2020年8月31日月曜日

【ポケットモンスター東雲/浅葱】第4話 タッグ・アイス・スモウ!【ポケモン二次小説】

 ■タイトル
ポケットモンスター東雲/浅葱(シノノメ/アサギ)

■あらすじ
ポケットモンスター(ポケモン)のオリジナル地方であるホクロク地方を舞台に、少年少女がポケモンチャンピオンを目指す、壮大な冒険譚です。

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【第4話 タッグ・アイス・スモウ!】は追記からどうぞ。
第4話 タッグ・アイス・スモウ!


「アイテツジムのジムリーダーバトルに就いて説明しますね」

 噴水の上部が凍って湖上に浮かぶ円形の氷結フィールドの上で、コンゴウ兄弟の弟・モンドが小さく咳払いした。それに対しマリルが「ピュゥッ!」と相槌を打つように鳴き声を上げる。
「僕らがバッジを挑戦者に与える条件は……Tag・Ice・Sumou(タッグ・アイス・スモウ)……通称ティスで、僕らに勝利する事」そう宣言したモンドに、コンゴウ兄弟の兄・ダイヤが肩に手を回して微笑んだ。「ティスのルールはトゥー・イージー! 相手のポケモンを瀕死にさせるか、――アイススモウフィールド……この氷の土俵から相手のポケモンを落とした時点でヴィクトリーネー!」
「相手のポケモンを瀕死にさせるか……」アサギが怪訝そうに呟いた言葉尻を奪うように、シノノメが後を継ぐ。「相手のポケモンを、土俵から落とせば、勝ち……?」
「YES!」グッと元気良くサムズアップするダイヤ。「トゥー・イージーなルールデショー? さぁ、ゴングはもう鳴ってマース! いつでもカムオーン!」
 クイクイ、と手招きするダイヤに、シノノメはアサギと目を合わせ、小さく頷き合った。
「ディ子! ひのこ!」「ナックラー! どろかけ!」
 シノノメとアサギが同時に攻撃指示を発した瞬間、ディ子とナックラーが同時に動き出した。
 氷の土俵を駆けながら、ディ子はパルシェンに向かって火の粉を放ち、ナックラーはその場から動かずに口から泥を吐き出した。
 それに対してコンゴウ兄弟は互いに視線を交わす事も無く、即応するように同時に邀撃の声を上げた。
「パルシェン、からにこもる!」「マリル、みずでっぽう!」
 火の粉を浴びたパルシェンだが、頑丈な殻に籠られてはダメージが通らず、ナックラーの泥もマリルの水鉄砲で相殺されてしまった。
 シノノメはその結果を確認する前に土俵を駆け始め、ディ子と並走するように指示を出す。
「ディ子! かみつく!」
「ワゥーッ!」
 パルシェンに急接近して殻ごと噛みつこうとするディ子だったが、ダイヤはそれを見越していたのか、「パルシェン、からにこもるだ!」と継戦を指示。
 その間にマリルはモンドの指示を待つまでも無くふわふわと軽い足取りでディ子に肉薄し、ディ子が接近に驚く間も無くモンドは間髪入れずに「マリル、みずでっぽう!」と吼えた。
「ピュゥーッ!」マリルの口から吐き出された放水に、「ワフーッ!?」ディ子はパルシェンに歯を立てる事も出来ずに吹き飛ばされた。
「チッ――ナックラー、すなかけ!」
 機動力の有るマリルがディ子に向かうと、同様に機動力の有るディ子が封殺されてしまう。ナックラーは鈍重な素早さ故に、機動力では両者に敵わないが、その攻撃力はぴか一だ。ならばとパルシェンに狙いを定めてにじり寄りながら砂を掛けるが――
「――パルシェン、更にからにこもる!!」
 ダイヤ同様、パルシェンはその場から微動だにせず、ひたすら防御力を高めていく。ビキビキと硬質化していく堅牢な殻に砂を掛けても、効果は殆ど見込めない。
 その間に自由に動き回れるマリルが更に場を引っ掻き回す。ディ子を水鉄砲で吹き飛ばしてすぐに、砂を掛けた直後で隙を見せているナックラーに向き直った。
「マリル、あわ!」
「ピュゥ!」
 ぽわぽわと口から泡を噴き出すと、それは氷の土俵に敷き詰められるようにどんどん増えて行く。
 ナックラーもそうだが、ディ子も泡に足を取られて上手く動けなくなってしまう。
「うぅ、強い……!」
 ディ子が見る見る弱っていくのを視認しながら、何とか打つ手は無いかと拱くシノノメ。アサギも挽回のチャンスを伺っていたが、そんな猶予さえ与えないとばかりにマリルが更に攻勢に出る。
「マリル、たいあたり!」
「ピュワーッ!」
 氷結した土俵に敷き詰められた泡に足を取られていたディ子にたいあたりするマリル。直前にシノノメが「ディ子っ、避けてっ!」と咄嗟に指示を出すも、間に合わずに直撃――反動でディ子の体は宙を舞い、氷の土俵の外へ投げ出されてしまった。
「ディ子ーっ!」
 咄嗟に氷の土俵を自ら飛び降りてディ子に駆け寄るシノノメ。ディ子は軽々と吹き飛ばされはしたが、ダメージ自体は軽微だったようで、プルプルと体を震わせて全身の水気を弾くと、「ワフン!」と無念そうにシノノメを見上げた。
「良かったぁ……怪我は無い?」
 マリルの体当たりの直撃を受けた横腹辺りを摩るも、ディ子は何とも無さそうに「わう!」と小さく元気良く吼えた。
「クワーッ!」「――ナックラー!」
 丁度その瞬間、頭上の氷の土俵からナックラーが落ちてきて、同時にアサギの悲鳴が重なった。
 泡だらけになったナックラーはフラフラと立ち上がるも、「クワワ……」と辛そうに声を上げてうずくまってしまった。
 シノノメと同じように氷結した土俵から飛び降りてきたアサギは、ナックラーの元に駆け寄り、纏わりついた泡を丁寧に払っていく。
「HAHAHA! 残念だったネー! ボーイ・アンド・ガール!」頭上の土俵から、仁王立ちで二人を見下ろす筋肉お兄さん。「まだまだ練度が足りないヨー! もっともっと、鍛え直してからカムオーン! HAHAHA!」
「僕らはいつでも再挑戦を受けるから、気軽にまた挑んできてね」ダイヤの隣で優しげに微笑むモンド。「でも――何の対策もせずに再挑戦するのは、君達にとっても、ポケモンにとっても、きっと悪い結果になる、とだけ忠告しておくよ」
 ダイヤの高笑いを浴びながら、シノノメとアサギは、絶対的な敗北感に打ちひしがれるのだった。

