2022年7月8日金曜日

【ワシのヒカセン冒険記】第35話【FF14二次小説】

■あらすじ
…………絶対に怪しいと思うんじゃが!?


【第35話】は追記からどうぞ。

第35話


「――失礼、フリーカンパニーのメンバーを募集中と伺ったのですが、まだ募集は打ち切られておりませんでしょうか?」

 昼下がりのグリダニア・ラベンダーベッド。
 春の陽気が木々を喜ばせ、風が気持ち良く吹いていたそんな折。寄合所の庭に在るカフェテラスで、ラベンダーベッドの移ろいゆく景色を眺めながらツトミちゃん、サクノ殿の二人と茶をしばいていると、ふと寄合所の門の前に見知らぬエレゼン族の男が立っていた。
 バトラージャケットと呼ばれる礼服に身を包んだエレゼン族の男は、見るからに気品の良さが溢れた、紳士然とした雰囲気を纏っていた。身形の良さから、一瞬冒険者と言うイメージが湧かなかったが、巴術士や召喚士が扱う魔道書を腰に携えているのが見えて、ようやっと彼自身が放った言葉が、ウチのフリーカンパニーに新規加入する意志の有る冒険者の発言だと呑み込めた。
「ああ、人員は今も募集中だとも」茶碗をテーブルに戻し、ワシは確りとした身形のエレゼン族の男に意識を向ける。「新規加入を望む者かの? 良ければ話を伺うが」
 空いている席を勧めるワシに、ツトミちゃんもサクノ殿も優しげに首肯を返して、エレゼン族の男に微笑みかける。
「これは……お心遣い、有り難う御座います。それでは失礼して……」エレゼン族の男は優雅に一礼を返した後、気品の有る動きで着席をした。「失礼、申し遅れました。私、ギルバート・テイラーと申します。急な来訪にも拘らず会席の場を用意して頂いた事、感謝致します」
 柔らかく微笑むエレゼン族の男――ギルバート殿。物腰が穏やか且つ柔らかで、クロス殿やマコ殿とは異なる色男と言った風情だ。中身が老爺であるワシですら見惚れてしまいそうになる整った顔立ちも相俟って、何人の女子を泣かせてきたのだろうか、などと邪推してしまう。
「イケメンだ……!」「イケメンですね……!」
 ツトミちゃんとサクノ殿も早速虜にされているようで、瞳の色が桃色になったような錯覚を与える程に、陶酔した表情を覗かせている。ワシですら思わず見惚れてしまうと言う事は、まぁそういう事なのだろう。
「……こほん、」二人を夢の世界から引き戻そうと、ひとまず空咳を挟む。「と言うと、ギルバート殿は弊フリーカンパニーに新規加入の意志が有り、と。そういう事かの?」
「ええ、仰る通りで御座います。私自身、冒険者としての実績は少ないのですが、冒険者の世話などであれば喜んでお受けしたいと考えておりまして」
 ニコリと人当たりの良い微笑を浮かべて応じるギルバート殿を見て、確かに見た目からして執事のそれ……冒険者稼業を営んでいると言うよりは、冒険者の世話役として活動していそう、と言うイメージが強い。
 我がフリーカンパニーに在籍しているエレット殿と同じ枠として応募に至ったのかも知れない。彼女も冒険者でありながら、冒険者稼業はほぼ休業しており、専らフリーカンパニーでの受付や斡旋、そして事務処理などを任せきりだ。
「そういう事であれば勿論歓迎じゃが……何故ウチのフリーカンパニーに?」不思議そうに小首を傾げる。「ギルバート殿のような冒険者……いや、世話役であれば、どこでも引く手数多だろうに」
 世話役を買って出る冒険者など、そう多くはいまい。ただ、そういう需要と供給が有る事は、エレット殿や、よそのフリーカンパニーの噂話を伺っていると何と無く理解は出来ていた。
 冒険者によってはリテイナーと言う、冒険者の世話や倉庫番に当たる人間を複数人雇い、より冒険者稼業に専念する、と言う輩も居ると言う。ワシも何れは雇いたいと考えてこそいるが……まだまだ収入が安定しないのも有り、リテイナーを雇うだけの賃金を捻出できない悩みは尽きない。
 ギルバート殿はキョロキョロと不意に視線を周囲に配った後、不思議そうにワシに視線を戻した。
「実は……こちらのフリーカンパニーに所属されているヴィエラ族の冒険者に誘われまして……」
