2022年10月17日月曜日

【ネトゲ百合】第25話 その後のほろあまの日【オリジナル小説】

■あらすじ
ネトゲで好きになってしまった相手は、きっと異性だと思っていた。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【Pixiv】で多重投稿されております。

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■第26話→未定



【第25話 その後のほろあまの日】は追記からどうぞ。

その後のほろあまの日

◇◆◇◆◇>>ジン<<◇◆◇◆◇

ジン「あ、おっさん来たな!」

 座長さんの生チョコを堪能しながらFPで待機していると、生チョコが無くなりそうになるタイミングで座長さんがログインしたと言うシステムメッセージが入り、わたしは慌てて生チョコで汚れた指をウェットティッシュで綺麗にしてからスマフォーンに向かう。

座長「おー、こんばんはー」
ジン「こんこん! おっさん! 生チョコ美味かったよ!」
座長「おー、よかたゆたか」

 いつも通りの座長さんで、何だかホッとするような、もうちょっとこう、ドキドキして欲しいような、名状し難い感情が胸中を渦巻いていた。
 ……渦巻いてはいるけれど、突然変わったりしたら、それはそれでちょっとやだな、とも思ってしまう、複雑な心境で、我ながら面倒臭い女だな、なんて思ってしまう。

座長「ジン君のえりんでくれたちよこもおいしかったゆー」
座長「ありがとね」

「良かったぁ……」
 座長さんのチャットを見るだけで、こんなにほっこりできるなんて、やっぱり彼は……いや、彼女は、何か癒しの力でも持っているのではないだろうか。
 普段通りの誤字の多さだけれど、今日は何故だかほろ酔い気分でチャットしてるのかな、なんて想像を膨らませてしまう。
 アルコールの入っているチョコを食べて、ご満悦な表情でスマフォーンをタップしている座長さん……うん、とてもイイ。わたしまでにやけてしまう。

ジン「良かったぜ! あ、それでなんだけどさ、」

 わたしはチャットを打ちながら、座長さんにアイテムトレードを申し込む。
 座長さんはよく分かってない様子で了承してくれたので、すぐにアイテムを選択して、渡すをタップ。
 受け取ってくれた座長さんがチャットを返す前に高速でチャットをタップ!

ジン「ハッピーバレンタイン!」
ジン「やっぱこっちでもチョコ渡しとかないと、何か気持ち悪くてさ!」
座長「わー、うれすー」

 イマイチ嬉しさが伝わってこないけれど、これもまた、座長さん流と言うべきか……思わず噴き出しそうになってしまう。
 座長さんとトレードして渡したのは、FPで開催されている今年のバレンタインイベントのイベントアイテムであるチョコだ。効果は……獲得経験値+5%と言う、割と有り触れたタイプの奴だけれど、こういうのはやっぱり、その時に渡しておきたいんだよね。
 と思ってたら突然座長さんがチョコを食べるエモートを始めた。エモートって言うか、実際食べてる! バフ欄に「獲得経験値+5%」って出てるし!

ジン「今食べるのかよ!」
座長「まちがえた」
ジン「しかも間違えたのかよwww」
座長「ま、まだ二個のこつてるし!」
ジン「お、おう!ww」

 イベントの都合上、三個単位で貰えるから、誰にも渡す相手がいないと思って全部座長さんに渡しちゃったけど、丁度良かったのかも知れない。

座長「ありがとー、大切にするよお」
ジン「へへっ、腐る前にちゃんと食べろよ!」
座長「おー」

 ……いつもの時間。いつもの会話。いつもの、相手。
 最近色々ゴタゴタしてて、忘れてしまいそうになっていた、わたしにとってとても大切で貴重な時間であり、会話であり、相手。
 当たり前のように今夜も付き合ってくれている事に感謝して。
 この当たり前が突然無くなってしまう可能性が有ると言う事が、分かってしまったこの数日で、わたしはより、この何でも無いチャットを交わす時間が、とてもとても、愛おしくて、有り難くて、素敵なものなんだって気づかされた。
 いつか……そういつか、この当たり前が無くなってしまう前に、座長さんにしっかり想いを伝えたいと、強く思う。
 でもそれは、この当たり前が砕けてしまう可能性を内包している事からは、目を逸らせない。
 もしかしたらその恐怖心が、チョコを渡す時に自然と発揮されて、想いを告白する、と言う大事な決心を消し去ってしまったのかも知れない。
 離れたくない、まだまだずっと一緒にいたい、それこそ一生傍に…………
 スマフォーンの画面に映る彼女……いや、彼は、今日もいつも通りくたびれたおっさんの姿で、噛み噛みのチャットを返して、わたしを笑わせてくれる。
 この甘い日常が永遠に続けば良いのにと、生チョコの空箱を横目に願うのだった。


