれである。
 この場に居合わせる者全員の意表を衝いて来訪した謎の男は、褐色の肌を惜しげも無く晒しながら、ニヤリと口唇を歪めた。
「遂に辿り着いたか……此処なるは我が同胞を懐きし安息の地……我が矛と共に、汝らの眷属となる事を赦し給え……」
 ヴィエラ族の男は朗々と語るが、ワシもそうだが、誰一人としてその意味する言葉を即座に理解できる者はいなかった。
 故に……
「「「「な……何て?」」」」
 などと、皆が皆、普段の語調など忘れて素っ頓狂な声を漏らしてしまうのだった。

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