「ヴィエラ族の冒険者……」
 考えるまでも無く、ヴィエラ族の冒険者は我がフリーカンパニーには一人しか所属していない。
「サクノお姉様、ただいまクエストより帰還致しました」「一任されし使いは果たした。汝らよ、我が通告を傾聴するが良い」
 そこに、丁度クエストを終えた帰りであろうキノ殿とホロウ殿がテレポで姿を現した。
 キノ殿は即座にサクノ殿の元へ駆け寄り、頭を撫でて貰おうとウズウズしている。サクノ殿がそれを感極まった様子で見つめ、「よしよし、頑張りましたねキノ!」と仔犬でも相手にするかのようにキノ殿の頭をわしゃわしゃと掻き撫でる。
「えへへ……! クエストの疲れが全部吹き飛びましたわ……有り難う御座います、お姉様……!」
 キノ殿がこれまた感極まった様子で輝かんばかりの瞳をサクノ殿に捧げている。
 ワシはそれをほのぼのとした想いで見届けていたが、ふとホロウ殿に視線を向けるギルバート殿に気づいた。
「ぬ? 汝は先刻の執事か。何用だ?」
「こんにちは、ホロウさん。貴方の誘いに応じて、今し方こちらのフリーカンパニーに加入させて頂こうと足を運んだ次第でして」
「おお、であったか。我が主よ、此れなる御仁は気配りの達人ゆえ、我らの営為に大いに重宝すると愚考する」
「お、おう……」
 ホロウ殿はそれはもう旧知の仲のように瞳を輝かせてギルバート殿を推しているが、ギルバート殿の視線がチラチラと彼の腰と言うか臀部に向かっているように見えるのは気のせいだろうか……
 ワシの怪訝な視線に気づいたのか、ギルバート殿はハッと我に返った様子を見せた後、しれっと穏やかな微笑に戻り、首肯を見せた。
「ホロウさんにこうも持て囃されては困ってしまいますね……ただ、彼の弁に嘘は無いと、私の方からも明言させて頂きます。如何でしょうか? お役に立てる自信は有ります」
「う、うむ……」
「我からも頼む。此れなる御仁は我の事をよく解っておるのだ……如何だろうか我が主?」
「う、うむ…………」
 ……流石に推薦人のホロウ殿がここまで言うなら、断る道理も無いのだが……無いのだが……
 チラッと視線をギルバート殿に向けると、彼はハッと即座にホロウ殿から視線を逸らしてニコリと笑いかけた。
 …………絶対に怪しいと思うんじゃが⁉
「まぁまぁ爺ちゃん、ここは素直に受け入れようよ」
 ツトミちゃんがポン、とワシの肩を叩いて微笑みかけた。
「ツトミちゃん……」
「こんなイケメン、そうそういないよ! さぁ、早く受け入れよう! さぁさぁ!」
「こ、此奴……!」
 最早イケメンフィルターが掛かってしまったであろうツトミちゃんは止められそうに無かった。
 助けを求めようとサクノ殿を見るも、彼女も「まぁまぁ、クロスさんとマコさんが脱退された分、イケメン要素は必要ですって。ね?」と、キノ殿に頬を抓られながら笑っている。
 こういう時に限ってご意見番としてのエレット殿はお休みで、最早首を縦に振る他無かった。
 固より、断るつもりが無かったと言えばそうだが、この不信感はどうしたら……
 新規加入の書類を処理し、後でエレット殿にお願いしようとしていたら、ギルバート殿が不意に近寄り、痺れるような甘い声で耳打ちしてきた。
「大丈夫です、私の興味はホロウさんだけですので。その……夜的な意味で」
「ッ⁉」
「安心してください、決して問題は起こしませんから。ただ……ホロウさんを密やかに愛でたいだけですので……」
 ふふふ、と妖艶に笑ってホロウ殿に近寄って行くギルバート殿に、ワシはもう心臓が早鐘を打って仕方なかった。
 な、何と言う色男……女だけでなく、男も泣かして……いや、鳴かしてきたのか……⁉
 などと、桃色の妄想が脳内を駆け巡り、ワシは暫く動けなくなったのだった。
 ……今更じゃけど、加入させて良かったんじゃろうか……ワシは考える事を止めて、ホロウ殿の貞操の心配をしつつ、いやホロウ殿なら大丈夫か……と思い至ってしまうのだった。

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