2022年3月30日水曜日

【ワシのヒカセン冒険記SS】第3話【FF14二次小説】

■あらすじ
パストとロロの馴れ初め話。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【Lodestone】、【Pixiv】で多重投稿されております。


第4話→まだ


【第3話】は追記からどうぞ。

第3話


「ぬ? あれは……パスト殿とロロ殿か?」

 リムサ・ロミンサの市に買い出しに出掛けた帰り道。乾いた喉を潤そうと溺れた海豚亭に足を運んだ折、客席の一角に見知った顔が有るのを見かけたワシだったが、二人の間柄を知る身として、見なかった事にしてそのまま別の席を探そうとしたにも拘らず、パスト殿の「お、ヤヅさん」と言う目敏い声に、ワシは観念して二人の元に向かう。
「逢瀬の邪魔をするつもりは無かったんじゃがの」
「水臭いですよヤヅルさん!」ロロ殿が屈託の無い笑みを覗かせるが、こそっと耳打ちしてくる。「これがいつものパストさんですから気にしないでください」
「うむ、それもそうじゃの」苦笑を返してしまう。「二人はもう昼餉は済ませたのか?」
「はい! お腹ポンポンです!」
 ロロ殿が自分の腹を撫でながらご満悦な表情を返すのを観て、ワシはうんうんと頷き返す。
 パスト殿とロロ殿。二人は夫婦の関係に有る。……と言うと語弊が有るのかも知れないが、このエオルゼアで行われる結婚式のような催事――エターナルバンドなる催しに招待されて見守っていたワシは、勝手に二人がそういう関係であると認識している。
 互いの指にはきらりと輝く結婚指輪……もとい、清純の指輪なるものが主張している。故にそういう関係だと思っているのだが……実際、彼女らに問うても「そういうのじゃない!」と言った回答を得た今は、そのようなもの、と言う認識で彼女らを観ている。
 アウラ族の女性と、ララフェル族の女性。同性であっても仲睦まじく、いつだって連れ立って冒険しているところを観るに、仲良し同士であればエターナルバンドを交わす事も有り得る世界なのだろうと、ワシなりに解釈していた。
「ワシは買い物の帰りにエールでも引っ掛けようと思っておったところでな。二人はこれから?」
「ロロさんの修行に行こうかなって」「その予定は無かった事にしましょう」「ええー」
 パスト殿は見るからに不満そうだが、ロロ殿はペロッと舌を覗かせて悪戯っ子な表情で、それ以上取り合う気が無さそうだった。
「パストさんがヤヅルさんに声を掛けてしまったからには、ヤヅルさんと話しをしなければなりませんからね。そういう事です!」「そういう事か」「そういう事!」
 ロロ殿が言い聞かせるように告げると、パスト殿もそれ以上反論する余地が無いとでも言うように頷いてしまう。
 ……これは、パスト殿が後から怒られる流れかの。悪い事をしたのぅ。
 などと心の中でこっそり謝っておきつつ、通りがかった給仕の女性に声を掛けてエールを注文する。
「折角話し合いの場を設けて貰ったからには、何かしらの話を聞き出したいところよ」給仕を見送り、ワシは二人に視線を戻した。「例えば、そう。二人の馴れ初めの話とか」
「私、前に話さなかったっけ?」パスト殿が不思議そうに眉根を寄せる。「それともそれとは別の話?」
「地獄麻雀の時にちろっと伺ったがの。今は二人が揃っておるのだから、ロロ殿からも聞きたいのぅ、とな」
「馴れ初め……」ロロ殿が唸りながら小首を傾げる。「ロロが、パストさんにお師匠さんになって貰った時のお話?」
「そうそう、それじゃ」ワシは即座に頷き返す。「ロロ殿から師匠になって欲しいと乞われた話は聞いたが、その実、ロロ殿の方はどうじゃったんだろうな、と思ってな」
「そうですね……そんな話をいつの間にかしていた事は後でパストさんとじっくりお話しするとして、」ニコニコ笑顔でパスト殿を観るロロ殿の目が明らかに笑っていない。「元々パストさんとは一緒のフリーカンパニーだったのです。パストさん、いつも冒険に出てたのですけど、その日はカンパニーハウスに戻ってて」