◇◆◇◆◇>>座長<<◇◆◇◆◇

ジン「じゃあそろそろ俺は寝るけど、おっさんも夜更かしは程々にな!」

 気づいたらもう深夜も深夜、丑三つ時と言う時間帯に差し掛かり、あたしは欠伸を浮かべながら覚束無い指捌きでチャットを打ち込む。

座長「おー、おやすみー」
ジン「おやすみー! またなー!」
座長「またねー」

 システムメッセージでジンちゃんがログアウトしたのを見送って、あたしもFPからログアウトする。
 深……と静まり返る部屋の中で、あたしは食べ尽くしたチョコを片付けると、呆っと天井を仰いだ。
 LEDの蛍光灯が眩しく部屋を照らし出している。その光に吸い込まれるように、あたしは虚ろになっていく意識を手放した。
 とても……とても心地の良い夢を見ていた気がする。
 ジンちゃんがずっと傍にいて、何の憂いも無くて、仕事も快適で、何も困った事が無くて、遊び惚けていられる夢。
 ただ、それが虚構なのだと言う事は感覚として分かっている自分が、その世界を外から見ていて。
 ジンちゃんとは、今は仲良く付き合えているけれど、そのうちお別れしなくちゃならないのではないか、とか。
 彼女に問題が起きる前に、すっぱり身を引くべきではないか、とか。
 大人として、こうあるべきではないのか、って理性の塊のような自分が、険しい顔で言うのだ。
 子供のようなあたしは、ぐずりながらそれはやだなぁ、と何とか我を通せないかと泣いている訳で。
 でも結局、理性のあたしには敵わなくて。あぁ、そうだよね、と。あたしは諦めて黒く黒く沈んでいく。
 ねっとりてらしーがぁー。じどうほごがぁー。おとなとしてどうなんだぁー。
 分かってる、分かってるよ。分かってるけど、分かった上で、何とかしたいんじゃんかぁ。
「じゃあいいじゃん。座長は悪くないでしょ」
 夢の中で。唐突にあたしを援護してくれたのは、もぺ子だった。
 喫茶かしまの業務中の恰好で、もぺ子は煙草を銜えたまま告げる。
「悪い事してんのなら止めるけど、アンタ別に悪い事はしてねーし、するつもりもねーんでしょ? ならいいじゃん、好きにやれば。文句が言いたい奴に勝手に言わせときな、アンタらには関係無いんだから」
 正確にそう言ったのか、あたしには分からなかった。けれど、そういうニュアンスの、そういう意味合いの、そういう単語を、夢の中の彼女はずばり言い切って見せたのだ。
 それがあたしには途轍もない救いで、目が覚めた瞬間、瞳から大粒の涙が零れ落ちて、記憶から砂時計のように失われてしまった。
「……んあ、いっけね……寝落ちしてたか……」
 時計を見たら最早早朝と言える時間。風呂はすっかり冷えてるだろう事を想起して、追い焚きして入ろうと立ち上がる。
「…………ん?」
 ふとスマフォーンが通知を知らせるランプが点っている事に気づき、起動してみると、もぺ子からラインが来ていた。

もぺ子「よ。たぶん寝てるよな。こんな夜更けに済まん」
もぺ子「今回、わしがお節介で色々やらかしちまって、ほんとごめん」
もぺ子「今更こんなこと言われても困るだろうけど、わしは二人の仲を応援してるからさ」
もぺ子「またいつでも店に来て、だらだらくつろいでくれよ」
もぺ子「そんだけ。良い夢見ろよな」

「…………なんつぅかさぁ……」
 こいつ、ズルいんだよな。立ち回りっつーかなんつーか……
 そんな事を思いながら盛大な溜め息を吐き出すと、拙い指捌きでラインを返す。

座長「ゆるす。だからなにかおごれ」

「これでよし」
 満足気にスマフォーンをオフにするも、何だか気持ち悪くてもう一度ラインを起動させてしまう。

座長「こうみえて、あたしも感謝してるから」

 発言してから急に恥ずかしくなったけど、まぁ、もぺ子にはこれぐらい言った方が良いだろうと思って、振り切るようにスマフォーンを置いて浴室に向かう。
 ああそうだ、彼女にも感謝してるんだ。でなければ、こんな想いが膨らむ事も無かった。
 大切な時間を刻む、その感覚がこんなに大きくなる事なんて無かったんだ。
 ジンちゃんと一緒にいたいのは間違いなくそうだけれど、その中にはきっと、彼女も含まれているから。
 だから……今度何か奢って貰わないとね!

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    いつかはお別れしなきゃいけない時が…
    あのゲームをしてた時はそんなこと微塵も考えてなかった。
    でも、一人減り二人減り…サ終の日はもう誰にも会えないだろうと思って前日にお別れをすませたりしてたなぁw
    色々事情はあるんだろうけど、やっぱり飽きてきたりすれば足は遠のきますよね。
    そんななかでも何人かチラホラ未だに一緒に遊べたりチャットで騒いだり出来ているのは幸せだなぁなんて…

    で、何が言いたいかというとジンくんも座長さんも末永くお幸せにってことにしておく(照れ隠し

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想コメント有り難う御座いまする~!(´▽`*)

      ネトゲの宿命ですよね…いつかはどうしてもお別れする時が来てしまう。サ終と言う絶対的な終わりを前にユーザーはあまりに無力ですし…
      今でもとみちゃんとこうして交流できている事自体が本当に奇蹟だと思っておりますゆえ、それはもう感謝してもしきれないです…本当にありが㌧…!

      と言う脱線をしてしまう物語でしたね!ww 彼女らにはワシらの分以上に幸せになって貰わねば…!

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいでする~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!(´▽`*)

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