◇◆◇◆◇

「――どうやらこっ酷く負けちゃったようね?」
 ポケモンセンターで受付のお姉さんにディ子とナックラーを預けた二人に、彼女は苦笑を浮かべて同情の声を掛けた。
 シノノメは眉をハの字にして、「……強かった……全然、敵わなかった……」と溜め息交じりに呟き、アサギは悔しそうに歯を食い縛っている。
 そんな沈痛な二人の若人に、受付のお姉さんは励ますようにポンポン、と肩を叩いた。
「初めてジムリーダーに挑んだんだもの、今までのトレーナーとは訳が違うわ」俯いている二人に言い聞かせるように、受付のお姉さんが語り掛ける。「お兄さんの方は特にふざけているように見えるけど、このアイテツシティのジムを任されるだけの実績と実力を兼ね備えている、アイテツシティ最強のトレーナーなのよ? 初めてなんだから、負けても当たり前よ。そう簡単に勝てる訳が――――」
「――おれは誰にも負けないッ!!」
 ポケモンセンターが深、と静まり返るほどの怒声に、隣にいたシノノメも驚きに目を見開いた。
 涙目になり、歯を食い縛り、悔しそうに俯いているアサギだったが、袴の裾を握り締めたまま、それでも抗おうと――受け入れ難い現実を拒絶しようと、懸命に耐えていた。
「おれは、チャンピオンになる……ナックラーと一緒にだ」カウンターに置かれたモンスターボールを手に取り、中から己を見つめるナックラーと視線を交わし、アサギはシノノメに背を向けて出口へ向かって歩き出した。「こんな所で躓いている訳にはいかない……負けてなんて、いられないんだ……!」
 静かに言を落として、アサギはポケモンセンターを立ち去った。
 それを見送ったシノノメは、ハッと我に返ると、カウンターに戻されたモンスターボールを手に取り、すぐにディ子を外に出した。
「……お姉さん」ディ子を抱き上げると、シノノメは受付のお姉さんを見上げる。「お姉さんの言ってる事、間違ってないと思う。でも……」強い眼差しで、シノノメは言った。「でもね、“負けても当たり前”なんて、そんなのあたし、嫌」
 強い光の点った瞳に見つめられ、受付のお姉さんは一瞬驚きに目を瞠るも、すぐにばつが悪そうに目を逸らすと、口の端を掻きながら、小さく俯いた。
「……ごめんね、シノちゃん。アサギ君にも、悪い事言っちゃったわね」申し訳無さそうに頭を下げる受付のお姉さん。「そうよね、ポケモントレーナーに、“負けても当たり前”なんて、侮辱に尽きる発言だったわ。アサギ君にも、後で謝っておかなくちゃ」そう言って柔らかい微笑を浮かべると、ディ子の頭を優しく撫でる受付のお姉さん。「ディ子ちゃん、あなたのトレーナーは、心がとっても強いのね。アサギ君も……」
「わふ!」と嬉しそうに吠えるディ子に、シノノメも続くように、「だってあたし、チャンピオンになるんだもん! ねーっ? ディ子!」とディ子の顔に頬を押し当てて微笑む。
 そんなシノノメとディ子を慈しんで眺めていた受付のお姉さんは、思い出したように手を合わせると、「じゃあ、もうコンゴウ兄弟に再挑戦する対策は考えてるのかしら?」と小さく首を傾げた。
「…………まだ」俯いて、小声で応じるシノノメ。「でも、アサギも言ってたけど、こんな所で躓いてられないよ! まだ一つ目のジムなんだよ? まだ七つも残ってるのに!」と力強い瞳を受付のお姉さんに注ぐ。
「決意は揺らいでないみたいだけど、まだ考えが纏まらないのね?」苦笑を滲ませる受付のお姉さん。「お姉さんは、やっぱりポケモンには相性が有ると思うのよ」
「相性?」「わふ?」シノノメとディ子が一緒に疑問符を乗っけた頭を傾げる。
「シノちゃんのディ子……ガーディはほのおタイプ。アサギ君のナックラーはじめんタイプ。どちらも、コンゴウ兄弟のみずタイプのポケモンとは、そもそもタイプ自体、相性が悪いのよ」受付のお姉さんは指揮者のように指を振って続けた。「ディ子には、荷が重過ぎるんじゃないかしら?」