 当時を思い返すように、ロロ殿は緩々と言葉を紡いでいく。
 ワシはエールを片手に、気持ち良く彼女の話に耳を傾ける。
「その時のロロ、採集が好きでやってたのに、なんか上手くいかないなぁって悩んでて。パストさんに相談したのです。どうしたら良いんだろう、って」
「ロロさんの装備見てビックリしたよ。その装備じゃイイ物取れねえべ! って」パスト殿もいつの間にかエールを片手に口を挟んできた。「ギャザラーをするにしても、装備はやっぱり大事だからね、教えられる範囲で教えたのよ」
「とても親切に教えて貰ったのです」どこか嬉しそうに頬を緩ませるロロ殿。「いつも忙しそうに冒険に出てるのに、たくさん時間を掛けて貰って、色々な事を教えて貰って……」
「クラフターの装備も一緒に考えたべ。あの当時だと、白貨で手に入る装備が良かったから、その集め方とか教えてた」パスト殿がエールを呷っている。「ロロさん、筋が良いからすぐ吸収するのよ」
「えへへ……パストさん、すぐ褒めてくれるから」満更でもなさそうなロロ殿。「装備が揃った後、ロロは言ったの。どうしたらパストさんみたいになれますか? って」
「それが弟子入りの口説き文句だった訳かの?」エールが進んで仕方ない。「パスト殿は教え方も上手いしのぅ、その場にワシがいたなら、そうした方が良いのぅ、と頷いてたところじゃろう」
「そうそう。それで私に弟子入りでもするかい? って返したら、弟子入りする事になった感じ」パスト殿も赤ら顔でエールの入ったジョッキをテーブルに戻す。「ロロさん、呑み込みが良いから、私の技術をどんどん吸収してねぇ。あっと言う間に教える事が無くなっちまった」
「む? そうなのか? ちと意外と言うか……いや、ロロ殿の呑み込みが云々ではなく、パスト殿であれば教えられる事など腐るほど有りそうじゃが……」
「うん。その教えられる事を全部叩き込んだ」コクリと頷くパスト殿。「やる気が有って、覚える努力も怠らなかったから、ロロさん、あっと言う間に教える事が無くなっちまって」
「なんと……」末恐ろしいものを観るようにロロ殿を観る。「磨けば光る原石、それそのものだった訳か……そういう意味ではパスト殿も人を見る目が有ると言うか何と言うか……」
「パストさんの教え方が上手かっただけです!」照れてるのかブンブン手を振り回すロロ殿。「教えるものはもう何も無いって言われて、ロロは……もっと一緒にいたいなって、思って、それで……」
 エールを飲んだ訳でもないのに赤面しているロロ殿を観て、ワシは満足そうに鼻息を落とした。
「……なるほどのぅ。いや、酒の肴には上等過ぎる話じゃったわい。心から感謝致す」畏まってお辞儀を返す。「元は師と弟子の間柄から、やがて恋仲へと至るその流れ。あまりにも微笑ましくて今夜は夕餉が喉を通るか分からんな」
「私ももっと皆のそういう話を聞きたいんだけどねぇ」不貞腐れた様子のパスト殿。「ポヨ太郎がアレだからな……」
「そうじゃの……」「それですよね……」ワシとロロ殿が一緒になって頷く。
 ジョッキ三杯分のエールを飲み干していた事に気づいたワシは、「さて、」と重くなっていた腰を持ち上げる。
「心温まる話を有り難う。これ以上酒精が進んでは帰り道を見失ってしまうでな、そろそろお暇させて頂くよ」
「こちらこそ付き合ってくださって有り難う御座いました!」ペコリと頭を下げるロロ殿。「また一緒に冒険に行きましょう!」
「ロロさん、また一段と戦士の腕前が上がってるから期待しててね」グッと肯定の意を示すパスト殿。「またねぇ」
「ああ、またの」
 そうしてワシは勘定を支払い、カンパニーハウスである寄合所に向かって歩き出す。
 いつの間にか暮れていた陽を背に、今夜は良い夢が見られそうだなんて思いながら、皆の待つ家を目指すのだった。

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