2020年9月2日水曜日

【ポケットモンスター東雲/浅葱】第5話 強くなくても、勝てるバトル?【ポケモン二次小説】

 ■タイトル
ポケットモンスター東雲/浅葱(シノノメ/アサギ)

■あらすじ
ポケットモンスター(ポケモン)のオリジナル地方であるホクロク地方を舞台に、少年少女がポケモンチャンピオンを目指す、壮大な冒険譚です。

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【第5話 強くなくても、勝てるバトル?】は追記からどうぞ。
第5話 強くなくても、勝てるバトル?


「――アーサギっ!」

 アイテツシティの相撲場――昨日ジムリーダー戦を繰り広げた広場の一角――土俵上では、トレーナー同士がポケモンバトルを行っている姿が見受けられた。
 それはジムリーダーであるコンゴウ兄弟ではなく、この町のトレーナーか、或いはアイテツシティに訪れたばかりのトレーナーか、それは判然としないが、楽しそうにバトルに興じている姿に好感を懐く。
 ミニスカートの少女はヨーテリーを、相対する短パンの少年はウパーを繰り出して、土俵を走り回りながら大立ち回りを演じている。
 そのバトルをモンスターボールから出したナックラーと具に観察していたアサギの肩に、シノノメの手が降り立った。
 アサギは振り返る事無く、ヨーテリーとウパーのバトルを注視している。
「ヨーテリー! にらみつける!」
 ミニスカートの少女がウパーを指差して指示を上げると、こいぬポケモンのヨーテリーの眼光が鋭くなった。
 睨みつけられたウパーは怯えた様子で縮こまるも、短パンの少年は即座に「ウパー! マッドショット!」と切り返す。
 一瞬縮こまったみずうおポケモンのウパーは、短パンの少年の指示に後押しされる形で口から泥を吐きかける。
「避けてヨーテリーっ!」ミニスカートの少女の悲鳴も空しく、泥を浴びてしまったヨーテリーは動き難そうに泥塗れになってしまう。「うぅ……! ヨーテリー! たいあたり!」
「オォーンッ!」咆哮を上げてウパーに飛び掛かるヨーテリーだが、素早さが足りない! 短パンの少年が指示を出すまでも無くウパーは飛び下がり、ヨーテリーから距離を取る。
「トドメだ! ウパー、みずでっぽう!」
「プァーッ!」
 ウパーの口から噴射された放水にヨーテリーは水浸しになり、そのまま動かなくなってしまった。
「あーん! 戻ってヨーテリー!」
 モンスターボールにヨーテリーが帰還し、ミニスカートの少女は残念そうに項垂れると、「負けたわ……でも、今度は負けないから!」と短パンの少年を指差すと、そそくさとポケモンセンターの方角に逃げて行った。
 短パンの少年は「いつでも受けて立つぜ! へへっ、やったなウパー!」と鼻の下を指で擦った後、ウパーの頭を誇らしげに撫でて、また新たなトレーナーを求めてだろう、土俵を降りて広場を後にしていった。
「……研究中?」ぽそりとアサギに囁くシノノメだが、その視線は彼にではなく、今ポケモンバトルが終わったばかりの土俵に向けられていた。「みずタイプのポケモンが相手だもんね。あたし達のポケモンだと、相性が――」
「おれは、タイプ相性のせいで負けたとは思ってない」ぴしゃりと言い放ったアサギは、眼光鋭くシノノメを睨み上げた。「高が相性、と言うつもりは無い。けれど、相性が悪かったから負けた、なんて言い訳、おれはしたくない」
 歯を食い縛って痛みに耐えるような表情を見せるアサギに、シノノメも神妙な面持ちで頷き返した。
「あたしも、アサギと同じ」座り込んでいたアサギの隣に、ストンと腰を落として、膝の上で腕を組むシノノメ。「相手がジムリーダーだから負けた。ポケモンの相性が悪かったから負けた。そんな言い訳してたら、ずっと言い訳に逃げちゃう気がするんだ。あたし達は、チャンピオンを目指してるんだもの。勝つのが当たり前じゃないと、おかしいよ」
 隣に座り込んで土俵を見つめるシノノメの眼差しを、チラリと横目に一瞥したアサギは、小さく口唇に笑みを刷いた。
 そうだ、シノノメとはこういう女だ。アサギとは異なる思想でありながらも、確りと前を見据え、バトルの先、勝利の先を求めて、努力を熟し、知恵を絞り、可能性を掴む。ポケモントレーナーとして、ポケモンバトルを行う者として、ちゃんとした知見を有しているのだ。
 ただ、それ故にアサギと衝突する事は多かった。勝利と言う結末にこそ執着すべきとするアサギと、勝利に至る工程こそが肝心だとするシノノメ。
 勝つためには手段は選んでいられないとアサギ自身は考えるが、シノノメはきっと違うだろう。
 ポケモンバトルは、ポケモンの数だけ、トレーナーの数だけ、両者の組み合わせの数だけ、可能性が鏤められている。
