2022年10月14日金曜日

【ネトゲ百合】第24話 ほろあまの日〈6〉【オリジナル小説】

■あらすじ
ネトゲで好きになってしまった相手は、きっと異性だと思っていた。

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【第24話 ほろあまの日〈6〉】は追記からどうぞ。

ほろあまの日〈6〉


◇◆◇◆◇>>座長<<◇◆◇◆◇

ジン「座長さん! 今日ってかしまに来れる?」

 仕事の昼休みに喫煙室で紫煙を燻らせていると、スマフォーンがラインのジンちゃんからの通知を知らせてきた。
 FP以外の環境でやり取りする事も増えつつあったが、こういうお誘いは今回が初めてだったので、あたしは慌てて吸い殻を灰皿に擦りつけ、スマフォーンの入力に集中する。

座長「いけるよー」
ジン「やった! じゃあかしまで待ってますね!」
座長「おー」

「もっと気の利いた事を言えんのかあたしは……」
 毎度の事ながら思わずにいられない。ジンちゃんの感情豊かな文面に対し、何だこのやる気の無さは。もっとこう……いや、もう仕方ないのかも知れない、今更キャラを被っても逆におかしくなる気しかしないし……
 さておき、今夜は予定が出来たのでもう上司に何を言われようが定時上がりは確定した。ノーモアサビ残。あたしは定時になった瞬間タイムカードを叩きつけておさらばする事にした。
「あれ、伊崎さん。珍しく定時上がりなんです?」
 タイムカードを音速で叩きつけたあたしの背中に、同僚の不思議そうな声が掛かった。
「そ。今日は予定有るのよ」
「あぁ~、今日バレンタインですもんね。推し活的なアレでしょ?」
「そうそう、推し活的な……」
 刺したばかりのタイムカードを手に取って確認する。
 2月14日 17時00分 退勤
「……うはぁ~、そっか、今日バレンタインだ……」
「え、伊崎さんにしては珍しい~、忘れてたんですか?」
「忘れてたね……何か色々有り過ぎて頭からすっぽり抜け落ちてたっぽい……」
 ここ数日、怒涛の展開が有って、頭が日付と言う概念を蒸発させてしまっていたように思う。
 そうか、バレンタインデーか。折角なら帰りにジンちゃんにチョコでも買ってってあげたいな。
 併しうっかりしていた……確かFPでも数日前からバレンタインデーイベントを開催してた筈なのに、最近インしてもチャットだけで終わってたから何もしてない……迂闊だったなぁ……
 ともあれそんな日にお呼び出しを喰らうとは中々ツイている。これで心置きなく自然とジンちゃんにチョコを渡せるってもんだ。
 折角ならちょこっと高価なチョコレートでも……いやいや、学生さんが遠慮してしまうような奴はダメだ、引かれてしまう。
 やっぱり定番のお菓子系……? それだとあまりにカジュアル過ぎるか……? う、うーん?
「……伊崎さん? タイムカード押したなら退いてくれません? あーしも早く帰りたいんですけどー」
 同僚が迷惑そうに背中を突いて来て、あたしは慌てて「ごめんごめん、ちょっと呆っとしてた」と場所を譲り、早足に駐車場へと向かった。
 こんな事なら予め好きなチョコでも聞いておけば良かったなどと後悔が過ぎるも、致し方なし。遅くなるのも嫌だから、直感で買おう、うん!
 そう思いながらすっかり日が暮れた道をひた走るのだった。