◇◆◇◆◇

「ディ子じゃ、荷が重い、かぁ……」
 ポケモンセンターを後にして、アイテツシティに在るバックパッカーや流れのポケモントレーナーが宿泊する安宿の客室で、シノノメは嘆息と共に弱音を漏らした。
 ベッドに腰掛けるシノノメの足元で、ディ子は「くぅん……」と心配そうに鼻を鳴らして彼女を見上げていた。
 ほのおタイプのポケモンは、みずタイプのポケモンに弱い。
 じめんタイプのポケモンは、みずタイプのポケモンに弱い。
 今までだって、ウノハナタウンからアイテツシティの間の161番道路で、何度もポケモンバトルはしてきた。その中には、みずタイプのポケモンを手持ちに加えているトレーナーだって、勿論いた。
 それでも、シノノメは今まで戦ってきた。負けた事だって、当然有る。それでも勝てた事だって、その倍以上有る。だけど……
 コンゴウ兄弟のあのコンビネーションもそうだが、全く勝機を見出せないのだ。
 絶対的なポケモンの相性は、理解しているつもりだ。それでも今まで勝ててきたからこそ、今回も解決策が有ると信じて、対策を練り、作戦を練り、突破口を開こうと考えているのだが……
「……あたしにはまだ早かった――――なんて、言いたくないもんね」
 ディ子を抱き上げて、視線を合わせる。ディ子もシノノメと同じ、勝利を信じる瞳で、「ワオン!」と短く吼えた。
「絶対に、糸口は有る筈だよね」ディ子に応えるように、シノノメは頷いた。「まだ冒険は始まったばかりだもん、こんな所で挫けてられないよ!」
 決意新たに立ち上がろうとして、へたりとベッドに座り込んでしまうシノノメ。室内の時計は夜の十時を表示していた。
「でも今日はもう無理~、また明日、頑張ろうね、ディ子~」
「わふぅ」
 着替えもせずにベッドに横になってしまうシノノメを見下ろして、ディ子はせっせと布団を彼女に掛けてあげると、掛けてあげた布団に潜り込み、シノノメの胸元に納まると、「わふ」と小さく欠伸を浮かべて、灯りの点いた部屋で眠りに就くのだった。
 シノノメとディ子の前途多難な冒険の一日目は、そうして緩やかに幕を下ろすのだった。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    もー袴萌は3度気絶するw
    そして「袴の裾を握り締めたまま、…」のところで止めを刺されるのです。
    さすが先生、お見事です。

    ついに始まったバトル。まぁ最初からうまくはいきませんよね。
    ここからどうやって立て直すのか楽しみです。
    負けるな朝葱くん!頑張れ東雲ちゃん!!
    ぜひともダイヤ兄貴に「うー……日頃の無理が祟ったみたいデース……。」と言わせてやってください!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想コメント有り難う御座います~!

      3度気絶するwww
      何と無く「このポイントでとみちゃんどんな反応するんだろう…」と思っていたところだけに噴き出しましたwww止めを刺してしまったー!www
      とみちゃんも中々のお手前です、有り難う御座います。(なんのこっちゃww)

      初めてのジムリーダー戦ですからね、中々最初からうまくはいかない模様です。
      ですです! ここから如何に立て直すかが、成長の鍵、冒険の醍醐味ですから!
      二人の応援、ぜひとも宜しくお願い申し上げまする~!!
      ダイヤ兄貴の元ネタを確り把握されてるとみちゃんがGJ過ぎてヤバいです…!ww(笑) ぜひ言わせてやりたいその台詞…!ww

      今回も楽しんで頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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