 であれば、あの難攻不落に等しいティスにも、アサギとシノノメの二人にしか選び取れない勝利の道筋が、必ず隠されている筈だ。
「ねぇアサギ。アサギは、あのパルシェン、倒せると思う?」
 アサギの名を呼んでこそいたが、シノノメのその言葉はどこか宙に浮いていて、まるで独り言のように、大気に溶けていった。
 アサギはシノノメが反応を求めているように感じなかったため、静かに彼女が辿り着くであろう回答を待つ。
 ウパーと一緒に喜んでいた短パンの少年が、土俵から降りていく様子を見つめながら、シノノメは「ううぅ~ん……」と腕の中に顔を埋めてしまった。
「ワフン?」ディ子が困り顔でシノノメに寄り添う。
「……倒せないと思う。ううん、あのパルシェン、あたし達じゃ倒せない。そんな気がするの」
「……おれのポケモン――いや、おれ達のポケモンが弱い、と言いたいのか?」険のこもった声を、シノノメに突き刺すアサギ。「強さが……レヴェルが足りないと言うのなら、そこの土俵でまたポケモンバトルするか?」
「ううん、あたし達が弱いんじゃなくて……確かにパルシェンは強かったけど、そうじゃなくて……」ブツブツと呟くシノノメ。「何て言うんだろ、ポケモンのジムって、あたし初めて挑むからよく分かんないんだけど……ポケモンって、強くなくちゃ勝てないの?」
「……当たり前だろう」はぁ、と面倒臭そうに溜め息を落とすアサギ。「ポケモンがバトルをするんだぞ? 強くなくちゃ――――」
 不意にアサギの声が止まる。
 何か見落としていた事に、ハッと気づいたのだ。
 勿論、ジムリーダーと呼ばれるぐらいだから、ポケモンは当然強いに決まっている。挑むトレーナーも、ポケモンを強く育てていなければ、バトルにすらならない。それは当然だ。
 当然だが、ならば――ジムリーダーを圧倒できる強さを得られるまで、どこのジムリーダーにも敵わないと言う事にならないか……?
 八つも有るポケモンジムが、皆同じ強さを有しているのであれば。ポケモントレーナーは、その一ヶ所のポケモンジムに勝てさえすれば、後はどこも同じように勝てる、と言う事になる。
 逆に、八つのポケモンジムがそれぞれ異なるレヴェルのポケモンでバトルに応じると言うのであれば、ポケモントレーナーは強さの順でジムに挑んでいくのが自然な流れになる筈だ。
 その流れを誰も口にせず。剰えポケモンセンターの受付嬢ですら、そんな事は一言も口にしなかった。
“初めてなんだから、負けても当たり前”としか言っていない。
“ジムリーダーに挑むのは早い”とも、“このポケモンジムから挑むべきではない”とも、一切言っていないのだ。
 勿論、要らぬお節介を焼かぬために閉口していただけの可能性は大いに有る。けれどアサギは、あのお節介な受付嬢が、ポケモントレーナーとして活動し始めたばかりのシノノメに、情報解禁したあのタイミングで何も助言を口にしなかったのは――“その必要性が無かったから”だと、邪推する。
 どこのポケモンジムから挑んでも問題無いのであれば、ポケモンの強さが一番大事、と言う訳ではないのだろう。
 自分のポケモンが弱いと思っている訳ではないが、アイテツジムのパルシェンと直接バトルをしてみて得た実感は、あまりに強さが掛け離れている、と言う事。
 マリルにしてもそうだ。ナックラーの攻撃は悉く躱され、翻弄されるように土俵から落とされてしまった。
 バトルにすらならないレヴェル差なのに、誰も止めようとはしない。つまり……!
「……ポケモンバトルじゃなく、別の方法で勝つ、と言う事か……?」
 アサギの意図せず漏れ出た独り言に、シノノメは、「そう! それ!」と顔を上げて素早く首肯を返した。
 シノノメが言語化できない違和感を、アサギが時間を掛けて咀嚼し、昇華する。
 ウノハナタウンで、互いにポケモンチャンピオンを目指そうと遊んでいた頃の感覚が、戻ってくる。
 アサギはシノノメを、シノノメはアサギを、互いに真剣に見つめ合い、ニヤリと口の端を笑みの形に歪ませた。
「ねぇアサギ。あたし達なら、きっと……ううん、二人で力を合わせたら……」
「――あぁ。シノノメとディ子の力を借りれば……勝てるぞ、このジム……!」
 二人は頷き合うと、早速作戦タイムだ! と言わんばかりに地面に落ちていた枯れ枝を使って、砂地に線を引いて仮の土俵を引き、やんややんやと話し合いを始めた。
 その姿を遠巻きに見つめている、一人の青年の姿が有ったが、二人が気づく様子は無かった。
「どうなる事かと思いましたが……予想以上に理解が早いと言いますか。これはアイテツジムを突破されるのも、時間の問題のようですね」
 謎の青年はクスリと微笑むと、クルリと踵を返して立ち去って行く。
 周囲の人間は、謎の青年が顔に付けている鳥の顔を模した仮面を見てギョッと目を瞠るも、謎の青年は意に介した様子も無く、淡々と雑踏に姿を埋没させていくのだった。