◇◆◇◆◇>>ジン<<◇◆◇◆◇

「遅くなってごめーん!」

 ドタバタと喫茶かしまに飛び込んで来たお客さんは、紛れも無く座長さんだった。
 近くのデパートの紙袋を携えていた座長さんと相対するわたしも、同じ紙袋を抱えている。
「あれ、座長さん、それ……」
 思わずと言った態で呟いてしまうも、座長さんはわたしの紙袋には気づいていない様子で、「あぁ、これ? 今日バレンタインデーだからさ、ジンちゃんにチョコをプレゼントしよう……かと……」と言いながら、やっとわたしの抱えている紙袋に気づいた。
 二人で顔を見合わせ、互いに互いが持つ紙袋に視線が向く。
「え、えぇーっと……実はわたしも、座長さんにチョコを……あげたくて……その……」
 急に恥ずかしくなって、渡すのに戸惑ってしまう。
 座長さんはそんなわたしと同じ想いなのか、照れているのか恥ずかしがっているのか、どこか視線が泳いでいる様子で、「ま、参ったなぁ、まさか同じ事を考えてたなんて……あはは……」と、気もそぞろと言った態で乾いた笑い声を漏らしている。
「何だぁ、会ってそうそうイチャコラしてんじゃないよ。ご馳走様だね」
 もぺ子さんが欠伸を浮かべながら退屈そうに呟いたのが聞こえてきて、互いにかぁーっと顔に血液が充満するのが分かった。
「う、煩いよ!」座長さんがちょっと上擦った声で怒る。「えと、何だ、ともあれだ! ジンちゃんには、はい! これ!」と強引に紙袋を手渡してきた。
「あ、有り難う御座います! じゃ、じゃあ、座長さんも、これ、どうぞ……!」
 おずおずと紙袋を手渡すと、座長さんは嬉しそうな顔をして、「へへ、ありがとね、ジンちゃん」と笑ってくれて、わたしの胸はきゅぅんと締め付けられるのだった。
「えと、早速開けてみても良いかな?」座長さんがソワソワした様子で紙袋の中をチラチラと覗いている。
「ぜひ! わたしも今開けちゃっても良いですか?」わたしも今すぐ確認したくてソワソワしちゃう。
「良いよ良いよ! じゃあ一緒に開けちゃおう!」
 わたしの座っていたテーブル席の対面に座り、座長さんが紙袋を開封していく。
 出てきたのは、酒瓶の形をしたチョコレートの詰め合わせ。
「これって……」座長さんが驚いた表情をした後、何かに納得したように頷いて苦笑を覗かせた。「なるほどね……へへへ、ジンちゃん、ありがと。これ、あたしの好きな奴なんだ~」
「良かった……!」思わず胸がときめきで一杯になりつつ、わたしも紙袋を開けると、出てきたのは、生チョコレートの詰め合わせだった。「わぁ……! これめっちゃ美味しい奴では……!」
「そうそう、めっちゃ美味しい奴……! 一人でチョコパする時買っちゃう奴なの……!」座長さんが嬉しそうに首肯を返してくれた。「すんごい濃厚でね、お酒……じゃなかった、コーヒーが進むんだぁ……!」
 座長さんが、わたしのために選んでくれたチョコと言うだけでも嬉しいのに、自分の好きなチョコを共有してくれたと言う事実があまりにも嬉し過ぎて、胸が一杯になってしまった。
 暫く呆っとしていたけれど、ハッと我に返ったわたしは、おずおずとスマフォーンを取り出して、「あの……パシャっても良いですか……? き、記念に……!」と掻き消えそうな声で尋ねてしまった。
「勿論! あたしも食べる前にパシャっとこ……! 映える撮り方知らんけど……!」
 座長さんもノリノリでスマフォーンを取り出して試行錯誤してるのがあまりにも可愛らし過ぎて、撮影どころじゃなかったけれど、無事に撮影会は終わった。
「何かさ、色々有ったけど……これからも宜しくね、ジンちゃん」
「は、はい! こちらこそ、これからもどうか宜しくお願いします!」
 本当に色々有ったけれど、こうして無事にチョコが渡せただけでも、良かった……
 ……あれ? もっと大事な用件が有ったと思うんだけど……何だったかな。
 幸せ過ぎてすっかり忘れていたけれど、座長さんにコンビニまで送って貰って、家に帰って生チョコを堪能する段階になって思い出すのだった。
「あぁーっ! 告白するの忘れてた……! 好きだって伝えようと思ったのに、これじゃただの友チョコだぁ~!」
 そんな悲鳴が夜中に跳ね上がって、お母さんに近所迷惑だと怒られるバレンタインデーの夜なのだった。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    神否荘に続いてネトゲ百合まで…盆と正月にたこパ開催されちゃうぜ!
    実際に会っちゃったらどうなっちゃうのかって心配も会ったのですが、会ったら会ったでめっちゃ良いw
    こんな騒動を身近で見られるもぺ子さんが羨ましいです!

    いやぁー今日は潤いましたよ!ありがとう!!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想コメント有り難う御座いまする~!(´▽`*)

      盆と正月にたこパ開催!wwwwもうお祭りですね!wwwww(笑)
      取り越し苦労あるある…!ww 会ってみるまでたくさん有った不安も、会ってみたら一気に全部どっか行ってしまう事も有るんですな…!
      確かにもぺ子さん裏山…!ww 傍目に観てる分には最高のエンタメですもんね…!ww(野次馬的なアレ(笑))

      こちらこそ久方振りにめちゃんこ潤いました~! ありが㌧!!┗(^ω^)┛

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいでする~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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