2022年10月15日土曜日

【神否荘の困った悪党たち】第92話 ドブネズミ★ゴリ蔵【オリジナル小説】

■登場人物
・二糸亞贄(フタイト アニエ)/主人公。神否荘(かみいなそう)の管理人。苦労人。
・奈森崋斬(ナモリ カザン)/通称ナモ。アニエの唯一の友達。やっぱり何かおかしい。
・式子(しきこ)/通称式子さん。可愛らしい式神。スマフォーンを作って貰ってる。
・錐原砂月(キリハラ サツキ)/通称砂月ちゃん。能力者の女子高生。アイ×アニの作者。

■あらすじ
・式子さんのスマフォーンを発注したので待機中。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】の二ヶ所で多重投稿されております。



【第92話 ドブネズミ★ゴリ蔵】は追記からどうぞ。

第92話 ドブネズミ★ゴリ蔵


「あれ、皆さんお揃いで何してるんですか?」

 式子さん用のスマフォーンが届くのを待ちながら、中庭に向かって足を投げ出して廊下でダラダラしてたら、砂月ちゃんが部屋から出てきたところと鉢合わせた。
「丁度良かった。砂月ちゃんもルァイン入れない?」ナモが言う前に声を掛けてみる。「実はマナさんが、神否荘の皆にルァインを入れたがってるみたいで」
「ルァインですか~……」どことなく気乗りしない様子の砂月ちゃん。「う~ん、まぁ、いっかぁ~」
「無理に入れなくても良いよ~、嫌なら嫌って言って欲しい~」困ってる風に見えて思わず声を掛けてしまう。「ほら、学生さんだとSNSのトラブルとかも有ると思うし~」
「あー、いや、そういうんじゃないんですけど……」砂月ちゃんは困った風に腕組みする。「元々ルァインは入れようと思ってたんですけど、入れたら編集部にも連絡しなくちゃで……」編集さんと仲良くないのかな……?「原稿の進捗を訊かれる頻度が上がりそうで……」にゃるほど納得しかない。
「そういう事なら別に入れなくても良いんじゃないかなぁ。或いは編集さんとは繋がらない方向で行くとか」ルァインについてあんまり詳しくないけど、そういう事が出来ると思うんだよね。
「まぁアレですよ、こういうのも創作活動に活かせるかも知れませんし! 物は試しで入れてみましょう!」ポジティヴ砂月ちゃんだ!「今スマフォーン取ってきますね!」と、トコトコ部屋に戻って行った。
 すぐに帰って来た。
「入れてきました!」早い!「そして即編集さんに捕捉されました……」編集さんも早い!
「もう絡まれてるの?」編集さん、本当に仕事をしてるのか不安になる早さだ。「ちょっと見ても良い?」
「良いですよ~、このドブネズミ★ゴリ蔵って人が編集さんです」聞き覚えのある編集さんだと思ったらそう言えばこの間防犯訓練で知った名前だから黙っておこ。

ドブネズミ★ゴリ蔵「先生ルァイン始めたんですね」
ドブネズミ★ゴリ蔵「ところで原稿の進捗どうですか?」
ドブネズミ★ゴリ蔵「先生、返信の仕方は分かりますか?」
ドブネズミ★ゴリ蔵「原稿が思わしくない感じでしょうか?」
ドブネズミ★ゴリ蔵「♪着信♪」
ドブネズミ★ゴリ蔵「先生、電話出られませんか?」
ドブネズミ★ゴリ蔵「♪着信♪」
ドブネズミ★ゴリ蔵「先生、無視しないでください」
ドブネズミ★ゴリ蔵「既読スルーされてるのは分かっています」
ドブネズミ★ゴリ蔵「先生、今そちらにお伺いしても?」
ドブネズミ★ゴリ蔵「♪着信♪」
ドブネズミ★ゴリ蔵「先生、今から伺いますので準備しておいてくださいね」