◇◆◇◆◇

 シノノメとアサギの作戦会議が始まって暫くした頃。
 謎の青年の気配は遠く、太陽が中天に差し掛かって、燦々と陽光を浴びせる時間になり、二人のお腹から可愛らしく空腹を訴える声が聞こえだした。
「アサギ、お昼ご飯にしよっ!」地面に描き出した図面を両手でわしゃわしゃと掻き消しながら、シノノメが顔を上げた。「腹が減ってはバトルは出来ぬ! ってコトワザも有るしね!」
「そうだな、そろそろ昼ご飯に――」同調するように顔を上げるアサギだったが、ふと、何で自分はシノノメと――ライヴァルであるシノノメと一緒に作戦会議したり、お昼ご飯を一緒に食べようとしたりしてるんだ? と気づき、思わず舌打ちしてしまう。「おい。おれとお前はライヴァルだろ。何だって一緒にお昼ご飯を……」
「えーっ? アサギは頭が固過ぎるよ~!」立ち上がりながら頬を膨らませるシノノメ。「あたしとアサギはライヴァルだけど、今は一緒にアイテツジムを攻略する仲間じゃん! だったら、一緒にお昼ご飯を食べても良いんじゃない?」
「……」言い包められている気がしないでもないが、こうなってしまったシノノメは梃子でも動かない事を知っているアサギは、諦めた様子で溜め息を落とし、「……それで、お昼ご飯は何にするんだ?」と、普段の数倍穏やかな眼差しで見つめ返す。
「どうしようかな~……」
 う~ん、と唸りながら、顎に指を添えて空を仰ぐシノノメの元に「オゥ! ランチに困ってるならスイーツとかどうデスカ~!?」と、けたたましい男声が飛んできた。
 二人が振り返った先には、あの筋骨隆々のお兄さん、ダイヤがポージングを決めながら真っ白な歯を輝かせていた。
「筋肉お兄さん!」「……」シノノメが思わず指差しながら叫び、アサギは怪訝な面持ちで無言のままダイヤを睨み据える。
「ヘイ! 筋肉お兄さんって言われるのも満更じゃないケドネ、ダイヤお兄さんって呼んで欲しい……カナ!?」キリリッと歯を輝かせながらポージングを切り替えるダイヤ。
「筋肉お兄さんの方がカッコ良くない? そう思わないアサギ??」「おれに振るな」
「ともかくダ! お腹が空いてるんデショー? アイテツシティ屈指のスイーツを紹介しようと思うのだけど、如何カナー?」
「アイテツシティ屈指の……!」「……スイーツ?」
 シノノメが瞳を爛々と輝かせ、アサギが惚けた様子で小首を傾げるのだった。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れさまですvv

    なんかこう二人の成長ぶりを見ていると、キラキラ眩しすぎてうらやましいというかなんというか…け、け、決して袴だけではないデース。
    筋肉お兄さんぶっとばせぇーvv

    ポケモンよく知らないせいかめっちゃ楽しんでますがなw袴だけではないデースw
    きっと良いコンビになるとおもうんだけどなぁ~v

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想コメント有り難う御座います~!

      袴だけではなかった…!w と言う情報を得られただけで満足度がヤバい…!ww
      筋肉お兄さんぶっ飛ばせぇーっ!www 筋肉お兄さーん!www

      おおお!ww ポケモンを知らない事で逆に楽しめる…!w めちゃんこ嬉しいですぞ~!ww 有り難う~!!
      ですです!w 何だかんだ、良いコンビしてるんですよこの二人!w

      今回も楽しんで頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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