「ヤバ過ぎる……」俺は恐怖でチビりそうになったよ。
「ですよねぇ。ドブネズミ★ゴリ蔵さん、何か面倒臭い彼氏面してる感じで面倒臭いんですよねぇ……因みにこれデフォルトです」ヤバ過ぎる……
「ひょえー、ばいおれんす味を感じるルァインだぜこりゃぁ」ナモがテケトー言ってる。「こんな勢いで催促来たら俺なら原稿を投げ捨てるね」俺もそうだね。
「これルァインだからこんな感じですけど、普段電話は一日八回はデフォルトですからねドブネズミ★ゴリ蔵さん」原稿どころじゃなくない??「原稿が早く欲しいのは分かるんですけど、面倒臭くて最近ずっと無視してます」そうなるよね……
「って、神否荘に来るって言ってるけど、これ大丈夫なの?」思わず式子さんに顔を向けてしまう。「やっぱり何かしゅごいアレ的な事される感じ?」ナモが初めて来た時の事を思い出してしまう。
「ドブネズミ★ゴリ蔵さんはよくいらっしゃるので特に制限してませんよ!」式子さんがふわふわしてる。「砂月さんの許可も得てますので、今のナモさんみたいに自由に出入りしてます!」そんな頻度で来てたんだ知らなかった。
「へぇ~、じゃあ今初めてドブネズミ★ゴリ蔵さんと会えるかも知れないんだ」ちょっとドキドキしちゃう。「編集さんって会った事無い……いや有ったな」お米大好きな編集長を思い出しちゃった。「あれ? そう言えば神子さんは担当編集じゃなくなったの?」そう言えば最近名前を聞いてないまであった。
「神子ちゃんですか? あの人編集長ですし、今は月正先生にご執心なので、自分の担当じゃないんですよ~」そう言えば月正先生、今頃どうしてるんだろう……って悶々しちゃった。
「じゃあ今の担当編集さんがドブネズミ★ゴリ蔵さんって事なのか」名前がもうアレだけど、マトモな人じゃないのはさっきのルァインで察した。「会ってみたい気もするけど、触らぬ編集さんに祟りなしな気がする……」もう部屋に帰ってニャッツさんとゲームしたい気持ちで一杯だ。
「お邪魔します」突然聞き慣れない声が聞こえてきた。「錐原先生の原稿を頂きに参りました」
 振り返ると、黒々としたゴリラがのっしのっしと歩いて来ていた。
「ウワァーッ」思わず悲鳴が出ちゃった。
「どうされましたか?」ゴリラが驚いた声を上げた。「何か顔に付いてます?」とゴリラが顔をペタペタ触り始める。
「あ、いえ、そのぅ……」ゴリラが平然と日本語を話してるのを見て言葉を失ってる。
「ゴリラじゃん」ナモが余裕で言っちゃった。
「そうそう、あのゴリラが自分の担当編集のドブネズミ★ゴリ蔵さんです」砂月ちゃんが丁寧に説明してくれた。「ドブネズミ★ゴリ蔵さん、こちらが先輩の二糸亞贄さん。アイ×アニのモチーフになった、あの……」
「あぁ、貴方が錐原先生の……」ゴリラが――じゃなかった、ドブネズミ★ゴリ蔵さんが神妙な顔で頷く。「初めまして。錐原先生の担当編集を任されております、ドブネズミ★ゴリ蔵と申します。あ、こちら名刺になります」と、ごわごわした胸毛から名刺が出てきた。
「ど、どうも……」ちょっと湿ってる名刺を受け取るよ。
【週刊神童誌ゴッド 編集部 ドブネズミ★ゴリ蔵】とだけ記された名刺だった。
「いつも錐原先生がお世話になっております」ペコリとお辞儀を見せるゴリラ……じゃなかった、ドブネズミ★ゴリ蔵さん。「本日は錐原先生の原稿を頂きに参りましたが、先生、原稿の進捗は如何ですか?」
「だからまだって言ってるじゃないですかぁ~。昨日からもう七十回は言ってますよ」頭がおかしくなりそうな数だ。「今丁度山場を迎えてるんで、たぶん明後日には出来ますってもう四十回以上言ってますよ~」
「そう言われましても、錐原先生の事ですから、突然“何か出来たぁ~”って言い出しかねませんし、常に動向を伺っておかねばならないのは確かでしょう」砂月ちゃんが信頼と実績を築いてるのがよく解る。「それで、今の進捗率は如何程でしょうか。二十五分前に確認した時は七十六点二パーセントと仰っていましたが」そんなに細かく知りたいの??
「ん~、アレなんですよね~、何かこ~、ガッと来る展開がぬぬって来たらもう少しでアレなんですけどね~。アニエがどうもこう、ちょっとカカッとしなくて……」俺がカカッとしないって何??
「つまり七十九点八パーセントまでは来てると」ゴリラ……じゃなかった、ドブネズミ★ゴリ蔵さんがごわごわした胸毛からメモ帳を取り出して丁寧にメモしている。「分かりました、また十分後に連絡を入れます」入れ過ぎまである。
「折角なら出来上がったとこまで見て行きます~?」「見ます」砂月ちゃんが呟いた瞬間即答するゴリラ……じゃなかったドブネズミ★ゴリ蔵さんがなるほど担当編集さんだって感じさせた。
 部屋に戻って行って、すぐ帰って来た砂月ちゃんは、原稿をゴリラ……じゃなかったドブネズミ★ゴリ蔵さんに手渡す。
 ゴリラ……じゃなかった、ドブネズミ★ゴリ蔵さんは原稿を受け取って、「それでは失礼して……」と一枚一枚丁寧に捲って確認を終えると、「有り難う御座います」と砂月ちゃんに返した。
 次の瞬間、「ウホウホウホウホ!」と大声を上げながら胸板をドンドコ叩き始めた! これアレだ! ドラミングだ!
 誰も付いていけないまま、三十秒ぐらいドラミングすると、ゴリラは落ち着いたのか汗を拭って爽やかな笑顔を見せた。
「原稿、とても素晴らしかったです。完成を楽しみにしていますね」
 俺とナモは顔を見合わせて、爽やかな微笑を見せ合った。
 やっぱりゴリラじゃん……そう、俺達の顔には書いてあった。

2 件のコメント:

  1. ゴリ蔵、まじゴリラ!!しかもドラミングまで披露!!!もうショックすぎてたこパ日本代表決定。(錯乱

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    1. ゴリ蔵、まじゴリラ!wwwwwwwwたこパ日本代表決定は笑うwwwwwwww錯乱し過ぎまであるwwwwwwwwwwwww(笑)

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